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『なつめ まりょく たくさん』
今日も野良仕事にはげむ母クリスの近く、ナツメはあぜ道に座って自分の掌を見つめた。
両親からは、人に使ってはいけないと教わり、そこは守るけど、自分には使うし話に聞く不快感もない。
魔力とはなんぞや。鑑定スキルが生えて数日、ナツメの思考は堂々巡りしていた。
『なつめ まりょく たくさん』
でも、分かったこともある。鑑定スキルを使うと魔力が減る。
元気な時に自分を鑑定すると、つまり一回使うと残りの魔力は『たくさん』と出る。
二回使うと『たくさん』と出る。
三回使うと『すくない』 四回使うと『すくない』 五回目は『ちょっと』
六回目も『ちょっと』 七回目は使えなくて寝落ちする。
鑑定文は、ナツメの理解力に合わせようとしてくれている。
ただ、それでも、ナツメがあまりにもなにも知らないせいで、鑑定スキルの歩み寄りが足りない。
三歳のナツメは小学一年生の教室に入れられたくらいの負荷を味わっていた。
教科書もなく、教師は質問を受けつけず、答えを聞いてどう解くかは自分で考えろ。そんな厳しい授業。
たのしい
本人はやりがいを感じているらしい。
少しずつ、ほんの少しずつ、パズルが完成に近付くような快感。
『なつめ まりょく たくさん』
おや? ナツメは首を傾げた。三回目は『すくない』なのに『たくさん』に変わった。
使える回数が増えた?
『なつめ まりょく すくない』
四回目はいつも通り。ただ、今まではこのあたりから眠気というか気だるさに襲われていたけど、その感覚が薄い。まだまだ使える気がする。
『なつめ まりょく すくない』
『なつめ まりょく ちょっと』
『なつめ まりょく ちょっと』
七回目が使えた。そしていつもの脱力感。今はお昼前。夜明けとともに人々は動き始める。ナツメもちゃんと起きて、父のオーサムを見送り、クリスに従い、暇潰しに自分を鑑定して、寝落ちはイヤだし心配もかけたくないから六回で止めて、元気になったらまた使う。朝使って疲れて、元気になるのは昼前。そして使って次は夕方。ご飯を食べて横になったら七回使っておやすみなさい。というサイクルだった。
なるほど、魔力とやらは、使えば減るけど、使えば使うほど増えるのか。あれ、減るのか増えるのかどっち? 感覚に言語化が追いつかないもどかしさは、この先もずっとナツメの天敵であり続ける。
それはそうと魔力の正体が見えてきた。使うと気だるくなる、この抜けるチカラがどこにあるのか。身体のどこを流れているのか、なんとなく感じた。
全身から胸の中央に集まり、目に送られて鑑定スキルが発動する。
全身から胸の中央に集める練習だけなら寝落ちしないだろう。ひょっとしたら、これだけでも魔力は増えるかも知れない。
ナツメはあぜ道に立ち上がり、両足を肩幅に開けて、腰を気持ち落とし、両手を前に出して、うっかり鑑定スキルが発動しないよう目を閉じて、深呼吸を繰り返した。息を吸って魔力が集まるよう、息を吐いて集めた魔力が手から出ていくよう、一心不乱にイメージして。
「ひょーう」
「え、ナツメ、どうしたの?」
「はぁぁぁ」
「ふふ、いきなり変なことするとか、やっぱりパパの子ねぇ」
まさかの遺伝だった。父ちゃんもこうやって魔力を増やしたのか。というか父ちゃんはなにができるのか。斧を振り抜き一撃で何本もの木を切り倒すとか? カッコいい。
減った魔力はどうやって元に戻るのだろう。身体が動くままに深呼吸を始めたけど、外から取り入れるのか? 外は外以外にないのか。
「ほぉぉぉう」
ナツメは右手を真上に上げた。天高く浮かぶ魔力よ、我が手に。
「ひょーーー」
左手は真下へ。地を巡る魔力よ、我が手に。口から吸って手から出すイメージはいつの間にか反転している。
「すぅぅぅ」
無我の境地。身体が求めるままに、両足のつま先を開き、閉じ、開き、閉じ、ゆっくり股を広げていき、外から流れてくる魔力を貪欲に吸いこんだ。
陰陽和合。天の時、地の利、人の和をもって完成とす。なにが?
チラリと浮かぶ謎の概念は右から左に受け流し、右手を上から下へ、左手を下から上へ、弧を描くように回し、天地逆転したところで両手を腰に引き寄せ、集めた魔力を全て込めて前に突き出した。
「はぁぁぁー」
なにか凄いエネルギーが撃ち出される気がしたけど気のせいだった。
でもなにか、なんだろ、魔力が全身に満たされている気がする。
でもなにか、なんだろ、脱力感は消えていない。
早く、早く鑑定したいな。
急く気持ちを抑え、ナツメは夕方まで太極拳ごっこにはげんだ。休み休み、七割は休み。
ご飯を食べて、陽が落ちるとあとは寝るだけ。火を焚いてまですることなどないし、貴重なろうそくを使う機会はもっとない。料理に使った薪は消えるまで放置するけど、その明かりがなくなるまでに就寝する。
ベビーベッドの延長で、ナツメは両親からやや離れて寝る。
魔力は回復して絶好調。いざ。仰向けに寝転んだ姿勢でそっと手を上げて鑑定。寝室はすでに人や物の輪郭しか見えない程度に暗かったけど、ナツメの目には直接伝わる文字がはっきり見えた。
『なつめ きりょく たくさん』
なんぞそれ?




