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ナツメは胸を張り、朗々と語り始めた。
「神の座します栄誉に浴する大聖堂に届けこの想い。みなさん、ぼくは奇跡を目撃しましたっ!」
足を止める者と無視して歩く者半々、構わずナツメは続ける。
「あれは……、ぼくがまだ駆け出しの商人だったころ」
ホワッツ? という空気で人々の足が止まる。ナツメは軽く上を向いて目を閉じた。
「まぶたを閉じると昨日のことのように思い浮かびます」
二、三日前だし。
「その日、ぼくは、珍しい素材を求めて深い森を探索しました」
行動が商人じゃなくリアルガチの冒険者。
「見たことのない黄色い花びら、王都周辺にも劣らない紫の美しい低木、そしてこの、母に抱かれるような落ち着く香りはなんだろう。まさか不老不死の妙薬になるというアムリタ? ぼくは奥へ奥へと草むらをかき分けて進みました。それが罠とも知らず……」
辺りは大勢いるのに静まり返った。
「虫の知らせ、とでもいうんですかね。その日は朝から胸騒ぎはしたんです。ずうぅっと誰かに見られているような……。陽射しは梢に遮られて、いっそう深まる暗がりの中、風にそよぐ葉がクスクス笑っているように聞こえて。バカな、錯覚に決まっている。ぼくは頭を振り、そして突然めまいに襲われました。足の力が抜けて幹に手をつく。あれっ、変だなぁ、なんか怖いなぁ。首筋に視線を感じ、嫌な予感が頂点に達します。やめろ、本能の警告を無視して、“パッ”と振り返ると」
無視して、までは声量を落とさずささやくように、パッ、をことさら大きな声で叫びながら、自身も腰を落として戦闘態勢のように構えると、観客はビクっと肩を震わせた。
「そこにいたのは伝説のモンスター、トレントでした。みなさんご存知ですか? 王都の城壁を軽々超える巨体、大聖堂を抱えられるほど左右に広がる枝葉、そしてゴツゴツした重厚な樹皮。なんとソイツは千年を生きたエルダートレントだったのです!」
おぉ、とどよめく観客。伝説もエルダーもつけたモン勝ち。そして千年分成長させられたトレントは見た目は木以外のなにものでもなかった。
『貧相な人間が久し振りのエサとは。ないよりはマシか』
「エルダートレントがそんな雰囲気で威圧してきました」
『おとなしく食われるつもりはないぞっ』
「強い意志を込めてぼくはにらみ返します」
『ほお、威勢だけは一人前だな。小僧、このワシから逃げられるつもりか』
「一陣の風が吹き、エルダートレントがわさわさ枝を揺らす」
これを独り相撲と呼ぶ。一応、嘘はついていない。
『くっ、まだ死ぬわけにはいかない。故郷には、ぼくの帰りを待つ妻と子がっ』
いたらいいな。
「エルダートレントの迫力に膝をつかされながら、それでもぼくは、ぼくはっ、下を向くことだけはしなかった。弱い人間がそれでも生きていく意地を、ナメるなぁぁぁぁ」
うおぉぉぉぉ。気がつけば全員立ち止まりこちらを向いて涙を流していた。ホント人って飢えてて弱いよね、娯楽に。
「その時っ、天から轟音とともに光が落ちて、なんとっ、エルダートレントを真っ二つに両断したのです」
ドッと空間が震え、二百人近くの群衆から拍手と口笛が鳴り止まない。雷はナツメ、天から光は聖女の仕業。木は根元を横にな。回転ノコギリがな。このまえ落とした雷、こっちにも聞こえたかな? さぁとどめだ。ナツメは馬車の左壁を上げて杖を取り出し掲げると、満面の笑みで叫んだ。
「そんなエルダートレントの遺体から作られた霊験あらたかな杖がこちらっ!」
スン、て静かになった。なんだ霊感商法か、てシラけた雰囲気が一瞬で伝播する。開けた馬車内に同じ杖がびっしり詰まってるし、引っかからないか。やるな都会人、耐性ツヨツヨかよ。だが甘ーい。
『チェニック(☆)
麻布で作られた上衣。相場、320ペリョン。
所有者、アーダッチ』
『アーダッチ(七三歳♂)
リウマチ。症状、両膝と両手首が重症。
原因、免疫不全。正常に機能しない免疫力
を回復魔法で強化するのは逆効果』
おやおや可哀想な被害者がこんなところに。別の不具合は治って差し引きトントンだったかも知れないけど、悪化するために辛い階段を上り降りして通うってお疲れ様でした。
の気持ちを込めて杖の先を最前列にいた老人、アーダッチに向ける。
「生まれし身体に刻まれたニュートラル・レコードに従え、エクストラ・ヒール」
正常に機能しないとは、天然の呪いと同じ意味。だから回復魔法にスキル経絡反射を付与。気脈を正常に戻してから関節を治せばこの通り。
「はぁぁ、はうわぁぁ、か、身体が、わしの身体が、痛くなくなったぁー」
「えぇ? エクストラヒールって、初めて見た……」
「しかも今の、文節短過ぎっ。レジェンドスキル詠唱破棄だろ」
「教皇クラス、あの少年が?」
「いや教皇でも真似できないんじゃね?」
「な。聞いたことねぇよ」
あ、ウソ、治ったことじゃなく魔法に驚くの? たかが上級回復魔法で? ええいっ、凄いのはぼくじゃなくこの杖だっ、そう乗り切れぇいっ。
話しかけられる前に目に映る人を次々裏技鑑定して診察して回復魔法をかけまくる。ちょ、せめて並べ。なんで全員ゾンビ顔に変わってんだよ。あ、今医療系のスキルがなにか生えた気がする。
「大聖堂前でなんの騒ぎですか。場合によ━━」
騒ぎに気付いて階段を降りてきた、ボディラインが無駄にエロい修道女が文句を言う前に杖を持たせた。修道女はトモコッティでも見たことあるけど、白いこの修道服はカソックっていうんだっけ。発明したやつはムッツリスケベだ間違いない。
「だまされたと思って回復魔法、使ってみませんか?」
「な、な、これは、トレントの杖? ウソっ、レアリティ、レア!」
おや? この人鑑定スキル持ちかな。レアリティって☆のこと? レアって超級の類いかな。☆がノーマル、☆☆がスペシャル、☆☆☆がレア、とか呼び方全部あるのか? 無茶だろ覚えられねぇ。ぼくは完全独学だから他人と違う呼び方とかたくさんありそう。他の鑑定スキル持ちは師匠でもいるのかといったら疑問だけど。研究されてぼくみたいな使い方が知られていたら、絶対にすべての国民は何歳で鑑定を受けろ、とか法があって拘束されるもんね。
「凄い……、なにこの魔力の通り方。おかしい」
「へぇ、持っただけで分かるんだ凄い。どうです、今ならなななんと、一本金貨一枚でおゆず━━」
「買いますっ。部屋にお金とってきます。逃げないで下さいよ」
「えっと、はい、逃げるわけないで━━」
「ほんとにっ、そこ動くなよっ!」
「は、はい」
こわぁ……。都会の女に気をつけろ。父さん、こゆこと?
三分経過。敷地の広さを想像すれば往復一キロメートルいってるかもなのに、ダッシュで去ったスプリンターはダッシュで帰ってきた。なんて美しいフォーム。
そしてスプリンターの後ろに大量のスプリンターが追走してきた。
「……まいどありー」
リヤカーをばらして増やした分も合わせて七百十二本、一瞬で完売。
見習いも金貨持ってるんだ。宗教、儲かりますなぁ。




