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『杖(未完)(☆☆☆)
ただの杖だがトレントを素材と
するため、魔法の増幅効果が高い。
ウィザードよりややヒーラー向き』
ふむ。トレントの木材はまだまだあるから杖を作ってみたらいい感じ。これをリヤカー言えるもんなら言ってみろやぁ、とか怒って作ったわけではない。魔力を通すと形が崩れそうな心配は杞憂らしい。そういや分子操作が使えるのはぼくくらいか。
で、未完ってどゆこと?
『杖(未完)、完成までの工程
1.狙いをつけやすい棒に加工する。
2.魔力の導線を刻む。
3.魔石か宝石など、相性の良い媒体を捌け口に設置する』
あー、はいはい。それでリヤカーが広い意味で杖ね。木脈と魔石を嵌めたのが偶然被ったのか。工程だけ見れば同じ、いや同じなものか棒じゃねぇっ! 2と3を見て騙されかけた。つまりゴーレムとかいう謎のワードも魔導具も、広い意味では杖になると。1を無視すれば。杖の定義はまず1だとしてもっ。
なんかこう……、木目の位置からこう削るとか切り抜くとか、ちゃんとした職人が作ったら★を超える凄い杖になるんだろうな。素材だけで☆三つまで評価されるガラクタ。これ見せたらキレられそう。地面に当たる石突は細くて頭は大きくネジネジとぐろを巻いてるとか、ゴブリンメイジを思い出しながらそれっぽい工夫はしましたぞ? 2と3はご自分でどうぞってスタイルだから許されると信じよう。
ちなみに木工スキルは生えない。お前のやり方は木工じゃねぇ、て厳しい声が聞こえそう。昔母さんにプレゼントする瑪瑙を嵌めた木のブローチを手作りした時は細工スキルが生えた。どこかのジャッジマンはハートフルウォーミンに弱いらしい。
とりあえずリヤカーに積めるだけの数、七百本作って敷き詰めたら陽が落ちそう。つっかえ棒も何本も作って左壁の内側に縦に嵌めておく。こうしないと左壁を開けたらドゥロロロって雪崩発生しちゃうから。
森の中、リヤカーを引ける隙間を探して蛇行して、道なき道を進……、まない。無理。ダルい。
足下に空気を凝縮した足場を作り、リヤカーの真下から強風が巻き上がるよう渦を発生させて、数分ほど、森の上を駆け抜けた。
森の外と言ってもまだ人気のない原生林。リヤカーを引く隙間はあるから地上を進み、上空からざっと見渡し発見した小川に向かい、キャンプ地にする。
道中、風魔法で仕留めた野ウサギの解体。液体操作で血を抜き短剣を使って皮を剥ぐ。頭を落として内臓と共に地中に埋めて、川で洗って枝を突き刺し焚き火の上にかける。半分ほど火が通ったら塩をパラパラっと振りかける。トモコッティでパンとチーズと塩と着替え、あと小物を少々購入しておいた。
そうだ。塩だよ。チカット村は塩が貴重で贅沢な使い方はできなかった。母さんのせいじゃない。塩分控えめ強制ヘルシーの寒村が悪い。
冤罪を晴らして気分良くウサギ肉にかぶりつく。油ギトギトの手でつかんでワイルドに食うニクうめぇ。スープも作るつもりだったけど、独りだとこれだけでお腹いっぱいだな。
塩味の効いたローストを堪能して、しばらく食休み。すっかり暗くなった川辺に反射する焚き火の赤いゆらめきをぼんやり眺め、幹に預けた上体を離す。スープの代わりにポーション作ってみるか。
『錬金釜(★★)
調薬用の釜。魔力操作、熱操作、液体操作
に優れ、魔力を均等に浸透させる効果が高い。
使うほど馴染む。下級アーティファクト』
トレントとエンカウントからの流れ作業で杖職人しちゃったけど、もともとポーション販売で稼ぐつもりだった。
折角こんなにいい物手に入れたんだから活用しないと。
まずは素焼きの壺を作る。地中の湿った土を取り出し造形からの燃焼。三分もかからず完成。割れないよう自然に熱が冷めるまでの間、同じ手順で素焼きの試験管を三十本作って放置する。石英というか珪砂が多く混じっていたらしく、ちょっとテカって味がある。
冷めた壺に川の水を汲み、口に綿布を被せて錬金釜に流す。これは軽めの濾過。これくらいが丁度いいってさ。空気中から水を集めたらまるでダメだった。理由は不明だけど、不自然な薬は身体が受けつけないらしい。金生水、水を助ける金属、ミネラルが大事ってことかも。
チカット村でコスプレオババのもと、調薬スキルが生えて使いこなすくらいにはポーション作りに励んだ。トライアンドエラーの研究は楽しい。なにより鑑定スキルが有用すぎる。もしもこの世に鑑定スキルがなかったら、薬なんて数え切れないほどの人体実験で確かめていくしかない。それ毒だよ、て教えてくれるだけでもズルい。コスプレしても☆は増えないよ、て教わった答えをオババに伝える勇気はなかった。本人が気持ち良く働けるならそれでいいこともある。
回復魔法の原理が気力を与えて自然治癒力のブーストなら、ポーションの原理は気力を与えて薬効のブーストだと思う。
そしてぼくは、あのダンジョンでこの錬金釜の説明を読んだ時、ゾワリと鳥肌が立った。魔力操作に優れるってどういうこと?
