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鑑定によるとスライムは、死体には数分で現れる。ゴミにもいずれ現れる、とあった。
いずれがどれくらいの時間か分からないのと、愛用の背負い袋がゴミ判定されるのかが分からないから博打ではあったけど、ちゃんと現れて、黒い炎に巻き込まれて倒されて、モンスターにも効いた。ゴミ判定は素直に喜べないけどね。失礼な!
ずっと風の膜を張り続けて良かった。無色透明、一瞬でエリア全体に拡散する腐蝕性の猛毒ガスって鑑定文よりはるかに凶悪な仕様やんけ!
これって他のダンジョンでも、仲間が死んでも長期戦を行いスライムを巻き込み敵味方全滅ってパターン、絶対あるよね。
ナツメは心臓をバクバクさせながら見下ろす。なにが起きたか分からないなりにヒーラーたちは回復魔法を全体にかけて抵抗していた。そしてキングだけはまったく影響を受けてなくて、逆にそれが混乱を強めて玉座に座ったままキョロキョロしていた。
これで全員死ぬとは思ってないし、ダンジョンのボスには魔法系のギミックは無効か、なるほど。
心にメモしながらナツメは呼吸を整え集中した。
スライムパニックは詠唱の時間稼ぎ。
この隙をつく巧者がいたら笑って死亡でいいさ。
キングは動かない。デキる王は、神輿に乗ったら臣下に任せて腕組み待機。ここまでの観察で、セコい不意打ちはしないって信じられる。
「精霊と物理は陰陽和合を以て一如とす。相克反転、液体水素(水)は固形酸素(土)と交ざりて生命の樹(木)となり黄金律(金)を砕き、電磁の嵐を超えたプラズマ(火)が影を揺らす。我が名において急急如律令、サーモニュークリア・ランナウェイ(熱核暴走)、セット」
ナツメの周囲を丸い水が囲み、透明な膜が包み、全方位に放電している。超圧縮の反作用、中心にいるナツメにかかるはずの圧力も物理法則を無視して螺旋を描いて外へ、宇宙へ。
準備を整えたら地上へ降下。玉座の一歩前。軽く宙に浮いたまま、ナツメは挨拶した。何重にも遮られて、向こうには口パクだろうけど。
「よお王様。これを喰らってまだ座っていられたらぼくの負けでいいよ」
「━━━━」
ゴブリンキングは玉座横に立掛けられた飾り気のない無骨な鞘から長剣を抜き、立ち上がって大口を開けて斬りかかろうとした。
遅い。ナツメは微笑んだ。極度に集中が必要な、隙だらけの準備段階は済んでいる。あとは起句のみ。
「新星爆発」
ドッ
ナツメを中心に極大の光が迸り。
壁も床も柱も天井も、そしてもちろん玉座も。
ダンジョン産の見た目以上に頑強なそれら全てが一瞬で蒸発した。
「くくく、ヤッバ、なにこれヤッバー」
風の防御壁に熱操作で外部の影響を遮断して、ナツメは惨状に笑う。
陽炎もあるとしても、なんか空間全体がグニャリと歪んでいる。
巨大生物の内臓にいるかのような、周りが生きて蠢いているように見える。
未だ高熱に溶かされ白煙を噴きながら急速に再生しようともがく生命力に、その意地汚いエネルギーに、ナツメはなんだかダンジョンが人の魂で作られている説に納得してしまった。
そして━━、警戒は怠らない。
これだけの経験をしてレベルアップしないってどういうこと?
