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翌朝、日が昇る前にナツメが目を覚ますと、ゴーシュたちはすでに支度を整えて出発するところだった。ちなみに昨夜は地下に潜らず車輪に上体を預けて寝た。流石に人目のあるところで地下はない。隙を見せるようなものだし。
「おはようございます。もう出るんですか?」
「おーっす。早朝のほうが狩りはしやすくてな。森に寄り道しながら進むつもりだ」
「へぇ、冒険者ってダンジョン専門ってわけでもないんですね」
「私たちは珍しいほうだとは思うわよ」
「田舎は自分で狩りできなきゃ子供扱いだもんね」
あー、そういうノリはチカット村もあったなぁ。とホッコリしながらナツメは見送った。
「昨日は結局手ぶらだったもんな」
「ナツメくんがいなかったら干し肉とパンかじってただけとか、最悪」
「い、一応魚とろうとしただろ」
「どうやって? 私たちも魚は素人でしょ」
かなり遠くまで行っても声が聞こえた。にぎやかな人たちだね。
姿が見えなくなるとナツメも床払い。口のゆすぎと服を着たまま全身に水をまとわりつかせて、洗浄からの乾燥。そして軽いストレッチに元気の舞。朝起きたら、あとできれば寝る前も、これをしないと落ち着かない。まともな医者のいない世界で身近な恐怖はいくつもある。虫歯、ノミやシラミ経由の感染症、かすり傷でも破傷風が酷い。生活の理想は健康な身体。防げるものは防ぎたい。
その辺りの日用品や医療品もなにか、開発して売れたらいいな。
リヤカーを引いて街道をのんびり歩きながら、ナツメは道端の知らない草花を見つけては鑑定していく。
『レンゲソウ
越冬して春に咲く。蜜が豊富。
日干しで利尿作用。搾り汁は
火傷に塗ると効く。緑肥になる』
『ヤハズエンドウ
越冬して春に咲く。若い芽、花、豆は
食用可。薬効は特になし。緑肥になる』
「へぇ、緑肥ってなに?」
『緑肥
空気中の窒素を集めて根に蓄える
ことによって、土壌に栄養を与える』
「ずるい。ふもとずるい。高地より豊かな秘密が雑草にあったとは。恐るべし、雑草」
知識を増やすのが楽しいのであって、商売のネタを探す気はあまりない。特に今は錬金釜による魔力付与の薬研究が一番面白い。なにやっても開発ツリーが解放されるフィーバータイムに突入している。火傷特効の軟膏でも作ってみるかとレンゲソウを摘んでいく。
街道はそこまで安全なのか? 安全なんだよ。
今は早朝ということもあって、周りに人気はなし。後ろがつかえているのに立ち止まるな、とか怒る人もいない。
冒険活劇の台本でも書くとすれば、こういう時は盗賊が出てくるのがお約束なんでしょ。いくら娯楽に乏しい田舎出身のぼくでもそれくらいは知っている。
あのさぁ、その盗賊って通り魔と同じカテゴリーだぞ? 将来の夢は通り魔ですって語る子供おる?
例えば海賊は、見晴らしの良い海上は敵か獲物を見つけやすく、速度特化の船で接近も逃走も得意だから生きていける。荷を積んだ重い商船にも、武装した兵士をたくさん乗せた重い軍船にもスピードで勝てるから成立する。
例えば山賊は、国や領土の堺になる山か山脈に拠点を築き、山のあちらとこちらは管轄が違う、というルールを利用して逃げられるから生きていける。隣り合う国や貴族領の仲がこじれる元凶のひとつだね。
それらと違って盗賊は、逃げ道もなんの勝算もない選択なんだよ。街道が危険になると物流が止まって経済が止まるし最悪村が滅ぶ。それで収入と評判が消失して家が潰れるのは治める貴族なのだから、全力で盗賊の抹殺に動く。当たり前だよね。
通り魔と同じく盗賊は、不作の農夫とか破産したギャンブラーとかお尋ね者のうち、もう他にできることが思いつかなくてヤケをおこして足を引っ張るタイプがなる。商店を襲って秒で捕まる計画性のないバカの同類。ゼロじゃないけど頻繁にいてたまるか。金が欲しくて腕に覚えがあるならダンジョン行けよ、てツッコむし。
それこそ街道で通行人を襲う盗賊なんて普通はいないから、パーティの役割のひとつに盗賊がいて誰からも文句が出ないんじゃん?
まぁどうやらシーフというより斥候と呼んだほうが適切だと思うけど。ダンジョンを知り、キッドさんを見て思った。
宝箱を開ける係、ではないよね。それもあるかもだけど出現率は低そうだし。今のところ罠はあっても鍵はかかってなかったし。そもそも解錠の技術をどこで誰から学ぶのか疑問だし。
キッドさんの役割は先行偵察。敵がこちらを見つけるより早く敵を発見すること。罠を見つけて回避すること。あとは戦闘補助。多分そういう役割に適したスキル構成なんだろうね。
誰が欠けても機能しない、良いパーティだな。
他に街道を歩くとどんなイベントがあるっけ?
頭をひねってみるも思い浮かばない。お姫様の乗った馬車が襲われる? 盗賊に? ありえないの二乗だよね。ぼくの中のお姫様のイメージはあのドレス、呪いの人形だから最初からロクでもないけどおいといて、お姫様が襲われるような街道は怖くて誰も利用しないと思いますマル。あともうその国の兵士全員解雇だろ、この世から。高レベルの兵士がどうやってレベルも生き方も雑魚を極めた盗賊に負けるんだよ。素手でも勝てなきゃおかしいって。
ま、現実はフィクションじゃないから現実っていうんだよね。
一生無限にできる自信のある脳内会議で遊びながらテクテク歩き、木々で目隠しされたカーブを曲がると盗賊がいた。八人で馬車を囲んでいた。周りに護衛の兵士らしき甲冑姿の死体がいくつも転がっていた。ゴーシュさんたち四人も倒れていた。四人とも上体は起こして荒い息をついている。馬車の扉に上半身を突っ込んだ盗賊がひとりの若い女性を引っ張り出した。呪いの人形に良く似ている。
なんぞこれ?
「か〜いふく〜、ポーション〜、美味しい〜、美味しい〜、オクスリダヨー」
とりあえずリュックから回復ポーション?を出しながら歌ってみた。
「ナツメっ、ポーションくれっ、あとその芋臭くて脱力する呪歌はやめろっ!」
「へいまいどっ!」
ノリのいいゴーシュたちに向けて右手をシャキーン。試験管を四本挟んで躊躇なく振り抜く。
AGIがSにDEXがEXのポテンシャルを秘めた超越者が放った試験管は四人の眉間にクリティカルヒット。
スコーンと音を立てて脳を揺らして失神KO。四人の上体は地面に倒れた。
「一撃必殺ドベルチーカン流奥義、四爪苦無」
こんなはずではなかったけど、失敗を認めるのは恥ずかしいから、この世のすべては予定調和と悟ったキめ顔でカッコつけてみた。素焼きの試験管ってこんな硬ぇの? 石英か。石英がいい仕事したのか。
決して美声にケチをつけられてキレたわけではない。
断じて、もう他にできることが思いつかなくてヤケをおこして足を引っ張ろうと思ったわけではない。
などと被疑者は供述しており……。
次回、盗賊 VS 通り魔 VS 呪いのお姫様、ファイっ!




