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さてさて、この状況は一体なんだろね?
すっかり日は昇ったけどまだ朝のうち、馬車がぼくを追い越した覚えはないし、向きから見ても女性の乗った馬車はあっち、王都方面からきたわけだけど、いつ街を出たんだろう。時間的にここにいるの、まー不自然ですこと。兵士の死体は死後硬直が始まっているし血だまりは地面に吸われているし、軽く二時間は経過している。ここで今までなにしてたの?
『モッツァーレン・フェルト・ポッツァル(二一歳♀)(死体)
ディングリー王国ポッツァル伯爵家三女。幼少より研鑽に励み、
聖女に従う聖堂乙女騎士、通称ユニコーンナイト隊長に就任。
リコッタで疫病発生の報を受け急行するも、襲撃されて死亡』
あれ? 形だけの兵士かな?
『モッツァーレン・フェルト・ポッツァル LV 26
STR D VIT E INT E
MIN D AGI D DEX E
身体強化 剣術 盾術 剛腕 金剛
馬術 礼儀作法 頑健 利きワイン』
うん、ちゃんと鍛えられた人だな。普通を意味するFがひとつもないのが強者の証。ぼくのデータは参考にしてはいけない。てかこのデータは種族差が大きいモンスターを観て意味があるものであって、人間は大体FからDまでしかないね。
盗賊の不自然さは言うまでもない。しつこいけど、毒殺暗殺トラップの類いを除き、盗賊が兵士に勝てる可能性なんてない。それでも勝てるなら、コイツらは盗賊ではない。いやある意味盗賊、シーフか。八人全員無精ひげも生えてなくて、髪はボサボサ服はみすぼらしく汚れて、じゃなく汚しているけどブーツは綺麗。これで観客をだませるつもりとか、詐欺師にもなれない大根役者の演劇はしょーもねぇ。
「な、なんだコイツ」
「構わん。続けろ」
「だな。おいおい小僧ぉ、丸腰でこんなとこに顔だすんじゃねぇよ。失せろっ!」
「クックック、だよね、やっぱそうだよね」
「あ? てめぇなに言って……」
「ぼくは丸腰でリヤカーを引いている。そうとしか見えないよね? まさかリヤカーを作成しますか、はい、いいえではいを選択したらゴーレムが仲間になりたそうにこちらを見ている、仲間にしますか、はい、いいえではいを選択したら魔法の杖を装備した、と言われてリヤカーを引くとは思えないよね?」
最近ぼく、人生のフラグについて悩んでいたんだ。選択バグって怖いよ、て。
「えっと……、お前、頭おかしいのか?」
「ふふ、否定はしないよ。ただ、そういうキミたちは強者と自惚れて手を抜くからしょーもない死に方をするんだよ。わざわざ王都の北で目撃されたいなら南の特殊部隊とか裏の世界とか言っちゃう? 三行の推理小説、ペラッペラ」
「なっ!」
「ガイア・ヘッジホッグ」
お姫様の腕をつかんでいたヤツも含めて、八人中七人が地面から生えた大量の土槍に貫かれた。
リヤカーを持つ手から魔力が流れ、リヤカー本体が発動の手順を受け持ってくれる感じ。上級土魔法でもこの程度の詠唱と集中で、今までより広く速く発動する。リヤカーの形をしたある意味魔法の杖、強力すぎた。てか今さらなんだけど、杖なしで魔法を使ってたぼく、間違ってました? いや、父さんは手ぶらで撃ってたはず。じゃあ間違いではないか。
ひとり、この攻撃を察知して空高く、五メートル近くジャンプしてかわすヤツがいた。いーねぇ。ちゃんと人間の中にも強者はいたようでなにより。
先に背後に飛んで首をはねたけど。その首を空中でつかんで鑑定。ネタばらし、ヨロ。
『ダークス・エルマーニ(二八歳♂)
イエンカフェ聖王国の工作員。
通称シルクブラッドのリーダー。
本人と共謀して聖女の誘拐中、死亡』
さっきも観えた聖女ってそこのが?
『聖女
聖属性のユニークスキルを持つ女性に教会が
与える称号。ただし、教会の母体は国によって
変わり、名ばかりの聖女も多数存在する』
あぁ宗教なんて国ごとに違うのか。全然詳しくないし興味もないけど。
イエンカフェ聖王国というのは、南の海に面した隣国になる。客観的にみて南征を繰り返したディングリー王国のほうが悪いけど、仲は悪い。ディングリー王国と仲の良い別の南国もあって、岩塩以外の塩はそちらから輸入している。宗教上のいさかいとかは知らない。聖女すら初耳だし。文脈から察して超有名っぽいな。
首を持ったまま着地。ついでに土槍を引っ込める。土魔法ってここが他と違うんだよね。後始末がメンドい。気体液体と違って固体を操作するんだから当たり前だけど。
「あの━━」
「これ以上巻き込まれたくないから余計なことは言いません。だから、貴女も余計なことは言わずおとなしく帰ってくれせんか?」
「そんなの」
「無理か。無理なのか。はぁー、盗賊に誘拐されたフリしてイエンカフェ聖王国に亡命を企んだ聖女サマ。立派な国賊ですね広場で火あぶりかな悪趣味なのでぼくは観ませんサヨウナラ」
「なんで……、そんな……」
「ぼくが同情するのは巻き込まれたそこの兵士さんたちであって味方を死なせるほどの自己チューさんはちょっと。で、どうします? あくまでぼくやそこの冒険者さんたちを利用しようと悪あがきしてみます? 茶番劇のどんでん返しは無理じゃないかなぁ」
「ではどうしろと?」
「だからおとなしく帰れと」
「復活の奇跡を失った私に帰るところなんてないわよっ!」
「あー、そんな感じね。ちょっと失礼」
『ドレス(☆☆)
お茶会用にあつらえたAラインドレス。
王都の老舗仕立て屋、エーショックの
定番シルエット。所有者、ナルニア』
敵以外、生きてる人を鑑定する気はない? ヤケを起こしたこの人わりと敵よりだけどそれを抜きにしても、面白ければなんでもいいって思ったのは覚えている。
『ナルニア(十八歳♀)
ユニークスキル復活を持つ聖女。工作員に
呪術をかけられスキル阻害中。それを知らず、
神の恩恵を失ったとだまされて狂言に乗った』
呪術は回復魔法の悪用。魔力を相手に合わせた気力に変換して対象の気脈を塞ぐことで、その位置に応じた障害をもたらす。だから━━。
「経絡反射」
「あっ」
人差し指でナルニアのおでこをツンとつついた。呪いなんて気脈を正常に戻せばいいだけのこと。
「感覚で分かるでしょ? もうスキルを使えますよ」
「! そんな……、これは……、ああ、神よ」
ナルニアがひざまずいて祈ると、兵士さんたち四人の上に天から光が差した。まとめて? ゴブリンプリーストが使ってた蘇生の全体化? 嘘だろヤッバ。
「うーん…、ハッ、ナルニ……、ア……、様?」
「聖女様っ、逃、げ……?」
「う……、そ。まとめて?」
お前も驚くんかいっ。




