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鑑定文を読みたくて  作者: 丘上
第二章
34/38

33



 地面に転がる無傷の試験管を拾い、縄ごと蓋を取ってゴーシュさんの口に差す。


「ぶほぉっ」


 仰向けに倒れた顔から空の試験管が真上に飛んで顔に返り、なにが起きたか分からない表情で固まった。

 ナツメは残る三人にも同じ処方をする。

 四人とも情報処理に時間がかかるタイプらしい。理屈は無視して本能で動ける獣になれ、そんなんじゃダンジョンは苦労するぞ? ナツメは生暖かい微笑みで見守った。


「いや原因お前だよな?」


 なんの原因だよ。理屈は無視して自分を犯人呼ばわりするゴーシュさんに反論する。


「えー、命の恩人にひどくない?」

「三人のおでこの赤い点、これなにか説明してみろや」

「プッ」

「笑うなゴラぁ」


 自分のおでこも赤いゴーシュさんに論破された。

 回復ポーション?とやら、不良品だね。廃棄しよう。


「え、なんであの人たち生きてるの?」

「あっ、ホントだ。あ、あ、まさか、あのかたは」


 女子二人がナルニアと生き返った兵士たちを見て察したらしい。復活も有名なのかな。鑑定スキルで博識のつもりだったけど、極めて無知な部分も多そうだね、気をつけなきゃ。

 にしても、あれってありなん?


 まとめて蘇生に本人が驚いたということは、復活スキルとやらは今まで単体だった。ゴブリンプリーストが使った蘇生と違いがあるとしたら、死後数時間経っても生き返った点と思われる。モンスターは靄になる不思議空間のダンジョンは言うに及ばず、普通の死体も脳を筆頭に腐敗が始まるのに、それでも生き返るのか。


 蘇生の場合、床から針を出して脳に突き刺すと阻害できた。なにもなければ蘇生した。身体に損傷があっても治って生き返った。全快スキルもあったから、そのへんの合わせ技にも見える。

 あの兵士たちの場合、脳細胞は壊死しまくり、大量の血液を失ったはずだけど、記憶障害も起きず治るのか?


 いやまぁ“神”という存在は究極のご都合主義だから、なんだってありえる。考察しても虚しいけどさ。この世は陰陽和合の等価交換。なにかを得れば、なにかを失う。完全な意味における創造と破壊、無から有を生むこと、有を無にすることは神の御業、もしくは子供の妄想だ。


 高レベルってわけでもなさそうな聖女が祈ったら四人まとめて元気に生き返り、聖女は魔力枯渇で倒れもしないだと? 代償はどこだ? 神スキルだからロハ? 上手い話には落とし穴がある。“神”という存在は究極に胡散臭ぇ。そもそも天から光が差すって同じ現象の時点でぼくの中では聖女が祈った相手は邪神だし。


「なぁ、俺らもなんかおかしくね?」

「ああ、なんだこの宿酔(ふつかよ)いみたいなダルさ」

「ねぇ、これってダンジョンの……」

「え……、まさか、レベルアップ?」


 経験済みだからすんなり答えにたどり着けたか。

 そっかぁ、人を殺してもレベルアップはあるのか。

 格上が相手の命を懸けた戦闘に参加して勝利すると、努力度に応じてナニかがもらえる。レベルアップの条件はこれだけと思ってよさそうだね。

 あの盗賊コスプレイヤーはゴーシュさんたちを殺す気はなかった。あったら瞬殺だもんね。四人生きてる時点で目的は目撃者役だと疑った。

 つまり、ぼく視点ではゴーシュさんたちの立場は茶番だったけど、ゴーシュさんたちの主観では圧倒的格上に立ち向かったわけだ。ぼくに甘えるでもなく、ポーションをもらって戦おうとしていた。やるじゃん。ちなみにナルニアは共犯だから敵側、ナニかをもらえる立場じゃないね。護衛は戦闘終了まで死んでたからノーカン、かな。

 ナニかを受け取る判断は自分か? それとも鑑定さんやダンジョンさんの同僚かい? 邪神説も濃厚か。まぁいいや。そういう次元が上っぽい考察は不毛感が強くて萎える。


 とりあえずナルニアたちは落ち着いたかな。


「おとなしく帰りますか?」

「はい。護衛を手薄にして、そこの協力者たちの助けを借りて、私だけ行方不明になる計画だったはずなのに、モッツァーレンたちを死なせてしまって、どう償えばいいのか。帰って他のみんなにも謝らないと」

