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咲き誇るレンゲソウにチョウが舞い、ミツバチがホバリングする、一面紫が鮮やかな絨毯。
微妙に起伏の多い土地の、見渡す限りを牛の放牧に使われる、ほんわかと壮大のミスマッチに感動しながらバイオレット・ロードを数キロメートルも進むと、牧草地の真ん中にドンと王都が置かれていた。十メートルは超えそうな灰色の城壁が円形に囲んでいて、ずぅーっと遠く、城の尖塔がチラリと覗く。
入口の門を挟んで混雑しているのは当然として、数はトモコッティの比ではない。一時間は並ぶかも。
まぁいいや。馬車を最後尾につけたナツメは御者台に体育座りして、両膝に両肘をついてあごを乗せ、機能性の低そうな鎧姿の兵士か英雄?が彫刻された、高さも厚みも威圧的な鉄の門扉を飽きることなく鑑定しまくった。
『プレイアザル
ディングリー王国王都。現王ティベリウス。
東マーガリオル暦382年、建国と同時に建設
されたことになっているが、二年ズレがある。
登録人口約四二万人。国内ランキング三位』
これ、大きな声で疑問を口にしたら翌日川に浮かんでいるところを発見されるヤツ? 解ける気のしない歴史ミステリー。
『プレイアザル
南の開発が国是だったせいで、ゆっくり衰退
している。王党派、大聖堂、ギルド本部など、
保守派の本山になるが、南と険悪ではない』
政情不安定というほどの問題はない、てこと? あんまり大きな見出しはいらないなぁ。おっと二メートル前進エアブースター、オン。大丈夫、静音だから誰にも気付かれない。視界の広いコートセージとビショップ、ブフゥーってため息つくな。
『プレイアザル
シールドバッシュで鉄球を打ち合う
オトコダマシイと、ローキックだけ
で戦うオトメダマシイが流行中』
そうそうそういうの、好き。絶対参加したくねぇな。どこかで観戦できるならしなければ。
『プレイアザル
北東の共用墓地には実在しない物語の英雄、
猫いらずのマグナメットの墓があり、持ち
上げると地下通路で王城と繋がっている』
おー、ロマンがあるけど墓まで持ってく秘密、墓だけに、上手いっ。
とか楽しんでいたらあっという間に一時間経過。プレイアザル雑学三段くらいにはなれたかも。流石王都、歴史が古く情報量が多くて雑学王を名乗るのは早い。
「次ぃ、君はー、商人か?」
「はい、これ会員証」
「うん、じゃあ荷物、検めさせてもらうよ」
「はい、開けますね」
「うお、凄い数の杖だな。あとはー、炭と、これはポーションか?」
「はい、回復から水虫に効く軟膏まで取り揃えてます」
「へぇ、薬は助かるよ。ちょっと怪しいけど、ま、その若さで裏とかねぇな」
薬作りが楽しくて一日森にこもっちゃった。
「じゃあ馬車だから入場税は八百ペリョンね」
「はいどうぞ」
「確かに。王都へようこそ。見習いに杖が売れるといいな」
「あざーす、ご苦労様でーす」
商人としては早く通してもらったほうだな。にしても、目利き、ナメてくれんじゃん? この杖が見習い相手の安物に見えたか。滾ってきたぁ。
現在所持金およそ四百ペリョン。日没まであと一時間ほど。分かるな? 今から稼がないと無断駐車の車中泊でちょっと署まで連行お勤めご苦労様もありえる。
が、しかし、この時間帯に王都に入ることは計算済み。
まずは双子通りを進んで突き当りを南風商店街へ、つま先立ち記念公園を右に見ながらロータリーを回ると国立劇場コーシェンに出て、向かいを一区画進むと国内最大というかここしかないサンディ教の大聖堂に到着。
高さ広さは中央に鎮座する王城に遠慮している分、派手さで勝るつもりだろうか。特殊スキルを持つ職人の手によるものであろう、石壁の一面を石像がびっしり張り付いていて、天井近く、四階あたりに相当する位置にはステンドグラスが並んでいて、目がチカチカする。
初めて目にする者を畏怖させてナンボなところが宗教にはつきものかも知れないけれど、ぶっちゃけ品がない。ナツメは心の中で感想をつぶやいた。所詮商人と宗教者は水と油、交わらなくて結構。ナツメは大聖堂入口に続く上り階段の手前、馬車止めと呼ばれる広場に馬車を停めて降りた。商業ギルドに届け出をしなくていいのか? 会員は公道の商売は自由にしていいんだよ。もちろん常識の範囲で。道を塞ぐとか迷惑をかけたら連行される。まぁ他に屋台を見かけないことから、本当はみかじめ料を要求されるとかめっちゃありえそうだけど。その時はその時だね、相手が。
時刻はまだ明るいけど夕方前。通りは仕事終わりの人々で賑わい、不調の人は教会へ向かう。チカット村のオババのように、いわゆる民間療法の薬師はたくさんいて、ナツメも薬を揃えて販売するつもりだけど、教会のある都市の一般常識として、怪我や病気はまず教会に行くという人が多い。信用度が違う。
モチベの下がった人、死後が怖い人、健康に不安がある人、この指止まーれ、な集合場所が宗教の社会的意義。平たく言うと、二十段進んでもう二十段の広い階段を行き交う老人多いな、石像より手すり作れよ。そう思いながらナツメは馬車を背中に通行人を見渡し、深く息を吸い込んだ。
宗教とは信じる者だけが救われる詐欺。ハッピーなショータイム、始めるゼ。