戦闘は終わってないんでしょ。
お前、まだ死んでないんだろ。
数分後、白煙がおさまり王宮の基礎工事が終了みたいな、上下左右閑散とした石壁のみの空間に作り変わった。
そこに佇む光る玉。
ああ、とナツメは理屈を超えて理解する。
サクリファイスは自己犠牲と引き換えにした奇跡か。
アイツら、回復魔法を商売にするこの街の教会よりはるかに高潔じゃん。
ナツメの見る前で、玉はふくらみ、光りは弱まり、ゴブリンキングの形をとった。
二メートルを超える巨体。基本に還るつもりか、半裸に剣一本。ただし腰蓑ではなく腰巻きは羅紗で織られた赤地に金の刺繍がゴージャス。
腕も足も、ナツメ八人の手足を束ねたようなトリックアート。
太ももなんて緑だしお化けピーマンにしか見えない。「ちんじゃおろーすー百人前!」とか大会に出たら言われるんだぜ、とマッチョを夢見る少年は内心毒づく。なんの大会かは本人も知らない。
それでも弱味は見せない。
「よお、王様。タイマンでケリ、つけようか」
ボッ
返事は突然両者の距離を消して振り抜く長剣の一閃。
水平に迫る死をナツメは仰け反ってかわし、キングの左膝を右足で凍らせながら蹴って距離を離す。
左手一本で床を押し込み、バク転途中で宙に作った見えない圧縮空気に足をかける。
そして宙から前にジャンプ。距離を詰めていたキングの懐に入り、火花でまばたきさせる。
逆手に握った短剣を身体に寄せて、トリプルアクセルくらい余裕の高速回転。
キングは目を閉ざされても剥き出しの胸板が斬り刻まれても気にせず、ナツメを両腕でハグしようとしてきた。
そこをナツメは刀身に高圧電流を流してスパーク、傷痕が炭化するほどの衝撃で後ろに下げる。
キングは感電にビクビク痙攣するも、武者震いのようにもっと大きく自分から震わせて咆哮すると、さらに苛烈に近付いてきた。
床を凹ませても石槍を生やしても、ついでに画鋲だらけにしてみても、キングは踏み込みひとつで全破壊して進む。
口周りを真空にしてみたけど、この魔法は術者がかけ続けるもの。キングはなんか気合いだけで周囲の魔術干渉を吹き飛ばした。ナツメには冗談としか思えない方法だった。
長剣どころかパンチ一発でも喰らえばあの世行き。
一発一発攻撃の度にボッと風を切る。
スキルなんて小細工に頼らない。圧倒的フィジカルこそパワー。
ナツメは素直に感動した。
これが本物の『王』だ。
言葉の駆け引きなんていらない。
胸を借りるがピッタリ当てはまる人、初めて見た。
やるかやられるか。こんなにカッコいい人、敵でも味方でも憧れる。
こういう人に会いたくて、村を出たんだ。
視線誘導からの右にフェイント、振り下ろされた剣を空振りさせて左に回る、即座に反応して裏拳のように高速で水平に振り抜かれる剣は、やはり空振り。ナツメは死角に入った瞬間空気の足場を無数に作って飛ばし、キングの頭上へ。
振り下ろした短剣をキングは仰け反って回避。飛び散る血潮。額に刀痕がついても意に介さず、振り抜いた長剣を引き戻すように空中へ斬撃。そこにナツメの姿はなく、地にしゃがみながら一閃。両断するはずの足首は、しかし身体強化が何重にもそこだけかかったかのように覇気を帯びて、短剣は小枝のように簡単に折れた。
ナツメはノータイムでサイドステップ。心は折れていない。
そこへ振り下ろされる長剣は空振り。その剣を右足で踏みつけ、左足は階段を登るように空気の足場で体勢を整え、右掌に氷の円錐を尖らせ顔面に叩き込もうと━━。
キングは躊躇なく右手を剣から離して体勢を崩さず渾身の左フックを━━。
「あああああーっ」
「ゴォォォォーっ」
ガチ恋距離でレーザービーム。キングの両眼を貫き脳を焼ききった。
え? 脳筋対決なんてしませんよ。猟師は熊を殴り殺したら一流ですか?
もとよりMINがD、魔法防御が低めってとこにしか勝機は見出だせなかった。
にしても短くて、長かった。斬る以外の神聖な、もしくはインチキななにかを感じる剣を手放させ、冗談みたいな防御はさせない、限界まで接近してやっと手に入れた好き、いや隙。
「はぁ、はぁ、はぁ、あー、しんど。もう無理、これなんか色々くるの、無理ー」
コボルドの時よりはるかに濃厚な奔流が体内で暴れ回り、ナツメは荒い呼吸を繰り返して耐えた。
二、三分経って落ち着いて、お楽しみタイム、自分を鑑定。
『ナツメ LV EX』
え、カンスト? もうバトルいらないコ? 俺たちの冒険はこれからだ、みたいに〆たほうがいい?




