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例えば自分の愛する幼い息子と知らないオッサン、スカートの中を覗かれて同じ感情か?
ナツメの母クリスがナツメに鑑定されても不快にならなかったのは、そんな理屈になる。
自分のステータスを知りたい冒険者が、ギルドの鑑定人に金を払って鑑定してもらう時もそう。許可を出せば不快にはならない。
無許可で鑑定されると強烈に睨まれるような違和感を覚え、鑑定された経験がある人は本能的な感覚なのかすぐにピンときて、盗撮に気付くくらいの怖気と怒りにかられる。だからバッドマナー。勝手に他人を鑑定してはいけない。
ところでナツメは、リュックを鑑定されたらヤだなと思い、そこからふと、他人の持ち物を鑑定したらどうなるのか気になった。流石に村にいる時に村人に対して、バッドマナーに連なる発想が浮かぶほど性格が腐ってはなかった。自覚がないだけで人を殺したことによる内面の変化はあるのだろう。
リュックには所有者の有無があるし、門を観て街の情報をとれるし、鑑定文にナツメの名も出てきた。
もちろん権限というやつが相当重要だとは思う。この使い方が知られると「余の臣……」ってあといくつ王様のめんどくさい展開に繋がってるんだよ、とナツメはウンザリする。
それはさておき鑑定を深めてみようか。
『ホランド(二四歳♂)
トモコッティを拠点に活動する冒険者。
荷を各地に運ぶ商人の護衛依頼が中心。
その裏で、魔石の運び屋をしている』
おやおやコイツ服から犯罪臭がしますぞ? そしてプラズマや五行の発見なんかもこれだけど、鑑定しまくりすぎたぼくだからできるテクらしい、文章から魔石に意識を移すと……。
『魔石
買い取りは冒険者ギルドのみ。他は違法。
ギルド及び軍から国有の加工施設に運ばれ、
魔導具の部品と燃料に加工される』
文章に魔石と書くからには鑑定さんは魔石について知ってるんだよね教えてー、と甘えてみるのがコツ。次は魔導具が気になるなぁ。いや魔導具はずーっと気になってたけど鑑定文に出たのは初めてだ。権限が上がったのが大きいなこれは。
『魔導具
魔石に魔法を付与し、魔石を燃料に
動く道具。主に兵器が研究開発されて
いるが、民生品もある。細部は機密』
はいはい大体カラクリは分かりましたよコイツら組織ぐるみでやってんな。
いや別に誰がどこでなんの犯罪してたって知ったことではないけどさ、絡んできたしムカつくからサクっと潰すか。
「で、コオロギって誰ですか?」
「ナイオギだっ! しらばっくれんな」
「とぼけられると思ってんじゃねぇぞ」
「昨日ギルドでお前ともめたことは調べがついてんだよ」
あ、やべ。演技じゃなくフツーに忘れてた。雑魚すぎて。死体を鑑定して見た名なんて知ってると言うわけないけど。
「はいはい、意味不明に襲ってきて一瞬で潰れた虫ケラね。知るわけねーだろこのエピソードのどこに名乗り合うシーンがあんだよ調べがついても頭使えバカ」
「てっ━━」
「はい落ち着けチンピラどもー。実はぼく、鑑定スキルを持っていましてね、キミたちの事情は大体察しましたよ。ホランドさん、マリクさん、トゲットーさん、カムイさん、デクスタさん」
チンピラ五人、ギョッと後退った。鑑定されたら誰でも気付く。なのに気付かず鑑定された。人は理解の及ばないものを恐れる。
「そのナイオギとかいう虫ケラがキミたちの仕事仲間だったと。でもそれとぼくになんの関係が? ギルドで潰したあとは知らねーよ。教会でも探せよ」
「ナイオギはお前を狙ってダンジョンに入った。そこまでは分かってんだよ。そしてアイツらは出てこない。探してもいない。じゃあ答えはひとつだろ。あんなんでも貴族の一員だから、あとは、分かるな」
プッ、と噴き出してみせる。貴族と言えばビビるとでも思った? あーもうコイツらも世界中の王侯貴族も、全員まとめてゴブリンキングの前に出してぇ。あのまばたきひとつ隙を見せたらこの世から消されるプレッシャーに比べたら、全員亀甲縛りで枝に吊るされたイモムシだろ。ぼくとキングに笑わせる以外のなにができるつもりだよ。
そしてコイツらには、暴力で片付ける価値もない。情報を制す者が世界を制す。人なんて情報だけで簡単に潰せるって遊んでやろう。
「分かんねーよ貴族だからなに? ボクたちも貴族の仲間だから逆らったら怖いでちゅよー、とか言ってんの? 笑わせんな。あんなんでもとか言ってる時点でせいぜい男爵家を放逐された三男程度だろ。利用価値もねーくせに脅しの材料にしてやんなよアイツがカワイソーじゃん」
「てっめ、さっきから黙って聞いてりゃ好き放題……」
「オレらの団結ナメてんじゃねぇぞコラ」
「どう受け取ろーと勝手にしろ。お前はアイツをダンジョンで殺した。否定しても意味はない。どう落とし前をつけるかってだけの話だ。いつまでヘラヘラ笑ってられるか見てやるよ」
「ププっ、そのナイオギとかいうヤツ、お前が殺したくせによくいうね、ホランドさん」
「はあ?」
「鑑定スキルで全部見えてるっつってんじゃん。国外に魔石を密輸する、バレたら確実に首がとぶ犯罪で稼ぐキミたちが、元貴族っつーから役に立つかと仲間に引き入れたナイオギ君は、無駄にプライドが高いだけでなんの役にも立たないカスでした。そのくせ分け前をもっと寄越せと強欲でウザいから、ぼくとのトラブルを好機ととらえてダンジョンに誘導したと?」
「な、なわけ━━」
「あとから俺も入って背後から始末してやるから待ち伏せしろ、とでも言ってお前が待ち伏せしてたのかな卑怯だねー。てかホランドさん、あなた、似た手口で他にも仲間を消してますね。えーと、バンガーに、ホッブ?」
「あ、兄貴が?」
「ホランドさんっ、あんた、俺の兄を!」
「ち、ち、違う、なに言ってんだデタラメだっ!」
おー、カッとなって殺っちゃった現場、初めて見た。やや遠くから話はよく聞こえなくても兵士がずっと見ていたし、他にも街人の目撃者多数の現行犯でスピード逮捕。二人逃げようとしたところを、石畳を凹ませて足首グネらせて阻止したけど、ぼくはほぼノータッチ。
四人と死体ひとつ、応援に駆けつけた兵士たちに連行される前、ホランドをナイフで滅多刺しにしたひとりは地にへたりこみ、兵士に腕をとられて立ち上がらされながらぼくと目が合った。
「なぁ、兄貴はなんで殺されたんだ?」
「さあ? 全部嘘だし」
鑑定でお前の家族構成とダンジョンでゴブパーティにやられた享年は観たけどな。あごがはずれそうなくらい大口を開けた四人に笑ってあげる。
「鑑定されたら気付くでしょ。常識じゃんまだ信じてたの? まぁキミたちの団結ってそんなもんだ、バイバイ。あ、兵士さん兵士さん、コイツら魔石の横流しをしているらしいですよ。ぼくも仲間にならないかって誘われました。なるわけないのに失礼しちゃう。エンジアンノ子爵閣下の顔に泥塗るとかふてぇヤツらだ。取り調べはてってーてきにやっちゃって下さいコイツ鉄の処女なんておもちゃとか言って笑ってましたよお疲れ様でーす」
『トモコッティ
行政区南、兵士詰所の地下牢隣りには尋問室があり、
口をわりやすくするための脅し用として、吊り籠、
アイアンメイデンなどの拷問器具がある。大体未使用』
怒りで顔が真っ赤に茹で上がった連中に手を振った。ぼくの話が全部嘘は色々おかしな点はあるけど、あれじゃなにも考えられなくなってるだろうねチョロい。
始めに本当のことを話して信じさせて、後半嘘を混ぜると引っかかる。詐欺師のテクだお気をつけて。