調薬スキルは天然由来の成分に対し、魔力を気力に変える補助だと思う。魔力操作が必要というわけではない。どちらかというと気力操作のほうが重要になる。
そして回復ポーションの最も定番の素材はヨモンギ。他の材料を使うレシピもあるけど、大体はヨモンギ。自然のなにかのいたずらによって、ヨモギが魔力を蓄えたもの。
ひょっとして、この錬金釜なら、普通のヨモギをヨモンギに変えられるのでは?
なんなら、他の薬草毒草も、魔力を蓄えた特別な品種に変わるのでは?
だとしたら、アーティファクト、ヤバすぎね?
ではお待ちかね、答え合わせ。
錬金釜を両手で持ち上げるように触り、まずは熱操作。掌にはひんやりした触感のまま、中はぐつぐつと煮立ち、濾過水を沸騰させてからストップ。
平らな石の上で切り刻んで粘りが出るまですり潰したヨモギを投入。葉っぱ五十枚分くらい。
薬草の王様、ドクダミの葉、芍薬の根、どちらも完全に乾燥させたものを刻んで投入。根は多いと毒だから気をつけて。
ゴブリンゴロシ。物騒な名の蛍光キノコだけど、毒性はない。木のウロや洞窟にこれが生えている地域にゴブリンがいない不思議からついた、迷信的な由来だそうな。こいつも乾燥させてから軸だけ投入。カサは下剤にできる。
久し振りの鼻につく薬品臭になんだか嬉しくなりながら沸騰寸前まで熱くして、液体操作でぐるぐるかき混ぜて、自然に熱が冷めるのを待って、香り付けにフリージアの黄色い花弁を生のまま散らし、五分ほど釜の内部に魔力を放出してみる。これで浸透するのだろうか?
あとは調薬スキルによる仕上げ。液体に回復魔法をかけるというか、気力を魔力でコーティングして成分が抜けないイメージで定着させて、一晩放置。綿布で蓋しておやすみなさい。
翌朝、夜明け前に目が覚めて、地下に掘った穴倉から土をどかして地上に出てひとつのびをする。
川の水で口の中をゆすぎ、生活魔法で超振動を起こしてゆすぎまくり、真っ裸になって川に入る。
いや膝までの深さしかないけど、液体操作で頭の上まで水に包まれ髪もシャカシャカ洗ってスッキリする。空気中の水を集めて同じことができるけどそれはそれ。普通に水浴びできるところではしたい。
同じく液体操作で身体中の水気を飛ばしてタオルいらず。
夜中に消えていた焚き火をつけなおし、チーズを炙ってかったーいパンに乗せてハフハフ言いながら食べて、いよいよ綿布をめくって鑑定ですよー。
『回復ポーション(★☆)
切り傷、単純骨折の類いは即座に回復。
洗脳、魅了、錯乱などの精神異常も回復。
欠損、臓器の再生は不可。血止めは可。
体力を著しく消耗する点に注意。適量10ml』
『やだやだやだ、余の臣下に下らなきゃやだぁー』
いかん、イマジナリー王様が幼児退行した。よちよち。




