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「気力? 気力ってのはなー、その、なんだ、身体を動かす力のことだよ」
オーサムは今日は山に入らず家の庭というかただの隣り、空き地の切り株に薪を置いて片手斧を機械的に上下して、パッカンパッカン割っていた。
ナツメはそばに座って妄想薪割りリズムゲーで遊びつつ、昨夜現れた謎の言葉を訊ねて、父の答えに首を傾げた。
「げんきってこと?」
「それでもいいが、ニュアンスの問題かな」
オーサムは答えてどう説明したものかと、うーんと唸る。
ナツメは脳内リズムゲー中断に少しモヤっとしつつ、そんな父の思案顔をじっと見つめた。
幼心に父はイケメンだと思う。二十歳前後とまだ若く、長身の肉体は引き締まり、露出した腕の筋肉がカッコいい。鼻梁はスッキリ通り、切れ長の目つきはなんかリーダーっぽい。生活魔法を使って小綺麗にするくらいしか手入れしようのない田舎だから、灰色の髪はパサつき肌も服も年季に荒らされ気味だけど、隠棲する剣豪っぽくて、村人や樵の肩書きがまったく似合わない。ちなみにナツメはおっとり柔らかな雰囲気の母似。
「軍人とか冒険者とか、世界にはモンスターと戦う人がいるのは知ってるだろ?」
「うん」
「村人も自衛を頑張りはするが、弱いモンスターの代表、ゴブリンを相手にするのが限界なんだよ。あくまで一対一な。ゴブリンは一匹見たら三十匹はいると思え、だから実際はゴブリンを倒すのも無理」
ナツメの納得のいかない顔を見て、オーサムは苦笑した。
「この村にも三人いる猟師だったらゴブリンの集団も少しは勝ち目があるかもな。熊や猪のほうがゴブリンより強ぇし、俺はもっと強ぇ」
おぉー、とナツメは納得した。
「モンスターと戦う人と、村人の違いはなにか? 簡単にいうとレベルとスキルだ。これについては、いずれナツメは誰よりも詳しくなる」
「なんで?」
「鑑定スキルで見れるから。俺たち持ってない人は聞くだけだからな」
「ひとにつかっちゃダメって」
「見てほしい、って人もいるんだよ。勝手に覗いたらダメだけど、見ていいよって人には使っても大丈夫」
へぇ、とナツメは感心したけど、すぐに首を傾げた。自分を見ても、レベルやスキルなんて見えなかったぞ? てかレベルとはなんぞや。
「モンスターと戦う人は、三種類に分けられる」
オーサムは疑問に気付かず指を立てて説明を続けた。
「騎士や戦士と呼ばれる、前線に立つタイプ。回復師や魔術師と呼ばれる、後方から支援や遠距離攻撃をするタイプ。盗賊や魔闘士と呼ばれる、器用に色々できるタイプ」
オーサムは三本立てた指をしまい、親指を立てて自分を指した。
「俺のような前線に立つタイプは、気力を使って戦うことができる」
ただの村人じゃないってバラしていいのかな? ナツメは気になったけど、折角気力の説明をしているのだからと水を差さなかった。
「母さんのような魔術師は、魔力を使って魔法攻撃ができる。器用なタイプは真ん中。気力も魔力も使って色々できるけど、ま、器用貧乏っつってハンパな人が多い」
「きりょくをどうつかうの?」
「うーん、まだナツメには早いなぁ」
「えー、みたい、みーたーいー」
オーサムは頭をボリボリかいて困った。
気力を使うスキルを総じて気闘法と呼ぶが、魔法と気闘法は子供に教えないのが一般常識だ。身体が出来上がる十五歳くらいまでは自然の成長に委ねたほうが良いとされる。幼いうちからハードな筋トレしてもホルモンバランスが崩れるなどのロクな結果にならないように。
実際は多分に偏見が混じる正論になる。魔法も気闘法も子供が学んでも障害はないが、この世にはやらかした前例がちらほらある。簡単にいうと、自分の幼い子供にショットガンをプレゼントするバカおる? という話だ。見栄を張る貴族社会の幼子は英才教育を受けて暴走しがち。
そしてオーサムも常識がズレて自覚していないけど、普通の村人は魔法も気闘法も独学でなんとなく使える程度だから、教えようがない。
一般人が使う魔法は威力のまるでない生活魔法と呼ばれ、火起こしや草むしり、洗顔や洗濯に利用される。
気闘法にいたっては一般人にはほぼ認識されてなく、例えば猟師が『弓術』を磨く過程で『貫通』のスキルを獲得する場合があるけど、これを気闘法と呼ぶとか本人も分かっていない。
鑑定スキル持ち以外はステータスなんて見れないから、一般人は自分の能力なんて知らないし気にしない。
「もっと大きくなったらな」
「えー、じゃあコレみて」
ナツメは両足を肩幅に開き、目を閉じて、ゆっくり、ゆっくり深呼吸。なんちゃって太極拳を始めた。
「ひょぅおおお」
「お? おおおお?」
右手を天に、左手を地に。オーサムは刮目した。『気』なんて見えるものではないけど、感じる。ナツメの周囲に渦巻いて吸い込まれているような。なんだこれは?
物事を決めつけ嗤う世間の思い込みのない、自分はなんだってできるという思い込み。幼さゆえの純真な意思。なんの疑いもなく、いや昨日本人は魔力と勘違いしていたが、自然から気力を集めるその作法は完璧に機能していた。
「はぁぁぁぁ」
「くっ、俺には、俺には届かないのかっ!」
「フフフ、あらあら、仲良しねぇ」
長い時間はかかるけど、オーサムは気闘法の訓練に有効と感じ、周りの村人も健康目的に真似していたら気力操作のスキルを獲得した者が続々現れ、のちにチカット村がなんちゃって太極拳、ナツメ命名の『元気の舞』発祥の地になった。