「聖女様……。スキルが使えなくなっていたなんて、気付いてあげられなくて、不甲斐ないです」

「このかたに治して頂きました。治すべき聖女のくせに、不甲斐ないのは私のほうです」

「えっと、この者もそこの冒険者パーティの仲間ですか?」

「いえいえ、ぼくは商人ですよ。彼らとは道中一緒に歩いた仲です」


 めっちゃ不審者の目で見てくるやん。聖女は私が守らねばが空回りするタイプね、はいはい。


「馬車以外の馬は……、復活させませんかそうですか。キッドさーん」

「なんだぁ?」

「この近くに盗賊たちの馬や荷物があるはずです」

「おう、探すか」

「話が早くて助かるぅ。逃走資金もたくさん持ってるかもなのでネコババしちゃえ」

「おいおいそういうのはヒソヒソ言えよ」

「巻き込まれた新米冒険者パーティがなに遠慮してんですか」

「なんだよその貫禄お前はギルドマスターか」


 キッドさんは駆け足で森の奥に消えた。うん、そっちで正解。気配察知の範囲を広げればうっすらと馬の群れくらい簡単に分かる。

 ナルニアに向き直って話を続けた。


「どこの手のものとか政治的な判断がどうとかぼくには関係ないし貴女たちの好きにすればいいけど、ひとつだけ老婆心ながら忠告を。そのスキル、まとめて使えるようになったことはできるだけ隠したほうがいいですよ」

「はい。これが知られると間違いなく戦争に使われます。どれだけ死んでもまとめて生き返らせるなど……、おぞましい」 

「そうじゃなくて」

「え?」

「そのチカラ、代償が貴女の寿命とか普通にありえるから安易に使うなっつってんの」

「あっ」

「おい、なんだその口の利き方は」

「はいはいすんませんっしたぁー、二度と話しかけません近寄りませんさようならー」

「モッツァーレン! あの、お待ちを」


 無理ー、ウゼー。主はいい人だから我慢しよう、とか一ミリも感じねぇから。馬は復活させる発想も生まれないっていい人でもねーし。ゴーシュさんたちが通りがかるまで推定二時間、護衛の死体を放置して盗賊と待ってた共犯のくせに、なんか殊勝な態度をとっているけど騙されねーよ。

 護衛に至っては巻き込まれてドンマイと同情したバカは死んでも治らなかった。滅多にいない実例を見たことが収穫としておこう。


「馬は八頭いるはずだから、ゴーシュさんたちが四頭、あの人たちは二頭でいいよね。御者台に二人座るだろうし。二頭はぼくが。あ、それとそこの盗賊たちの武器と革鎧、いくつかもらいます。分け前はそれでいいですか?」

「いや俺らがもらうわけにはいかねぇよ。乗れねぇし」

「そのへんは無理に走ろうとしなくても、最悪歩いて引っ張るでもいいでしょ。王都まで持っていけばいい金になる」

「しかし……」

「ヤロー同士の押し問答とかいらんから。ぼくはキッドさんのほうに行きます。ここでお別れ。王都で会えるといいですね」

「え、なんで?」

「ゴーシュさん、兵士に勝てる盗賊なんていないんですよ」

「あ、確かに、そういえば、じゃあ……」

「ぼくはちょっと、裏で絵を描く連中に挨拶を、ね」


 そのへんにはいないだろうけど。イエンカフェ、いつか行くかも知れないし、行かないかも知れない。

 ゴクリと生唾を飲み込むゴーシュさんたち三人に手を振って、ぼくもリヤカーを引いて森の奥に入った。聖女に関わりたくないだけと教えたら背中にドロップキックされそう。


「……なにしてんの?」

「あっ!」


 地面に金貨数十枚まいて、その上で仰向けに寝るキッドさんに冷たく言ってしまった。腰の下にちょっとだけ光る優越感。気持ちは分からなくもない。


「そういえば、キッドさん。アンさんクーデルカさんにこれプレゼント」


 リヤカーから杖を二本取り出して渡した。


「ポーション失敗のお詫びってことで」

「え、俺には?」

「杖いる? いくらでもあげるけど」

「いらね」

「じゃあ聞くな。あ、ポーション?二十本あげる」

「いらね」


 馬二頭引き取って別れた。湿っぽいのとかいらね。



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