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鑑定文を読みたくて  作者: 丘上
第二章
30/32

29



 とにもかくにもまずは希釈しようそうしよう。

 素焼きの壺に川の水を汲み、綿布を口に被せてゆっくり傾け錬金釜へ濾過水を注ぐ。煮沸してないけど綺麗な天然水だしいいや。もうなんかこれで回復ポーションがダメになっても構わない。むしろ腹壊すとでも出ろ、とか念じながら鑑定を連発する。


『回復ポーション(☆☆☆☆)


 怪我は大幅に回復する。風邪、

 腹下しなど軽度の不調も回復する。

 体力の消耗に注意。適量10ml』


『回復ポーション?(☆)


 回復する気はする。風邪も治る

 気はする。運が上がる気もする。

 疲れる気もする。人によっては』


 へぇ、みるみる質が下がっていった。ヨモギの使用量で大きく変化しそうだな、と心にメモする。


 かさ増しした錬金釜に魔力を注いでかき混ぜてから口を綿布で被せて、空にした素焼きの壺へ流して濾過する。あとは液体操作で直接試験管に注いで蓋をしていく。蓋はロウでコーティングした綿布のこぎれ。手で千切れそうなほつれだらけの縄で縛って完成。

 次々と手際良く完成させてはリュックに入れる。このリュックのなにがいいって、縦に入れたら倒れないし揺れないしカチャカチャぶつからない。亜空間バンザイ。

 三十本終わると残りは地面に捨てた。

 オババのポーションは☆三つで好評だった。ぼくも良くてそれくらいの質でいいだろう。

 

 空の錬金釜もリュックに入れて、いざ出発。必要だったとはいえ道草をくったから少し急ごう。

 エッホ、エッホ、とリヤカーを引いてジョギングのペースで朝露まみれの原生林を蛇行する。早朝こんなのを見る人がいたら悲鳴を上げるかも知れない。


 流石STRとVITがC。レベル一の一般人とは隔絶した身体能力。と思いきや少し違う。

 ステータスと実際の身体には齟齬がある。多分、長め、ひょっとしたら年単位の時間をかけて成長していく。STRが一日でEからCに上がったとして、絶対身体が壊れるからね。そもそもSTRとVITの主成分は筋力と体格でしょ? 一日でヒョロガリがゴブリンキングにビフォーアフターしたら、それレベルアップじゃなくサナギからチョウ的な変態という。


 ナツメの身体が一般人よりずっと強靭なのは確かだけど、まだ成長途中であってステータスに追いついてはいない。


 すっかり日が昇って青空に照らされるころには街道に出て、同じ方向を歩く人たちに合わせてナツメも散歩ペースに落とす。

 少し離れて前を歩く集団が冒険者っぽい。革鎧、ローブ、背中に背負った盾と麻袋。

 トモコッティの次は王都。誰でも考えることは同じ、ということか。ナツメはクスリと笑った。


 王都のダンジョンは兵士の訓練目的に使われているらしい。逆か。便利なダンジョンのある土地に王都を作った。おそらくどこの国でもそうする。国として軍事力がなきゃ話にならないから。

 ちなみに弱い兵士なんていない。全員ダンジョンで鍛えられた高レベルで当たり前。だから衛士は頼りになる。汚職兵士がゼロかといったらそんなことはないけど、少なくとも戦ったこともないくせに威張る立場だけの兵士はいない。ちゃんとみんな強いからナメてはいけない。

 まぁ、だから街に武器防具屋があって冒険者もいるんだけど。庶民が強くなっても気にしない、王の自信が見て取れる。


 噂によると王都のダンジョンの難易度は高すぎず、低すぎず。レベル一で挑むのは無謀だけど、戦闘訓練を積んだ集団なら無理ではない。兵士が常駐といってもいい状態だから冒険者同士の殺し合いといった犯罪は起こりにくく、ピンチの時はワンチャン、兵士に助けてもらえるかも? そしてなにより稼げる。トモコッティでチュートリアルを終えた冒険者パーティもそりゃここを目指す。刺激を求めたり、あわよくば後ろ暗いことをしたい少数派は他所へ行く。


 でも未踏破なんだろうか? ナツメはのんびり歩きなから考察する。

 ずっとトモコッティダンジョンの未踏破が気になっていた。

 易しいダンジョンとは知られていた。ナツメもチュートリアルで有名と聞いていたから近さもあって目指した。「ヌルいダンジョン」兵士もそう言った。

 なのに未踏破ってありえる?

 アメノムラクモ★★★★★、錬金釜★★、収納袋★★☆☆、ついでに呪いの人形★★。

 結果論だとしても、これ、国からすればめちゃくちゃ美味しいお宝だよね。

 踏破すればこういうお宝をゲットできる。それを知ってヌルいダンジョンを四十年未踏破ってなに?

 知らない。と考えるしかない。でもそれもありえるのか?

 ダンジョンが世界中にいくつあるのか知らないけれど、すべて未踏破ってことはないでしょ。そうなるとそもそも「ヌルいダンジョン」って言い回しがおかしいし。


 権力者の立場で考えてみよう。

 どこかで誰かがダンジョンを踏破した歴史のひとつや二つは知っているはず。

 ダンジョンには宝箱が出現することもあると知っている。父でも知っていた。有名なんでしょ。

 でもその宝はショボい。と思っているのでは?

 権力者が踏破に興味を持たないって、そうでも考えないと辻褄が合わない。


 ありえるのか? 実は心当たりがある。

 アメノムラクモ★★★★★、錬金釜★★、収納袋★★☆☆、呪いの人形★★。

 もう一度繰り返すと、ぼくはこれだけ見てきた。☆ひとつのダンジョンで出る宝じゃなくね?


 つまりさ、モンスターを倒すと分配される経験値(ナニか)。これ、宝にも当てはまるのでは?

 分かりやすく金に置き換えると、ソロが宝箱を開けると金貨一枚。十人パーティが開けると大銀貨十枚。百人で開けると銀貨百枚。同じシチュエーションでもそんな違いがあるのでは?


 そして軍がソロでダンジョンに挑むわけもなく、出てくる宝箱はもれなくショッボいのだとしたら、そりゃ興味ないよね。しかも開けたら開けたで宝箱って罠が頭オカシイし。


 という情報が王侯貴族の常識だとすれば、トモコッティダンジョンについてこう考える。

 一層はゴブリン一体ずつのヌルいダンジョン。

 中ボスらしき部屋は十体以上出てきてそれなりに手強い。

 ガチャコンレバーの仕掛けも発見当時の四十年前に解いたとして。

 その先、ボス部屋は軍が何度か挑戦して全滅。中ボスから計算して、最大五十人パーティ、もうそれパーティっていうより軍事作戦くらいはしたかもね。

 それでも全滅。ホブゴブリン、ゴブリンリーダー二体、下級職のゴブリン二十体。あそこのバランス考えると一般兵五十人でも無理かな。というか多人数で挑んで長時間はスライムが出て詰むじゃん。ひとり死んだら数分で現れるのに、もう戦略が無理。

 一方通行で情報を持ち帰れない。

 他の踏破した前例から察して、意地を張って千人二千人も送り込めば踏破できる勝算はある。

 でも多くの犠牲を払ってヌルいダンジョンを攻略しても世間は失笑。見返りはないどころかマイナス。

 これ以上、兵士を投入する意味はない。


 となって四十年放置された、ということでは?

 この考えが合っているなら、ダンジョンって未踏破だらけかも。

 どこのボス部屋にも最終進化した超越級が待ち構えているかも。


 燃えるねぇ。

 



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