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『ナイオギ・フェルト・エンダロール(元)(死体)
エンダロール男爵家の三男。成人して家を出て
からはナイオギのみ。貴族関係の役職に就けず、
レベルも低く、冒険者になるしかなかった。
少年ひとりに絡んで粘着する前に殺された』
通路に転がるぼろ雑巾のような死体を見下ろすナツメの目は果てしなく冷たかった。
人を殺した後悔も、貴族関係者を手にかけた焦りもない。
むしろ父の言う通り、コイツは冒険者ではなくただのチンピラだし、かつて自分が言った通り、チンピラは人の見た目をしたゴブリンだ。いや、ここでは魔石を落とさないからゴブリンにも劣る。
これで貴族出身とか貴族に対する侮辱であろう。
ナツメの関心は死体の顛末についてだった。モンスターの死体は靄になって消える。コレはどうなる?
数分も経たず、死体に粘体生物が近寄ってきた。半透明でブヨブヨしてそうな、直径一メートルくらいの、ゆっくり動く水たまり。
ナツメは興奮した。知ってる。聞いたことある。スライムだっ!
『スライム
全てのダンジョンに発生する、モンスター
ではなく仕掛けになる。モンスター以外が
死ぬと、近くの壁や床から湧き、死体を
取り込み吸収する。ゴミでもいずれ現れる』
マジか。モンスターではないのか。鑑定しても怒ってないし、物、なのかな。
じゃあ遠慮なくと鑑定続行。
『スライム
物理攻撃には耐性があり、魔法攻撃に弱い。
倒しても魔石はなく、腐蝕性の猛毒ガスを
広範囲に散布する。死体のそばでは慎重に』
うわぁ、モンスターと思って攻撃してたら……。ナツメは震えた。
これ、情報は共有されてるのかな?
スライムを面白半分に倒したら悪夢とか聞いたことがない。
軍は流石に知ってると思うけど、各々勝手にダンジョンに潜る冒険者は、こういう情報の蓄積を常識として備えているのかな。そうでないのなら、どんなにレベルを上げたパーティでも、どこかであっさり死んじゃうような。スライムをうっかり倒したパーティは全滅して、情報を持ち帰れないだろうから。
『スライム
主に侵入者の死体を取り込み、レベル、
すなわち魂の位階をダンジョンに還元
する。役目を終えると溶けて消える』
えぇ……、レベルとは魂の位階って……。還元ってことは、ダンジョンは魂から作られている? 鑑定文ってたまに匂わせてくるよお。
もう、まーた考察捗っちゃうじゃん眠れねー。とか文句を言いながらナツメはニヤニヤ笑って先に進む。
『ゴブリン・キングダム(三回目)』
途中、壁を鑑定しながらルートを確認。昨日行って帰って、今日見て三回目なら正解ルート。ちょっとした鑑定テク。
昨日と違って早朝だから気を遣う他人もなく、ナツメはハイペースでゴブリンを辻斬りしがら走り抜け、二十分足らずで二層への入口に到達した。
今日も今日とて背後からゴブリンシーフとやらが近寄ってきているけど無視して入口に入り、いったん気配察知を広げて周囲を探る。
二体や三体のまとまった気配がぽつぽつと。ここからは対集団か。
ナツメは一度深呼吸をして気の流れを整えた。
気力操作は気闘法の基本にして極意。
ほとんどの人は身体強化のスキルが生えるとそちらを多用する。
しかしナツメは幼いころになんちゃって太極拳、元気の舞を編み出して自然から気を取り込み、鑑定で自身の変化を探りながら独自の呼吸法を見つけ、気力操作で全身を活性化し続けた。
結果、武仙術という謎スキルが生えて、身体スペックが人間離れを始めた。
ありていにいうと、ナツメは数年前から種族“人”を辞めて“仙人”になっている。
ガワではなく内面の進化。筋力が異常ということはなく、反射神経と思考速度と技術が異常。常人には速すぎて見えないはずの、高レベルコボルドの動きを単調と見切り、ゴブリンもチンピラも人形のように処理できる、これが理由になる。
つまり。
「グギャア」
気合いとともに棍棒を振り下ろそうとする右腕の、その肘を掌底で弾いて隙だらけの首を短剣で切り裂き。
「ギャ?」
突き出された石槍は半身を引いてかわし、腹の隣りを通り過ぎる柄を掴んで引っ張り、無防備に突っ込む喉に短剣を一閃。同時に槍を引く力でやや左を向きながら、抱きつく形になる首なしゴブリンを右脚を折りたたんでガードして、勢いよく前蹴りで死体を飛ばす。
「ギギッ」
四メートルほど離れて左側から弓を撃とうとしていたゴブリンは飛んできた首なしゴブリンに慌ててバックステップ、射撃をキャンセルしてしまった。そこへ。
「マイナスこっち、プラスはあっち、ライトニング」
パァン、と派手な音が鳴り、閃光のあとには弓を持つゴブリンは炭化していた。
三体のゴブリンパーティも問題なく処理して、ナツメは死体を鑑定した。
『ゴブリン
身体強化 棍術』
『ゴブリンランサー
身体強化 槍術』
『ゴブリンアーチャー
弓術 毒矢』
「ちょっと強くなってる。やらしー」
一般的な新人からするとちょっとではない。この二層で集団戦の基礎を学んでルーキー卒業といわれる。
戦闘開始前に放り出した背負い袋を拾い、靄になって消える死体跡から魔石を回収しつつ、ナツメは立ち回りを考える。
気配察知で探ると、ここへ向かう敵パーティはなし。オリジナルな雷魔法でわざと大きな音を出したけど聞こえてないっぽい。五メートル先は暗がりで視界が悪くなるように、音も遠くに伝わらないしこちらも遠くの音は聞こえない、と。
あれ? じゃあさっきの、五十メートル先で大爆発させたアレ、結構な音だったけど、本当はもっと大きい?
村では迷惑をかけないよう、雷雨の日に威力を抑えてこっそり試し撃ちとかしていたから、勘違いしているかも知れない。そのうち改めて魔法実験していこう、と心にメモをする。
あとは、戦闘に攻撃魔法を組み込んでみたけどやはり使い勝手が悪い。舐めプに等しい。
思いっきり格下だから通じるのであって、強者にあんな戦い方はありえない。なんなら閃光とか自分にスタングレネードを使うバカだ。自分がゴブリンアーチャーだったら仲間の死体を盾にして、棒立ちの自分を射抜いている。
じゃあ、新しいスタイル、試してみるか。
ナツメはもっと数の多い場所を求めて歩き出した。




