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鑑定文を読みたくて  作者: 丘上
第一章
17/32

17



 ゴブリンジェネラルは大火傷で死屍累々。魔法的に色々防いでますとかなければ、砂漠の戦士は革鎧しか着ないように、フルアーマーに高熱ってただの拷問ではある。


 ただし、そんな地に伏せた巨漢の絨毯(じゅうたん)に淡い青緑の光がいくつも重なり、巨漢は次から次へとむっくり立ち上がった。


 目を転じると後方、ゴブリンプリーストの半数は巨漢に向けて短杖をかざし、同じ青緑の光を放射している。

 もう半数は遅れて自身を囲む半透明な壁を消したところ。そして広範囲に見えない回復魔法を飛ばし、軽症で済んでいるメイジやアーチャーも自然体の構えに戻った。


 さらにそのうちの数人がグギャグギャ唱えて杖を掲げると、青緑の光を浴びても倒れたままの巨漢に真っ白な光の柱が天井から降り注ぎ、同じくむっくり立ち上がる。その中にはナツメが膝蹴りで頭を潰したゴブリンもいた。


 つまり全員無事。なんならノーダメージ。


 まぁね、分かってはいたさ。空から降りたナツメはグギギと強がる。

 プリーストは結界で防ぎ、ジェネラルは装甲と身代わりで仲間を庇(かば)い、プリーストが全快と蘇生を使ってチャラ。

 もう何度も何度も思ってるけど、ダンジョンレベル☆じゃないよね。

 ナツメはグギョギョと歯ぎしりする。少し洗脳されかけてる。おっといけないと頭を振って弾いた。


「グオアァー」


 改めて身体強化をかけ終わったゴブリンジェネラルから次々と、一瞬で距離を詰められるスキルの縮地で突撃してきた。そして床の凹みにつまずいて矢継ぎ早にヘッドスライディング。飛んだ先の床から斜めに生えた石の小さな三角錐に頭を貫かれて死亡。すかさず天井から白い柱が降りるが、顔が潰れて床をバウンドした死体の、その床から再び針を生やして脳を刺しているから、蘇生が失敗というか成功と同時にまた死んだ。


 蘇生を使うプリーストは、全員さっきとは違うメンツ。

 気配察知でマーキングしていた敵のパターンを分析して、ナツメはダッシュした。


「スキルってさ、持ってるだけじゃ意味ないんだよ。蘇生は死因を取り除いてからかけないと不発だし、縮地は一直線の瞬間移動。自分でコントロールできない速度で背中を押されるから予想外(イレギュラー)ひとつでつまずく。無様だね、司教様に将軍様」


 例えば膝カックンされると真下に落ちる。残像が見えそうなほど速く落ちる。その力を下から斜め下に変えて、落ちる前に足を踏み出す、筋力ではなく重力を利用した、出の見えない体重移動の技術を縮地という。そういう仕組みを読み解いて、使いこなしたスキルが実力に変わる。


 ナツメの接近に合わせて横薙ぎされたハルバードを、ナツメは倒れそうなほどの前傾姿勢で潜り抜けた。ジェネラルはスルー。

 前衛が前がかりになって崩されて、回復がかからず右往左往する後列に飛び込むと、流れ作業のように首を斬り飛ばした。

 慌てて結界で身を守るプリーストは無視。接近されて無力なメイジの首をはねる。


 メイジは靄になる前に蘇生できれば構わないと、多少の犠牲を織り込んで、ナツメの周囲をジェネラルが囲み、やや離れて隙間をアーチャーが狙う。こういう冷酷な割り切り、人間には難しいだろうねとナツメは呑気な感想をいだく。


 ハルバードを振り上げたジェネラルの隣りを駆け抜け、次のジェネラルが振り下ろすハルバードを右に飛び蹴りするようによけて、隣りのジェネラルの横薙ぎの柄を掌打しながら軽く跳んで顔に短剣を刺し、そのジェネラルの胸甲に片足をつけて床に跳ぶことで水平に飛んできた矢をかわし、着地代わりに床を割ったハルバードを上から全力で踏みつけるとビターンと落ちて、その勢いに引っ張られて前かがみのジェネラルの顔に右エルボーからのプラズマ発火で炭化させ、飛んできた矢をその場でターンしてかわしてからの、床から飛び出した石が落ちたハルバードを弾き、それをつま先ですくい上げてタワーシールドの死角からダッシュ。目の前に突然浮き上がった穂先にたたらを踏んだジェネラルの左隣りに現れ後ろ回し蹴りのような挙動で膝裏を刈り、カクンと落ちたジェネラルの顔に左掌打、からの氷柱でブスリ。


 これらを残像だらけの一瞬で行い、ナツメはターゲットを見失ってハルバードを振り上げたまま固まったジェネラルに振り返った。


「縮地は踏み込む一歩ごとに使うんだよ将軍様」


 そしてまた距離を置こうとしていた後列にダッシュ。


 トップクラスに警戒していたスキルはジェネラルの予見だが、全然使いこなせていないと安心する。縮地でずっこける自分の未来も見えないとか、これは近接中に使えないタイプだね、と分析。


 メイジの空間魔法も注意していた。そんな魔法があることが初耳だし、瞬間移動、空間断絶による絶対防御とか、最悪な使い方を警戒したけど、やはり魔法職(ウィザード)は発動までに隙だらけの時間がかかることが弱点らしく、爆発に巻き込まれて怪我していたから問題なしに変わった。詠唱破棄イコールノータイムでもなさそうだね。


 一番ヤベェと恐れているスキルはプリーストのサクリファイス。これ絶対味方を生贄にトンデモモンスターを召喚するヤツじゃん。ただし、ここはゴブリン・キングダム。ゴブリンのみの縛りがあるはず。まさかゴブリンエンペラーとかゴブリン(勇者)とかいますか?


 そのあたりの不確定要素に怯えつつ、ナツメはそこら中に降り注ぐ白い柱を視界に入れて短剣を振るう。


 蘇生は相当な魔力を消費するはず。連発するプリーストはいない。全快だって消費はエグいのでは?

 つまりナツメの描く勝ち筋は、消耗戦。プリースト全員の魔力が尽きてからが本番。それまでに全員の動きを見切る。それまでにキングが立ち上がるかどうかの問題かも。

 もうひとつ勝ち筋を考えているけど、これは博打。あまり当てにはしない。


 縮地をためらい機動力が極端に落ちたジェネラルを翻弄しつつ、後列を虐殺したり矢の軌道を変えてフレンドリーファイアさせたり、絶え間なく戦い続けておそらくは二時間以上経過したころ、未だ敵全員元気に向かってくる現状にげんなりしていたナツメはビクっと痙攣した。覚えのある気配を感知。


 そして今までは前に、後列に向かっていたのを左に全力ダッシュ。そのナツメを追うように黒い炎の放射が迫る。

 撃ち出す魔法をパクられたメイジは、かけ続けるタイプの魔法のみに切り替えた。このあたりの判断は見事とナツメも感心する。

 

 王宮を右から左へ、大きく弧を描くように黒い炎がなめて、ナツメが風を操り天井まで飛ぶと、メイジもアーチャーもここが決め時と大技を発動しようとして、突然絶叫を上げた。

 いや、メイジとアーチャーだけではない。ジェネラルもプリーストも身も世もない苦鳴に暴れ、グズグズに溶け出した。


 そう、スライムが現れて倒されていた。ナ(・)ツ(・)メ(・)の(・)放(・)っ(・)た(・)背(・)負(・)い(・)袋(・)を(・)目(・)指(・)し(・)て(・)。


 


 

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