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「コボルドが流れてきたのは間違いない」
「こんな山奥に、やぁねぇ」
「アイツら鉱石に鼻が利くからこの辺、なにかあるかもな」
「そんな都合良く美味い話なんてないわよ」
「ああ、領軍は期待してるかもって話だ」
夕方、三歳の弟リュウをあやしながら、七歳になったナツメは両親の会話を聞くとはなしに聞いていた。
黒パンと水の置かれた食卓にナツメとリュウ、父オーサムが座り、母クリスはみんなに背を向け、かまどにかけられたスープをかき混ぜている。いつもの団欒風景。
「兵士は山に入って討伐とかできるのかしら?」
「できなきゃ村が滅んで領主は破産と無能の評価で自決。意地でもするさ」
そういうものかとナツメはぼんやり思った。貴族といえば平民の安全なんて気にしない自己中心的なイメージがあるけど、守れなかったら色々失うのは自分だもんね、と納得した。
「こういう時は冒険者に頼まないの?」
「お前そりゃ吟遊詩人の創作だろ。アイツらの活動はダンジョンだぞ」
「おぉー、父ちゃん、ダンジョンってなに?」
なんだその素敵な響きは? ナツメは反射的に食いついた。内心父は元軍人からの元冒険者だったのではと疑っている。ただし過去を詮索するのは危険と感じて、無邪気を装い探り探り気をつかって質問するデリカシー少年。
「ダンジョンってのはなー、分からん」
「へぇー」
「下に降りる洞窟とか、上に登る塔とか、わけ分からん場所をダンジョンと呼ぶ」
「へぇー」
「そこにはモンスターがいて、お宝もあって、そこに群がるチンピラを冒険者っていうのさ」
「へぇー」
「もう、あなた、変な言葉を教えないで」
クリスにたしなめられてオーサムはおどけて口をつぐみ、ナツメはこれ以上は踏み込まないよう我慢した。冒険者ってそんな感じなんだ? いや、父の自虐か? 人生経験の足りないナツメには判断が難しい。十分機微の分かる幼児だが。
「にーちゃん、ちんぴってなに?」
「人そっくりのゴブリンだよ」
あ、しまった父の目元に闇が落ちた。ナツメはキュルルンと機転を利かせた。
『やさいスープ(☆)
にんじん、はくさい、たまねぎをにこんだ。
トリガラがうすめ。ぐがとけるてまえ』
「母ちゃん、スープは今がベストだって」
「あらありがと、鑑定スキルは便利ねぇ」
パタパタとスープを器によそい、テーブルに並べる母を眺めつつ、そのままの流れで、あるいは気不味さをなかったことにしたくて、ナツメはかまどの中を鑑定した。
『火
火せい(中) ちん火まで約二時間』
火ってなんだろ? ナツメはふと思った。
『火
燃えるときのげんしょう』
現象? なにか……、変だぞ? ナツメはさらにどう鑑定するか考える。昔と違って今は数千回使っても魔力切れにはならない。そもそも燃えるとはなんぞや。
『火
こうねつをもったたいしょうが、くうきと合わさった
ときのげんしょう』
「父ちゃん父ちゃん、火まほーってあるよね?」
「おう、あるぞ。どうした急に」
「じゃあ、くしゃみまほーってある?」
「くっくっく、どこがじゃあなんだそれ、カワイイな」
だよね。例えば風魔法を使ってほこりを誰かの鼻の穴に運び、くしゃみをださせることは可能……、だと思う。でも、その人のくしゃみの音量とかを操ることは難しい……、と思う。できたとしてだからなに?だし。つまり、火魔法って正体は発火魔法か高熱魔法であって、結果として目に見えるだけの火という現象は操る必要ないよね?
正体は風魔法であってくしゃみ魔法と呼ぶのはバカバカしいように、世の魔法使いは、火魔法とか言ってバカバカしい使い方してない?
見える火の大きさや形なんてどうでもいい。火を大きくしたければ、威力を上げたければ、より高い高熱により多くの空気を合わせればいいのであって、火の大きさや形を操ろうとする火魔法って使い方がズレてない? そもそもソレは風魔法だし。
危険な魔法については親や他の大人たちから聞いたことがあるだけだから、自信をもって結論は出せないけど、ナツメは世間の常識という思い込みに染まる前に疑問をもった。
「父ちゃんも母ちゃんもまほーつかえるよね?」
「母ちゃんは上手いな。俺は使えるってだけでほぼ使ったことねーし」
「はいはい食べるわよー」
「おなかすいたぁ」
翌日、ナツメはオーサムに連れられ森に入った。七歳ともなると親の手伝いくらいはするから、同行は初めてではないけど、今日は初めて攻撃魔法を見せてくれるとのことで、ナツメのテンションは天井を突き抜けている。
「くっくっく、それはよのファイアーボールだ」
「ほらほら、獣道っつっても転びやすいから地面見て歩けー」
「ぼくもとうとうまほーつかいでびゅー」
「いやいきなりは使えねーだろ、あんまり期待すんな」
ナツメはこの数年、鑑定スキルを使いまくって魔力の総量がちょっとおかしいことになっているとかオーサムも、誰も知らない。




