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昼下がりの鬱蒼とした森の中、ナツメは足下を気にしながら目まぐるしく鑑定スキルを発動させていた。
チカット村が極端に高地だったわけではないけど、系統としては高山植物が多く、暖かい下界は初見の植生だらけでテンションが上がってしまった。
目的はリヤカー作り。それは分かる。それは分かるけど黄色い花弁のお前は誰だぁ。
『フリージア
根の球茎は解熱剤。花弁から抽出した油は
鎮静剤。花弁に抗酸化、アンチエイジング。
香りが良く、アロマテラピーに最適』
「おっしゃれぇー。いーねぇキミ採用。オリジナルポーションに加えてみようではないか」
トリカブトの毒に異常に詳しいことからも分かるように、ナツメは主に植物の薬効については博士級に調べるくせがついていた。だって故郷、他に観るものないし。
『ライラック
魔力分離が不可欠な精油は鎮静剤。香りに
ストレス軽減。アロマテラピー特化』
「なんなんだ、この森……、全力で落ち着かせようとしてくる」
紫の花が垂れ下がるお洒落な低木を見上げて、ナツメは得体の知れない恐怖を感じた。なんか、変だぞ? 綺麗なお姉さんについて行ったら美人局、ボッタクられてパンイチ、みたいなトラップ臭がしやがる。都会の女には気をつけろ、気をつけろ、気をつけろ……、父オーサムの真剣な忠告が脳内に響いてエコーがかかる。
アロマ効果で落ち着き、目的を思い出して良さそうな木を鑑定していく。
『ナラ
耐久性、耐水性、防虫性に優れる。
堅く、加工が難しい』
「うーん、このへんが定番っぽいけど職人向けか?」
『チーク
耐水性特化。家具、船の甲板に最適』
「ふぉー、広葉樹も奥が深い」
『トレント
付喪神系のモンスター。樹齢百年を超えたあたりから
雑霊を取り込み、回復魔法の応用でエナジードレイン
を使用する。魔法を増幅する杖に最適』
「へぇー、て待てーい」
しれっと混じるのやめてくれ。見た目は完全に普通の木。桐かな。樹齢長めだから迫力はある。動かないし攻撃魔法も撃ってこない。まぁ木が動くって燃費悪すぎだし、火は言うに及ばず、それが水魔法だったとしてもバカスカ撃って周囲が荒れて枯れるの自分だし。
とはいえ回復魔法を逆転してエナジードレイン、気力を吸い取るとは賢いなぁ。普通の人はなにも気付かず通り過ぎようとして、なにか変と感じた時にはめまいでも起こして倒れて、数時間後はミイラのようにカピカピ、そのまま土の栄養に、なんて死に方をしそう。
ウィザードとヒーラーが分かれるように、回復魔法は攻撃魔法と毛色が違う。神に祈って発動する神聖魔法なんてものを最近目にして考えが変わった部分もあるけどそっちはおいといて。
回復魔法の原理は、魔力を気力に変換すること、になる。魔力とは物質という仮説を考えていたけど、魔力が個体化した魔石を見てもう疑いの余地はなくなった。では気力はなにかというと、実は分からない。活力、生命力と言い換えてもいい気力は、おそらく実在はしない。病は気から、なんて言い回しがあるように、生命を動かす神秘の根源が気力になる。
その気力を与えて元気にするのが回復魔法であり、逆に吸い取るとエナジードレイン。広く浅く吸い取る乾坤一擲というスキルをナツメも持っている。
ゴブリンキング戦で見せた回復魔法の使い方は、詠唱や集中を必要としない生活魔法の範囲。身体強化とは別に、心肺機能を中心に臓腑や血液まで気力操作にブーストをかけて、長時間絶好調を維持する。
