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街道を歩くと大体みんな、ペースが同じになる。
旅ができるほどの荷物を持って歩けばなおさら、一日に進む距離は同じになり、水場が近くにあるなどの、休みやすい土地に宿場町ができて栄える。
とはいえそれは大都市同士を繋ぐ街道の話。一方は王都、文句なしの大都市だけど、もう一方がトモコッティでは町は作れない。もっと王都に近付けばそんな町も見かけるかも知れないけれど、ナツメが宿泊に利用したのはただの広場だった。
街道から少し離れて雑草のまばらな、これといって特徴のない開けただけの、林に囲まれ焚き木を拾いやすく、小さな坂を下ると川に出るから選ばれた場所。多くの旅人に利用されたであろう史跡感は漂っている。いや現役だけど。
陽が沈む前にこの場所を見つけたナツメはリヤカーを置き、坂を降りて川辺に立ち、リュックから錬金釜を出して水を汲んで地面に置いた。
有効射程十メートル圏内、気配察知で川魚を感じると底から水を爆発ボディブロー。ぐへぇ、と大口を曲げて宙を飛び、ナツメ目掛けて弧を描く魚にいつの間にか抜いた短剣を一閃。次々違う水面から飛び出す魚はすべて、ナツメを飛び越えて釜の水中に潜り、しばらく泳いでから頭が離れた。
「一撃必殺ドベルチーカン流、序の段、虚空活魚」
「す、すげぇ」
見られて聞かれた。いや気付いていたからカッコつけてみただけだけど。
振り向くと冒険者の一団がいた。今日一日ずっとナツメの前を歩いていたパーティだ。ひとつか二つ上くらいの男女二人ずつの四人組。
ナツメはドヤ顔を隠し、お恥ずかしいところをお見せしまして、という雰囲気の愛想笑いで魚の処理に取り掛かる。しまった、ハラワタ抜くから水を入れ替えないと。実は料理初心者だから手際が悪い。
「ドベル……、なに? 名のある流派とみた」
「いえいえ、表の世界では無名ですよ」
裏の世界でも無名だけど。彼女? 今はいません。みたいなセコい言い回しはナツメの得意とするところだ。革鎧を着たリーダーっぽい青年は簡単に食いつく。
「えっと……、俺も入門とか、可能だろうか?」
「申し訳ありません。一子相伝的なアレってことで」
「うおぉ、そういうのホントにあるのか」
ウソでも聞いたことねぇよ。とは言わずにはにかむ。
「ゴーシュ、長剣のお前が短剣術教わってどうすんだよ」
「じゃあキッド、同じ短剣使いのお前ならさっきのエクストリーム真似できんのかよ」
「できるわけねぇだろ。どんな師匠に教わったらあんなんできんだよ」
「ちょっと騒ぐのやめてよ恥ずかしい」
「いやいや、あんなん見たらソウル上がるに決まってんだろ」
「な。あのー、師匠ってやっぱ怖い感じですか?」
「死ぬ時は前のめりで大ジャンプ。最期の教えです」
「うぉぉぉ、し、しばれるぅ。なんだその熱い言葉」
「ばくの喉笛を噛み千切ろうと口を開けたあの顔は……、今でも夢に出ます」
「ゴッドマザーのフルスイングにかけてっ! 裏の世界、ヤベェ」
そろそろ天国のコボルドも人間の弟子をとった存在しない記憶が芽生えるかも知れない。
「良ければみなさん、晩をご一緒しませんか? 雑な魚の塩スープしか出せませんが」
「いいんですか?」
「はい。ぼくも冒険者には興味があって。お話、聞かせて頂ければ」
そして広場に移動して、まずは自己紹介。
リーダーはゴーシュ。長剣と盾で前線を張るファイター。
ムードメーカーのキッド。短剣使いのシーフ。
物静かなアン。みんなの体調を管理するヒーラー。
鋭い目つきが才媛っぽいクーデルカ。火力担当のウィザード。
同じ町出身の幼馴染四人組でトモコッティに来たばかりの新米パーティだそうな。ソウル上がるだのしばれるだの、耳馴染みのない言い回しはその地方独特のものだろうか。
「えぇっ! ナツメくんは商人?」
「ですです、ホラ、もらったばかりの会員証」
「武術と魔術を極めて進路のコーナリング攻めすぎっ」
「ね。そりゃミハイルもハミルトンするわ」
広場のいっかくに焚き火をおこし、地中から土を盛り上げ成形からの燃焼で皿とスプーンを作り、みんなの分も作ろうとしたら断られた。それくらいは常備してあるのか。流石冒険者。ためになる。それとナイフ、王都で絶対買おう、もしくは鉱石見つけたら自分で作ろう。なにかが足りないとは思ってたんだ。ちょっと大きい包丁のつもりで短剣使って魚をさばいたら呆れられた。鳥もウサギもこうだよ?
「役割分担がハッキリしてるんですね」
「俺の長剣はぶっちゃけ飾りだな。盾しか使う暇ねぇよ」
「前線で足止めするってそれくらい割り切らないと大変ですもんね」
「だから余計さっきのああいう剣さばきを見ると惚れちゃうんだ」
みんなには普通の壺のように見せているけど、錬金釜を使えば魔力操作は自由自在。火にかけずに尾頭と骨だけ高熱で溶かしてダシに変えて、身は低温でじっくり煮込む。
「あのさ、ナツメくん、その壺って……」
「スープとポーション作り用の商売道具です」
「へぇ、ポーション作れるの? すげぇ」
裏の世界って便利ワードだな。聞きたいけどヤバそう、て躊躇してくれる。
「それだけ色々できて商人て」
「ふふ、痴情のもつれとか可愛いやつは除いて、犯罪ってお金から生まれるんですよ」
「そうなの?」
「悪人は金に集まる、とでも言えばイメージしやすいですか」
「あー、分かるー。私たち貧乏人には縁ないよねー」
「だからぼくは商人が合ってるんですよ。世の中のお金の流れを見る商人に」
「?」
「金に集まる悪人が消える不思議な物語。裏の仕事人がどこかにいてもいいとは思いませんか?」
「はぁー、ヤベ。今俺たちは歴史の裏側を覗いているのか」
「あれ、いま、パララーて変なラッパが鳴ったような……?」
ぼくが裏の仕事人とは一言も言ってないしならないけど。
にしても、なんかいいな、こういうの。
我ながらぼくは有用だと思う。目をつけられて、一緒にパーティ組もうぜ、という誘いのフリした寄生を警戒していたけど、この人たちにそういういやらしさは感じない。
ちゃんと尊敬できる冒険者に会えて良かった。
「(ヒソヒソ)あのさ、ナツメ、商人なら、その、春画とか、売ってね?」
訂正。普通の冒険者に会えて良かった。




