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鑑定文を読みたくて  作者: 丘上
第一章
20/32

20



 闇を潜った先は大部屋だった。突き当りまで進むと壁にレバー。ガチャコンと上げてゴゴゴと部屋が上がる。

 なんとなく、そう、なんとなく街に出る気がしていたからちょっと焦った。なるほどこういうパターンね、と知ったかぶりして二層に到着。


 実際二層から街に帰るルートはありがたい。なんせナツメ、今魔石ゼロの銅貨一枚すら持たない可哀想なコです。全部溶けちった。このダンジョン、どこまで貧乏人に厳しいのか。

 というわけで今夜の宿代と飯代は稼がなければ。すでに飯は出ない木賃宿を覚悟している点に全ディングリー国民が泣く。嘘みたいだろ、ぼく、今日、ゴブリン王国滅ぼしたんだぜ?


 神剣売れば良かったのに? ないない。あんなん特大厄ネタじゃん。

 大金と地位と名誉が手に入り、「余の臣下にくだれ」と命令されてもめる未来が確定だっつーの。

 この力がバレて国に所属したら、絶対、ぜーったい、戦争に使われる。王の善悪は関係ない。戦争は一国だけでするのではないのだから。


 勝った負けたの縄張り争い、チンピラ同士の喧嘩の延長線上でしかない戦争なんてバカバカしい。思い込みを破壊したフィジカルの可能性を知り、ラグナロクという滅亡を予感させる言葉を見て余計にそう思う。


 スキルでもない気合いで短剣折ったゴブリンキング見たあとだと、もう人の世になんの脅威も感じない。

 人の世からしても、ぼくのような化物に深入りしてはいけない。チカット村は賢明にも追い出した。他の連中は、さて?


 ぼんやり考え事をしながら通路をてくてく歩き、出会うゴブリンパーティを歩きの速度で殲滅し、死体が靄になるまで索敵し、魔石になったら拾って歩く。にしても二層に人間の気配がまったくしない。一層は結構賑わってたのに。


 身体の調子は全力出してないから分かりにくい。気持ち三十パーセントくらいでこの層はいける。前回はどうかな。慣れただけかも知れない。多分睡眠のおかげで調整(アジャスト)が進んでいる。

 肉体よりも、内面が明らかに進化した。魔力操作の感覚がおかしい。魔力は感じるしかない。それはそうなんだけど、魔力視のスキルとは違う意味で今は視えるようになったとでもいうか、分かる器官が生えたような。


 具体的には鑑定しなくても相手の属性が分かるようになったし、戦闘に魔法を使えそうな気がする。クイズに答えながら二人同時にあっち向いてホイに勝つくらいはできる脳になったかも。試してみようか。


「シッ」

「マイナスは内へ」


 視界の限界、五メートル先から放たれたアーチャーの矢を避けながら詠唱開始。


「グギャッ」

「プラスは外へ」


 ソードマンの横薙ぎの剣閃に向きを合わせて、逆手に持った短剣を下から上へ振り抜くと敵の剣は抵抗なく斬れた。今までは打ち合いはさけていた。刃先を鋭く薄くしている短剣は簡単に折れるからと。凄いな。剣を振る軌道はミクロン単位で数万通りある中の、正解はひとつ。刃筋を通すってこういうことだったのか。剣が弱いのではなくぼくが弱かった。


「ジェスギョー」

「風に乗ってさあおゆき」


 剣が半分になって固まったゴブリンを前蹴りで飛ばし、死角から飛び蹴りしてきたファイターの右足を、ノールックの左手で下から押してひっくり返して起句(トリガー)。


「ライトニング・ストーム」


 パパパパァァァン、とナツメから全方位に雷が走って戦闘終了。

 詠唱開始から起句まで三秒ほど。今までは三秒どころか一秒の隙だって自殺行為だった。

 魔法は複雑になればなるほど集中を要するから無制限ではないけど、簡単な魔法は近接しながら問題なく撃てそうだ。

 そして。ナツメは笑った。この感覚は先がある。もっと鍛えたら近接しながら複雑な魔法も撃てるようになる。つまり……、まだレベルアップする。表記がどうとか知ったことではない。


 そう結論づけて自分を鑑定したら肯定された。


『EX


 エクストリームの略。規格外。

 これ以上の分類は無意味の意味』


 確かに、比較するものがなければ無意味か。致死量の毒をSと呼び、その五千倍の毒をS×5000と呼ぶ意味はなに? Sで死ぬんだから誰にとってもSでいいじゃん。


 表記、レアリティといえば。ナツメは肩にかかる紐を鑑定した。


『収納袋(★★☆☆)


 収容量、1m³(1m×1m×1m)。中は亜空間。重量無効。

 魔力による一度きりの登録契約。登録者のみ利用可。

 位階3(微生物)以上は不可侵。下級アーティファクト』


 サンプル不足だから暫定だけどほぼ間違いなく、☆が五個で★とカウントしてるよね。つまり☆より下はないのか。いや、ぼく基準で変わるのか? 母さんの手料理が☆だった事実をどうにか美化できませんか?

 いやまぁというのは冗談で、☆の範囲は一番広い。普通、という意味に受け取っていい。EXと同じく下限のほうも、度を超えたものを分類する意味はないから。


 物の価値について、明らかに上質となると☆☆に上がり、人が作れるものの限界が星九個、表記は★☆☆☆☆。


 そこから先はアーティファクトと呼ばれる、ダンジョンで手に入る不思議アイテムの分類になる。


 ★★からは下級、★★★が中級、★★★★が上級、そしてEXが超級。


 中級と上級はまだ見たことがないけどこれで合っているでしょ。


 つまり、このリュック、鑑定されたらヤバいな。「余の臣下にくだれ」ルートがこんなとこにも。

 見た目は凄くないから大丈夫だとは思いたいけど……、うーん。


『収納袋(★★☆☆)


 所有者登録済み。防水、防汚、隠蔽、頑強、

 認識阻害の魔法が付与されていて、権限の

 ない者に鑑定されても袋(☆)としか出ない』


 大丈夫やで! と言われた。アラやだこの袋ったら優秀。

 


 

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