では面白い攻撃を見せてくれたトレントに敬意を表し、木を切り倒すためだけに開発したオリジナル魔法を披露してあげよう。生活魔法で充分? はっ、それで済むなら樵はおらんわっ。
「過ぎたるは及ばざるが如し、過剰回復の果て、人の悪夢は樹木の栄華、エイジング・ランプ・アップ」
よおトレント、気力が欲しけりゃくれてやる。限界超えても受け取れぇ、てなノリで回復魔法をトレントにかける。本来相手に合わせて調整するのが正しい使い方。用法用量を守り、その人に備わる治癒力を後押しすることで怪我を治す。
ちなみに回復魔法はまったく万能ではないから千差万別の各種ポーションがある。なんならガン細胞を元気にして患者を即死させるヒーラーもいるらしい。医療ミスは珍しくもない。病気に回復魔法は、特に医術の心得がない素人が使うと逆効果になりがち。だから回復魔法は教会が威張って使う。ホラ、成功したら自分の実力、失敗したら神のせいにできるから。天罰が下らないってことはその神は偽物なんだろうね。
ムリヤリ樹齢千年にされたトレントは倍近い二十メートルくらいに伸びて、葉を一枚残らず落として枯れた。本当に千年生きたらもっと遥かに大きくなっただろうけど、そこまで栄養が追いつかなかった。全力疾走を一日続けるくらいの勢いで光合成に励み、水は一滴残らず使い果たしてカピカピ。周囲の草木も枯れて地面もひび割れカピカピ。
「流星より速く、冷たい空を渡れサイレントアサシン、エア・バズソー」
オリジナルな上級風魔法発動。ぼくの掲げた右手から、正面トレントの向こうの地面までの斜め、空気抵抗のない真空をマッハで飛ぶ見えない超高速回転ノコギリが、障害物などないかのように通過して、渇ききった大木は乾いた音を立てて後ろに倒れた。
あとは生活魔法と言い張る謎の分子操作で粘土細工のようにグニグニ形を変える。草花くらいはともかく、普通の木も生きているから抵抗力があって、枯らす前に内部の干渉はちょっと難しい。しかし枯らしてしまえば。
「流石杖に最適と言わしめたモンスター。魔力の通りがハンパない。なにこの造形のしやすさオモシロ」
あっという間にリヤカー完成。ナツメの腰に届きそうな高さの車輪が二つ。台車は屋台サイズ。道の中央ではなく歩行者側を歩く想定で細長く、雨風除けに壁と屋根も完備。壁は左側だけ丸ごと持ち上げて開く仕様。つっかえ棒で支えたら屋台販売も可能な、良く見たら継ぎ目のないオーパーツ。
「でも魔力の通りが良すぎて、ウッカリ形が崩れちゃいそう。うーん、こうか?」
水生木、木を活かすは水。木全体を変えるのではなく、リヤカー内部に血管のような葉脈ならぬ木脈を作り、魔力を流して循環させてみた。台車と車軸と左の壁の三つのパーツに分かれるけど、これなら生きてる判定になって干渉を弾かない?
「あ……、付与術、生えた」
何度も身に覚えがある感覚から自分を鑑定してみたらやっぱり。コートセージとか言ったか、ウィザードの最終進化っぽいゴブリンがスキル黒死を魔法に付与していた手口をなぞったら成功した。
そして少し経つと魔力は薄まっていった。そりゃ半永久とか無理か。あ、じゃあ、じゃあ。
ナツメはリュックから魔石を取り出した。投げてぶつけたらちょっと痛そうな銅貨サイズ。ギルドに売らなかったゴブリンリーダーの魔石E-4を四個、車輪に一個ずつ、台車と左壁にも埋め込んで、もう一度魔力の循環を付与。これでどう?
『ゴーレム(★☆)
魔導具。広い意味で魔法を増幅
させる杖と言えなくもない』
えぇ……。見たこともない国家機密作れちゃった。
「杖ではないだろ。ないよね?」
リヤカーって言ってくれよ。悪口にしか聞こえない。




