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鑑定文を読みたくて  作者: 丘上
第一章
24/32

24



 昼前に街に帰った。モンスターの再配置(リポップ)の間隔はどうなのか、休憩をいれてもう一度潜ってみるつもり。その前に換金を。

 ギルドのスイングドアを押して一瞬迷う。


 受付嬢AとB、どっちがマシか。Cはいない。熟年夫婦っぽい客が二人だけのさびれたギルドに、一般的に美女と呼ばれそうな二人が常勤しているほうが考えたら不自然だな。羽振りは悪くないってか。あと夫婦を二度見してしまったのは内緒だ。普通のおじちゃんおばちゃんが盾と棍棒持ってる絵面の非日常感が凄かった。


 どっちも同じだからAの前へ。


「買い取り、お願いしまーす」

「は、はい、どうぞこちらへ」


 何故どもる? 二日前にチンピラぶちのめしたのまだ引きずってる? まさかね。いくら都会っ子でもそんな弱々メンタルじゃ生きていけないでしょ。つまり、怪しいな。ま、いいけど。


「え……? E-1が四個、E-2が六十三個、E-3が二十四個……、そんな」

「E-3はいくらかタノシミダー」


 ゴブリンリーダーの魔石E-4は出さない。絶対コイツら存在すら知らないだろーから。流石にないと思うけど、「余の臣下」ルートにかすりそうな芽は摘んでおく。


「で、では、こちらを」


 皿には銀貨四十三枚と銅貨一枚、四千三百十ペリョンだった。おや?


「E-3は銀貨一枚ですか?」

「はい、三人パーティが一日中潜って稼ぐ額です。まだ朝なのに凄い」


 いやしょっぼ。一応は命を懸けて一日中戦って三人で山分けしたとして約千五百ペリョン、平均的な街人よりちょっと稼ぐくらい? 先入観(バイアス)って怖いな。誰も疑問を持たないのか。

 そしてE-3は相場通り。持ち込む人がいないから設定してなかったと。ウケる。


「じゃ、また来ます」

「あ、あのっ」


 Aに呼び止められた。


「ギルドマスターが、用があると」

「ぼくはないですサイナラー」


 とりあえずお前らは、ぼくのことは名前すら知らない一般人と知れ。ギルドマスターとやらは近日中に処刑か口封じが確定している犯罪者だから、関わる気はない。本人は気付いてないだろうけど。


 ギルドを出てすぐ、広場で屋台の匂いに引き寄せられる。野菜をごちゃごちゃ煮込んで発酵したソースが鉄板の上で焦げる香りの暴力やー、とたまらず注文。


「一個ちょーだい」

「あいよ、十ペリョンだよ」

「やっす、はい」

「はいまいどー」


 小麦を練って丸くぺちゃんこにした上にソースをかけて焼いたもの、それを四等分に切り分けた一ピースを木皿に乗せて出されて、ぼくは一口でたいらげる。


「あっつ、はふ、はふ、うっま。なにこれ野菜が旨味を出すとか信じらんねー」

「あーん? 今日の俺、なんか神がかってんのか? どれ、……、普通じゃねーか。お前宮廷道化師(クラウン)かよ美味そうに食うからだまされたわ」

「いやいや十ペリョンの屋台飯をヨイショしてなにがもらえんだよ本心だっつーの」

「もう一個やるよサービスだ」

「じゃあ全力でヨイショしてやるよ。おいオッサンこの美味さで十ペリョンはありえねーだろどんな幻術かけやがった解かなくていいから一生かけろやコラー」


 とか大声で漫才してたら客が集まってきた。基本人って飢えてて弱いよね、娯楽に。

 どーもどーもと拍手の中を立ち去る。


「一晩六百ペリョンだよ」

「はい」

「部屋は二階突き当り、晩飯は食堂で、できたら声かけるでいいかい?」

「お願いしまーす」

「あいよ」


 部屋に入ってリュックと短剣をおろしてワラのベッドにポテリと転がる。日干ししたヤツと交換したばかりの、お日様の匂いのベッドだ贅沢ぅ。


 仰向けに大の字になったまま目を閉じて、少し考え事。


 魔石の買い取りは冒険者ギルドの独占だ。競合があれば相場は変動するが、独占だから変動はない。

 つまり、鑑定の相場と実際が違うはずがない。

 どうしたって独占は不健全なんだよね。歪むし魔が差す。


 カラクリは単純だ。


 例えばE-1魔石百二十個をギルドに持って行くと、一個銅貨二枚だから、銅貨二百四十枚で買い取られる。

 ところがギルド側の帳簿の上では、正しく一個銅貨三枚になっていて、銅貨二百四十枚を払ってE-1魔石八十個を買い取ったことにしてある。

 E-1魔石四十個が存在しないことになった。それはどこに行くの?

 もちろん、運び屋が国外でさばく。


 ダンジョンの数や質は、各国に公平に分散しているわけではない。当たり前だけどね。

 特定の魔石不足に慢性的に苦しむ国はあるだろうし、分かりやすい外交カードでもある。

 そして魔石を材料に作られる魔導具は軍事最優先。これも当たり前。

 その戦略的物資の魔石を密輸って、まぁバカなことしてるよねー。

 E-3がまともだったことから、流石に全ての価格は誤魔化してなかったらしい。いくらなんでも気付くか。

 貴族が気にかけない最底辺、E-1とE-2の魔石だけちょろまかしていたと。ここのギルドだけが。

 全体が不正をしていたらバレる。利用者が少ないとか、利用する街人は他所へ行かないから比較しないとか、他所へ行く新人は計算も怪しい若造とか。

 トモコッティの建設が611年、ダンジョンが生まれたのはもっと前かも知れないけれど、現在653年だから四十年以上、いろんな幸運が重なってか、不正が続いていることになる。


 呆れた無能だね、どいつもこいつも。でもチンピラーズが捕まるよう誘導して今も洗いざらい白状させられているようだし、一度バレたら終わるでしょ。てかアイツら人目のある所で恐喝とか、新人冒険者相手にやり慣れて危機感なくしてたのかな。

 冒険者ギルドは覇権を狙っているとか不穏な鑑定文は目にしたけど、これは完全アウトだ。魔石の横流しは損得の問題だけではなく、個人の犯罪で片付く話でもなく、従わなければいけない一組織が王を虚仮にしたに等しい。ただでは済まない。


 だから、ま、しばらく金策続けるつもりだったけど、金貨一枚、一万ペリョン稼いで商業ギルドに登録したら次のダンジョン都市を目指そう。


 もうこの街は荒れる気配しかしない。





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