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『ゴブリン・キングダム(☆)
ゴブリンのみで構成されたダンジョン。
ゴブリンシーフがトラップを仕掛けているが、
普通の人は引っかかるほうが難しい。未踏破』
岩山の中は洞窟だった。地面も壁も天井も黄味がかった茶色の岩肌。
光源はないのに五メートル以内は見えて、その先は急に薄暗い。
ナツメは壁を鑑定して不思議に思う。未踏破なんだ。
入口から一本道を進むこと数分、別れ道に到達、右の奥から複数人の声が聞こえる。
「ゴーシュ、前衛交替、回復しろ」
「おう、任せる」
「いくよ、根源たるマナよかの名は火の鳥燃やし尽くせっ、ファイアーボール」
「とどめは俺がーっ」
気配察知によると四人パーティVSゴブリン一体。まぁうん、ここは新人だらけらしいから。
ナツメは左の道を進んだ。
レベルについては父オーサムから詳しく聞いた。
命を懸けなければレベルアップしない。例えば高レベルの人がモンスターを瀕死にして、レベル一の人がトドメを差す、そんな接待に意味はない。
モンスターを倒すと、おそらくは魔力か魂的ななにかが拡散すると考えられていて、レベル一でも攻撃はしない回復師でも関係なく、参加した全員が努力度とでもいうべき度合いに応じて経験値が分配されて、レベルが上昇する。
負荷をかければ筋肉が増えるように、格上を倒すと身体はもっと楽に戦えるようになれと強い身体に作り変わろうとする。誰にでも備わっている適応力を魔力かなにかで後押しする現象がレベルアップらしい。
要は楽して強くなる道などないということ。
むしろ安全マージンがどうとか冒険しないタイプは、中堅あたりまでは成長できるとしても、逃げグセがついているから強くなるのは難しい。生存率は断然こちらのほうが高いけど。
現実は無情。
レベル一がある日森の中で高レベルコボルドに遭遇することもある。
その時ノータイムで戦うを選択できる狂人が高みへいける。
ほとんどの人がレベル一なのも当然。
ダンジョンのあるこの街の住人がレベル高めなのも当然。
パーティを組んでゴブリンを倒していれば、いくつかはレベルが上がる。
それ以上はまったく上がらないから冒険者が他所へ行くのも当然。
そしてソロは総取りなのも当然。ナツメはニヤリと笑い、駆け出した。
「グギッ?」
相手からも視界は利かないらしく、暗がりの向こうから現れた出会い頭にナツメはゴブリンの首を撫で斬りするように滑らせてはねた。
グリップの弱いブーツで踏ん張って止まり、振り返って死体を鑑定。
『ゴブリン
モンスター最弱の代名詞。人間とスペックはほぼ同じ。
可能性も同じ。どこまでも強くなりえる。武器は多様。
ダンジョン産に個性なし』
緑色の肌に黄色い目、歯は冗談のようにギザギザ。眉間の上にコブがある。身長は百六十くらいのナツメより少し低め。右手に加工の雑な棍棒を握り、腰蓑だけつけた半裸の肉付きは貧相。でもイメージに反して汚れというか、垢臭さはなく、野生とは違うとすぐ分かる。
じっくり観察する暇もなく、ゴブリンの死体は靄がかかって空気に溶けてしまい、ほんの数ミリ、小指の先ほどのかけらが残った。
『魔石(☆)
ゴブリンの魔石。冒険者ギルドの定める等級はE-1。
もっとも価値が低い。相場は銅貨三枚』
命を懸ける対価としては酷いな。ソロで一日十五体倒せばギリ生きていけるくらい? そりゃレベルだけ上げたら他所に行くわ。ナツメ、納得。
一層はゴブリン単独でしか現れないという初心者に優しい設計らしく、まるで危険を感じない。再び駆けて、気配を感じると次はゆっくり対峙した。
『ゴブリン
気力 D 魔力 F
STR D VIT D INT F
MIN F AGI D DEX E
スキル なし』
ふむふむ。STRは筋力もしくは攻撃力、VITは体力もしくは防御力、INTは知性もしくは魔法か特殊攻撃力、MINは精神力もしくは魔法系の抵抗力、AGIは移動か反応の速度もしくは技の出の速さ、DEXは器用さもしくはスキルなどを使いこなすセンス、ってとこかな。
参考にはなるか。実は素早いとか初見殺しを回避する役に立ちそうかな。こういう情報に頼りすぎると墓穴を掘りそうな怖さがあるけど。
ま、一層はもういいか。
ナツメはダッシュした。
鑑定されて怒り、踏み込み棍棒を振り下ろす、その右側面に左ステップで回り込み、背後をさらに左ステップ。上から見て三角を描く機動で左側面に抜けながら首筋に一閃、はね飛ばした。
首から凄まじい勢いで血が飛び出したけど、死後数分で靄がかかって全て消えて、魔石だけが残る。返り血に汚れないのは助かるけど、どんな仕組みなんだろう?
ナツメは謎に取り組みたい衝動と戦いながら魔石を拾い、先に進む。
道は何度も枝分かれして、行き止まりで引き返したりもしつつ、特に問題なくタッタカ走り続け、出会うゴブリンの多くはキョトン顔で宙を舞った。
ナツメの得物、短剣は刃先を限界まで鋭くしていて、ゴブリンの身体を容易く切断する。
生活魔法と呼ぶにはもういろいろ無理がありそうな技術の一環で、周囲の気体液体固体のなんでも成形できる。短剣も砥石いらずの常に切れ味マックス。
その代わり、打ち合いに弱い。硬い物に当てなくても、多分一回刃筋を通せないだけで刃が欠けるか折れる。
でも、それでいい、とナツメは理解した上で使う。
レベルアップしたところで自分は非力な少年。モンスターに力で対抗するのは愚か。
ダンジョンに入っておよそ一時間弱。他の冒険者の気配を避けるなどの手間によって時間がかかったけど、二層への入口を発見した。
外の入口と同じく、壁に大きな穴が空いていて、中は暗くて見えない。それはいい。それはいいんだけど、穴の隣りに炭で塗り潰したような黒い円が描かれて、手前の地面は広くワラが敷き詰められている。
『トラップ(☆)
落とし穴。底に錆びた剣が逆さに刺さっている』
でしょーね。どう引っかかると? 『ディングリー王国の王都はチカット村である。◯か✕か』くらいのサービス問題じゃねーか。
ナツメは出口に引き返した。魔石は十六、いや、今背後から近付いていたゴブリンを始末したから十七個ゲット。今日は様子見。宿代稼いだからゆっくり休み、明日じっくり攻略しよう。
宿で食べるご飯を想像して、ナツメの足は軽やかだった。
……余談だが、トラップには引っかからないけど、ゴブリンシーフにバックアタックされる新人はそれなりにいる。




