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大部屋に散らばった魔石を回収するのが地味に辛い。
ガラスのように少しは光を反射するから見つけられはするけど、五メートル外は暗くなるダンジョンでウロウロと。最初から種まきのように角から直線に動いて探すべきだった、と何度も思いながらウロウロと。
『魔石(☆☆☆)
ゴブリン下級職の魔石。冒険者ギルドの定める等級はE-3。
相場は銀貨一枚』
大部屋にいた十二体のやつ。
『魔石(☆☆☆☆)
ゴブリンリーダーの魔石。冒険者ギルドの定める等級はE-4。
相場は銀貨三枚』
ゴブリンシーフと二層の通路にいるゴブリンはE-2、相場は銅貨五枚だった。
昨日よりは稼げたぞ、をモチベになんとか拾いきる。十三個、ちゃんとある。
でもE-1は銅貨三枚が二枚に、E-2は三枚だったからなぁ、とスンと暗くなる。
金はほどほどに稼げたらそれでいいとは思うからスルーしてあげるけど、他の冒険者はよく平気だね。
とりあえず今日の目標は脱・木賃宿。ご飯の出ない最低限の宿は心がきしむ。
魔石を背負い袋にしまい、改めて決意表明して顔を上げるとソレに気付いた。
壁に等間隔に松明のオブジェがついている。オブジェというのは、赤く光っているけど燃えていないからだ。
燃えているように見える灯りの魔導具?かなにか。ダンジョンの小道具に疑問を持っても不毛な気はする。
その松明には最初から気付いていたけど、一ヶ所だけ、消えた松明に似せたレバーが壁についていた。
「怪しい。怪しすぎるぞチミー」
ナツメはなんかテンションが上がって鑑定。いきなりガチャコンさせるほど無鉄砲ではない。
『ギミック
作動させるとなにかが起こる。
トラップの場合もある』
でしょーね。なにが起こるのかを聞いてんだよコンニャロー、とナツメはレバーをガチャコンさせたった、つもりでできなかった。びくとも動かない。周囲に風の膜を張って五感を研ぎ澄まし、あらゆる事態に備えてみたけど空振りだった。
なんでもない、てことはないよね? 周囲に鍵穴とか窪みとかは……、ない。同じくギミックの特別なアイテムが必要ってわけではなさそう。
じゃあ考えられるのは。ナツメはピコーンと閃いた。
他にもこういう出入り口がひとつの大部屋があって、ガチャコンさせる順番が大切。もうそれが正解としか思えない。
ナツメは駆け足で部屋を出た。怪しいのは外周だね、と大勢の気配がする部屋を探して。
そろそろ他の冒険者が二層にくるかも知れない。ここの需要は知らないけど、近寄られるだけで迷惑だ。
ぶっちゃけ、モンスターより人間が怖い。大部屋で真剣に戦っている時に入られたら、その相手が善意でも悪意でもどんなつもりだろうと最悪だ。
モンスターは敵だから対応を迷わない。人間は敵味方の判断が大変だし、味方のフリをして背中から刺してくるか、味方のつもりで足を引っ張ってくることもある。
だから早めに調べてしまおう。
予想通り、外周に沿って走っていると、同じ大部屋を見つけた。
急いでいるから魔法で終わらせる。
「水素分離に冷却からの酸素圧縮、プラズマ着火でご機嫌よう、エクスプロージョン」
チュドンと終了。しかも壁に沿って魔石が落ちてて便利。
魔石を拾い終えて、突き当たりの壁を見るとやっぱりレバーあり。鑑定文は同じ。ガチャコンチャレンジはー……、失敗。
ところでトラップの場合もあり、とはどういう意味だろう? この二層のガチャコンにトラップが混じっているのか、世の中のダンジョンにあるこういうギミックにはトラップもあると言っているのか。言葉ってムズい。
たったか走って十分ほど、大部屋発見。
どうやら二層は大きな丸として、一層への出口は中央にあり、東西南北の四ヶ所に大部屋が配置されてるっぽい。
一回目は北で動かない。二回目は西で動かない。これから南に入るとこ。
チュドンと片付け魔石を回収。レバーも発見。
そろそろトラップがきそうでなにかが危機一髪の緊張感にビビりつつ、鑑定からのガチャコン。
ガチャコン
ホントにガチャコン言った!
後ろに飛び退ってキョロキョロ、腰を落として身構えるもなにもなし。
なんなん? もうやだ、なにが起こるか分からないストレスでイぃーってなる。「よくぞ試練を突破しました勇者よ」とか言って女神が現れても反射で攻撃するかも知れないくらい気が立っている。
ヒントを刻んだ石碑くらい用意しとこーよ。
帰りたい思いと全部知るまで帰りたくない思い、悪魔と大悪魔の言い争いを脳内で繰り広げながら東へ。女神を攻撃してはいけませんって天使は簀巻き。
そしてチュドンからの魔石回収。まともに戦ってないゴブリンリーダーは泣いていいと思います。明日ちゃんと戦ってあげるから。
ふーふー息を整え鑑定からのガチャコン……、成功。
全身に魔力の嵐が吹き荒れる。そろそろなにかこないとぼくからいったるぞなんか出てこいやぁ。
しばらくキョロキョロするもなにもなし。
青春が爆発する感じに疾走して北へ。倒してから一時間弱かな。まだわいてなくて無人の大部屋。配置は一日一回とかだろうか?
もうさっき鑑定したからそのままガチャコン。キョロキョロ、はいはいなにもなーし。
ちょっと気が抜けてダラダラ走って西へ。
おそらくはここでなにかが起こる。流石になにもなしはないでしょ。
心臓が平常なビートを刻むまで待ってからガチャコン。
ゴゴゴゴ……、ゴォォォン
大部屋が丸ごと降りた。すげぇ。悪質なトラップが発動すると半ば信じていたからいい意味で裏切られた。ダンジョンって感じがするぅー。
こんな大掛かりなアトラクションは初めてだから、ナツメはしばらく感動の余韻を味わい、落ち着いてから唯一の出入り口に向かった。
そこは目の前まで近寄っても先が見えない闇になっていた。つまり三層目か。ナツメは迷わず潜った。
光量が今までより明るい。目をしかめてピントの調整を待つ。
また大部屋か? そんな思考も一瞬のこと。ナツメは愕然とした。
そこは王宮だった。ああ、そうだよ、ここはゴブリン・キングダムって鑑定文が言ってたじゃん。ナツメは場違いに笑いたい衝動に襲われた。
謁見の間を彩る、左右にズラリと並ぶ二メートル級のフルプレートアーマー。漆黒のローブに身を包んだウィザード。純白の法衣をまとったヒーラー。総勢……、軽く百は超える。ナツメは数える気にもなれなかった。そんな連中よりもっと強大な存在が、ナツメの正面ずっと奥、玉座に座っていたから。
『ゴブリンキング
STR SS VIT SSS INT D
MIN D AGI S DEX S』
背後に感じる、入ってきた入口は消えていた。
「控えめに言っても最悪のトラップだよ」
ナツメは背負い袋を放り投げると、もう我慢せず笑ってしまった。




