08 夜会へ
(どういうことなの……? ああ。そうだわ。彼は大魔法使い。行方不明になった子どもが、どこに居るかなんて、簡単に……)
「っ……出来るのですか……?」
ルーファスが伝説級の大魔法使いだとはわかりつつも、未だに実感を湧かせることが出来ないサブリナは、目を見開いて聞いてしまった。
「僕には出来るよ。君がそれを、望むのならね」
「どうか……どうか、助けてあげてくださいっ!」
サブリナが祈るように手を組めば、ルーファスは面白げに微笑んだ。
「では、そうしよう。僕が今から探してくるから、サブリナは着替えておいで」
ルーファスは先ほどサブリナが入って来た大きな扉を、するりと出て行ってしまった。
慌てて彼女が追い掛ければ、そこには強い風が吹いていて黒い雲が沈み行く太陽の光を飲み込んでいた。もうすぐ、光のない夜がやって来るだろう。
(ああ。もう、探しに行ってしまったの……? 凄いわ。ルーファスは本当に、大魔法使いなんだわ)
サブリナが着替え終わらぬうちに、ルーファスはあっという間にずぶぬれで衰弱している男の子を抱えて戻り、使用人に身体を温めて寝床を用意するように命じた。
近くの村に住む両親は使用人の知らせを聞いてやって来て、回復するまでは居ても良いと言ったルーファスに泣いて感謝していた。
その後に、二人は着替えて晩餐室にて、食事を前に向かい合っていた。
「あの……ありがとうございました」
「別に良いよ。他ならぬ君のお願いだからね。聞かない訳にもいくまい」
向かい合った席で食事を始めながらサブリナがおずおずと感謝の言葉を口にすれば、ルーファスはこともなげに頷いた。
(どうして、私なのかしら……ルーファスは、何でも出来る。それこそ、彼が望めば一国の王女様とでも、結婚することも出来ると言うのに)
現在、アシエード王国には王女は居ないが、国王は、もし娘が居て彼が望んだのならば、すぐに差し出しただろう。
娘を嫁がせてアシエード王国全体が救われるのであれば、間違いなく国王はそうしたはずだ。
けれど、大魔法使いルーファスは、恋人として扱うサブリナの願いならばと、何でも叶えてくれそうだ。
サブリナがルーファスに恋人だと言われて戸惑っているとわかっているはずなのに、彼本人は微笑んで見つめているだけで、それを何故なのかと理由を聞こうと話しもしない。
◇◆◇
川に落ち込んで帰れなくなっていたフレディという名前の男の子は、翌朝になれば体調も戻っており、眠れずに同室で看病をしていた両親と帰宅することになった。
昨夜から同じように宿泊していたサブリナは、家族三人が涙を流しながら感謝を述べて帰って行くまで付き合ったが、フレディを助けてくれた当事者であるルーファスは、その場に顔を出すことはなかった。
「あ。ルーファス。何処に居たんです? フレディもご家族も、貴方にお礼が言いたいと言っていたのですが」
天候も回復しそろそろ自分も帰ろうとしていたサブリナは、どこからか現れたルーファスに言った。
「いや、お礼を言われるべきは、助けてくれと頼んだサブリナだから。僕は君にお願いされなければ、何もする気はなかった」
「っ……はい。ありがとうございます」
(私が何も言わなければ、行方不明だったフレディに何もする気はなかったということよね……アシエード王国だって同じ事だわ。私がお願いしなければ、自分はこの国と無関係だと言っていたもの)
彼には救える能力があるから、そういう人助けをし出したらキリがないのかもしれない。
ルーファスはいつから生きて居るとも知れぬ年齢不詳な大魔法使いで、どこか退廃的で世捨て人のような空気を醸し出していた。
自らは何も望んでいないような、そんな人だと言うのに、サブリナの願いだけは叶えてくれるつもりらしい。
「サブリナ。ラディアント伯爵邸に帰るのか? 夕食を食べて帰れば良いのに」
「ああ……ごめんなさい。今夜は出席を予定していた夜会があるのです……既に招待を受けると返して、直前で行けないと連絡することは、大変無礼な行為になってしまうので」
もしかしたら、それはルーファスも良く知っていることなのかもしれない。けれど、彼がどんな生まれであるか、そんな基本的な事も聞けていない現状の中で、サブリナが言える言葉はここまでだった。
(……ルーファスは人を使い慣れた貴族らしい振る舞いをすることはあるけれど、彼が貴族だったという、確たる話はしていないもの……ああ。けれど、魔界の扉を封印して貰うまでは、何の問題もないようにしなければならないし……)
「では、僕も一緒に出席することにしよう」
ルーファスが何を言ったのか一瞬理解することが出来ずに、サブリナは彼の言葉を頭の中で噛み砕いた。
(私と……舞踏会に共に行くって、そういう事で、エスコートしてくれるとそういうこと……?)
「え? あ、あのっ……ルーファスも、私と一緒に出席を?」
思いも寄らぬルーファスの返事を聞いて、サブリナは戸惑いつつ答えた。
「ああ。それが、何か問題でも?」
彼から不思議そうに問われて、サブリナは慌てて首を横に振った。
「いえっ……それは、何の問題もありません。けれど、ルーファス。服はどうしましょう。舞踏会には、服装規定があるから……」
魔法使いの決まりか何なのか、ルーファスは常に黒いローブを羽織っている。それは貴族たちが集まる場所ではあまりに目立ち過ぎ、正装の服務規程がある場所では相応しくないだろう。
「問題はない」
ルーファスがそう言うと同時に彼の黒いローブは、その瞬間、貴公子然とした貴族服へと変化した。
(凄いわ……瞬く間に、着ている服が変わってしまった)
瞬く間の出来事にサブリナは驚いたが、彼は大魔法使いと呼ばれる存在だということを思い返し魔法だと納得して大きく息をついた。




