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『ゴブリン
身体強化 棍術』
うん。仮説は証明された。てててっとバックステップで離れて詠唱。
「水素分離に冷却からの酸素圧縮、プラズマ着火でご機嫌よう、エクスプロージョン」
風魔法で爆風を受け流し、魔石に変わる数分を索敵しながら突っ立って、ため息出ちゃう。
今日も朝早くからダンジョンアタック。いい加減道を覚えてさっさと二層に来て、大部屋を覗いてみたらこれだよ。
念をいれて拾った魔石を鑑定してみた。
『魔石(☆☆)
ゴブリンの魔石。冒険者ギルドの定める等級はE-2。
相場は銅貨五枚』
『魔石(☆☆☆)
ゴブリン下級職の魔石。冒険者ギルドの定める等級はE-3。
相場は銀貨一枚』
モンスターが復活した大部屋のランク、下がってた。次はちゃんと戦うって約束したのに、E-4のゴブリンリーダー……、スマン。
気になったことは確認したから次。レバーをガチャコンさせる。ここは南。次は東へ。
昨日と同じ手順で回り、西のレバーをガチャコンさせてゴゴゴゴっと下へ。
スタスタ歩いて闇を潜り、石壁の殺風景な大広間、そこにいたのは。
『ホブゴブリン(ダンジョンボス)
ゴブリンの上位種。気力、魔力ともに平均的。
戦士系も魔術師系も万能系も、一度ここを通り、
特性に従い分岐する。この先のゴブリンは別物』
『ゴブリンリーダー
優秀な戦士系だが、知性が低く、ゴブリンメイジ
に利用されていることに気付いていない。本人は
暴れて満足な性格』
「お前こっちにいたんだ」
玉座はなく、奥にホブゴブリンが長剣を肩に預けて仁王立ち。その手前左右に二体のゴブリンリーダーが大剣を構え、その前面、ぼくから見ると敵前列は下級職が多数、二十体くらいいた。つまりボスを除いて昨日のレバー部屋の構成の二倍弱。
一度ぼくに全滅させられてリセットした、これが本来の陣容か。
新人冒険者パーティ目線だと、絶望になるのかな。
ぼくには今さらなんの圧でもないし、後腰から短剣を抜いて歩いて近寄りながら詠唱開始。
「おいでジャック・フロスト」
「ギャワー」
両足のつま先を左右同じ方向に開いて閉じる、目測を幻惑させるオリジナルの歩法でランサーの刺突をかわし、脇を通り過ぎる柄を左手でつかんで引っ張り、寄せられたランサーの首をはね、柄をはさんだ脇を支点に右回転、斬りかかるソードマンに死体をぶつけてキャンセルさせる。
「さぁ遊ぼう」
「ギャギャ」
ムーンウォークのようなすり足で後ろに下がり、背後から迫るファイターの正拳突きの間合いをずらす。拳は顔の右をかすめさせて、右エルボーでファイターのみぞおちにカウンター、吹き飛ばす。
「分子は動くなだーるまさんがー」
「ギャウ、ギョー」
後列のメイジたちが詠唱しているが遅いよ。
「こーろんだ」
「ギャーオー」
ゴブリンリーダーが走り幅跳びの挙動で接近、空中から大上段で振り下ろした大剣を短剣で抵抗なく切り裂き、刃先はパッシブの風防御が弾き飛ばすに任せ、断面が目の前を通り過ぎてからぼくも飛び膝蹴りで迎撃、着地して身体が沈んだリーダーのあごを砕いた。
「アブソリュート・ゼロ」
そのまま宙でトリガー。波紋のように広がり一瞬で部屋全体に霜がおりて真っ白に変わり、全てのゴブリンは氷像となってすぐに砕け散った。キングみたいな不条理な個体でもない限り、ぼくの魔法威力を超える抵抗力がないと即死になりそう。便利だね。
キラキラ舞い散るダンスフロア。しばらくダイヤモンドダストを眺めて楽しむ。風魔法で身体に張った膜の内側は熱もコントロールしているから寒くない。氷点下になる冬のチカット村で外に出るには必需といえる。他の村人がどうだったかは、さあ?
数分後、床にいくつもの魔石が現れた。良かった。昨日、高熱で蒸発させた時は魔石が出なかった。違いはなんだろう? 部屋の作り直しか?
おや、宝箱もひとつある。ボスはお宝確定なのかな。魔石を拾い集めてから近寄り、もちろん鑑定は忘れない。
『宝箱(罠あり)
蓋内部上方に鋼線が繋がっていて、
開けると引き金が引かれ、全方位に
針が発射する。成分アコニチン8mg』
「怖い怖い怖い怖い。もうヤダ殺意高すぎ怖ぇぇぇ。昨日よりグレードが下がって安心、じゃねーよトリカブトの毒だからっ、致死量軽くオーバーだからっ、アコニチンって解毒薬存在しない系だから! 発射するなら鍵穴じゃねーの。後ろから開けたら大丈夫、とかいうヤツ始末する悪意が、悪意がっ」
逃がさん……、お前だけは……、みたいな怨念を感じる。
風で防御しているから大丈夫、と思ったけど待て。威力は言及していない。風の膜ごとぼくの胴体を貫く毒針、あると思います。
今日も床に穴を空けて潜る。なんか同じことするとダンジョンさんに対策立てられそうで怖いなぁ。あ、全方位に針って……、栗みたいなイガイガ攻撃もありえる? 地中すら貫いてぼくを狙うとか? 発射という表現なら、どうだろう、飛び道具と受け取っていいのか。
コッワ、なんだこの読解力を試される心理戦。動悸が治まらない。
とりあえず即座に穴から出られるよう膝のバネに力を蓄えて、穴の後ろを広げておいて、斜め後方へ風魔法発動の全力退避を脳内シミュレートして。あ、ジェット噴射魔法閃いた。今度試そ。最初から遠くに行って開ければいいじゃんって? 基本魔法は身体から投げっぱなしになるように、魔法のコントロールの難度は距離に比例する。制御に自信のあるぼくでも十メートル、無理して干渉可能な限界が十五メートルくらいなんだよ。
生唾をゴクリと飲み込んで十メートル先の宝箱を睨み、風魔法で蓋をパカリと開けた。
チュン
頭上に無数の条痕。良かった。針が地上にばらまかれただけだった。いや良くねーけど。普通の冒険者パーティは地獄だけど。あかん感覚がマヒしかけてる。
針の二段構えもありえるぞと、穴の中から光魔法というか可視光線操作を駆使して屈折とレンズで箱の中を見る。罠用の仕掛けは……、もう作動する怪しげなバネとかフラスコの液体とかはないな。お宝は、両手で持ち上げる程度の壺と、見覚えのある剣。
防御を何重にもかけて、ビビりながら近寄る。なんでボス戦より大変なんだよ納得いかない。
壺を持ち上げ穴に退避。これはなんですか。
『錬金釜(★★)
調薬用の釜。魔力操作、熱操作、液体操作
に優れ、魔力を均等に浸透させる効果が高い。
使うほど馴染む。下級アーティファクト』
へぇー。直径三十センチメートル、高さ五十センチメートルの壺、じゃなくて釜はポーション作りのサポートアイテムか。こんな物もあるんだ。金属か土か、材質は分からない。あとで鑑定しよ。メタリックにテカる黒に、星のようなラメが散ったガジェット。見た目より軽い。今履いているロングブーツくらい。
「ええやんええやん」
ナツメはご機嫌に釜をリュックに入れると、闇のゲートを潜った。




