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木々の密集していない森の浅いところから街道に出て、ナツメは王都と反対方向に進んだ。リヤカーを引いて、リヤカーに手綱を繋いだ栗毛の馬を二頭連れて。いや先頭はお前たちだろ、と思いながらしばらく進み、木々がもっとまばらになったあたりで森に入って奥を目指した。
とにもかくにも馬車を作らねば。一応さっき、聖女一行の馬車をガン見しておいたからイケるとは思う。箱はいいけどホラ、馬と繋げる木の枠と紐がゴチャっとしているあたり、あれなんだよなんの意味があるんだよ、な部分を勉強しておいた。
そろそろリヤカーの侵入が限界のあたりで足を止めて、気配察知で周囲をうかがう。人気なし、オッケー。
「好きに草食べてていいよ」
二頭を放し、てごろな木を探す。勝手に木を倒すところを人に見られると咎められる地域に感じるから急がなきゃ。ウォールナットでいいかと胡桃の木に向かって詠唱。
「過ぎたるは及ばざるが如し、過剰回復の果て、人の悪夢は樹木の栄華、エイジング・ランプ・アップ」
木は二十メートルほど伸びてカピカピに乾き、周囲の草花はちりとなり、周囲の地面も栄養を吸われてカピカピにひび割れ、数百かそれ以上、ちょっと数え切れないほどのクルミがボトボト落ちて転がり、ぼくの視界の端、あちらの下を向いていた二頭の馬に振り返って二度見された。
「流星より速く、冷たい空を渡れサイレントアサシン、エア・バズソー」
サクッと切り倒して加工開始。馬二頭が硬直してる。怯えてる? ナメられるよりはいいか。
車輪を四つ作り、革鎧から革をはいでタイヤに貼り付け、盗賊の剣の鉄から金具を作り、前輪は左右に動くよう、車軸に金具で繋ぐ。
車軸に乗せた台車は底の浅い箱というかひっくり返した蓋。リヤカーをばらしてトレントを素材にする。四隅に鉄の筒を設置。隣りにE-4の魔石を一個ずつ付けた。
その浅い箱に荷台となる大きな箱を乗せる。まずは大きく太い鉄の棒を永久磁石にする。棒を空にぶん投げて詠唱。
「蒸発するまで吹き飛び舞い散れダイヤモンドダスト、ボム・サイクロン」
掌の球体に氷雪を閉じ込めて、右手をかざして天に発射。雲の中で爆発のあと、気圧と気温が下がった吸引で小さな積乱雲に一瞬で変わる。
「神、鳴り、違わず貫け、ジャッジメント」
遠い雲には直接干渉できないけど、条件を整えて鉄棒周辺の電子をマイナスに変えることで、空中の鉄棒に巨大落雷。この地域一帯がまばゆく光り、遠く離れた王都も含めて結構な数のディングリー国民が悲鳴をあげた。歩く災害のナツメ、最近バレなきゃ全部セーフと思い始めている。
落下してきた赤熱する鉄棒を目の前で浮かばせて、風を巻きつけて冷ますと四等分にする。
荷台の四隅に鉄の円柱を付けて、台車の筒に嵌まるように設置。台車と荷台が離れないよう外側四ヶ所を鉄のストッパーで繋ぐ。
ブレーキの仕組みはまったく分からなかった。聖女馬車のほうは、馬車から生えた丁字の木の棒が馬の尻に当たって止まるという、不安しか感じない構造だった。馬ってそこまで強くて信用できるのか?
だから台車の左右側面に筒を付けた。前に強風を出してブレーキで良くね? もちろん後ろに強風を出して加速も可。
台車に御者台を付けて、前輪を操作するハンドルを付けて、木材内部に魔力の通り道を作る。軽トラに神輿を乗せた絵面と言っても過言ではない。俺らいらなくね? って馬の目が虚無ってる。大丈夫。普通の馬車に見せる演出、書き割りって大事だから。
「っし、完成。まずは試運転ゴー」
神輿の部分はリヤカーと同じ。左側だけ上に開いてつっかえ棒で支えて、杖を全部入れる。おお、リヤカーの倍以上入りそう。ナツメは御者台に座るとハンドルに魔力を流してみた。
ブゥン
なにかしらの宇宙を感じる音とともに荷台が浮いて、ストッパーによってそれ以上は上がらない位置で止まった。
下、台車のほうの四隅の鉄は魔力が流れると魔石経由で電磁石にしてみた。
「これでいっか。次はー……」
大量のクルミを拾っては二個を片手で握り潰し、中身をリュックに入れていく。STRがCのポテンシャル、握力もじわじわ上がっていると感じながら殻をゴギョリと。馬車を鑑定しないのか? 絶対馬車ってでないもん。読まないほうがいい文章もあるんだね。
ダンジョン入口の闇に似た、リュックの口からクルミがちょっぴり顔を出し、パンパンの合図を受け取った。手は抵抗なく入るのに容量オーバーってどうなっているんだろ?
あとはそうだなぁ、とナツメは周りを見渡し思案すると、余りまくっている大木を薪に加工していき、カピカピに乾いた地中に穴を空けて放り込む。穴一杯になると上を土で塞ぎ、詠唱開始。
「火気厳禁、クールに熱くなれ、ブラック・デス」
ゴブリンメイジが使った黒い炎をイメージしてみた。見た目は違うし爆発もさせないけど、真空と気圧ゼロで沸点を下げて高熱を一瞬で伝える。スキル黒死はなんなのか分からない。邪神関係っぽいような?
まだまだ残る大木から箱を作り、無事完成した炭を入れて、荷台に運ぶ。こんなもんでいいか。煤けた両手をパンパン叩いて息をつく。おっと剣でナイフを作っておこう。サクッと作って左胸に革のホルスターをつけて装着。か、カッコいい。
あとは台車から木の棒を三本伸ばして、間に二頭の馬を並べ、馬にハーネスをつけて棒と繋げば完成。ハーネスは鎧をバラした革を加工して、見様見真似で作る。これは王都についたらちゃんとした職人の物を買おう。馬の全身をチェックして思う。そんなに縮こまっちゃって、ゴメンね。
「よし、昼前に片付いた。街道に戻るか」
御者台に座ったナツメは元気よく宣言した。馬たちは悪い予感に震えた。
辺りはリヤカーが通るので精一杯の森。馬車が通れる隙間はない。どうする? 飛ぼうぜ。
スキル天網恢恢発動。気配察知とは次元の違う広域マップで誰もいない場所、誰にも見られないルートを選別。
カピカピの地面を馬と馬車が乗る面積分、ガチガチに固めて持ち上げて、下から強風を吹きつけてみんなでロケット。
馬を気遣い街道脇にゆっくり着地して、ナツメは声をかけた。
「改めて王都へ出発ーつ。おでこから鼻筋が黒い君はコートセージ、白い君はビショップ、よろしくっ」
「「ヒヒン」」
二頭ともよく調教されてるなぁ。
ナツメは感心しながら初運転を楽しんだ。




