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救う気ゼロの大魔法使いは私だけに夢中。~「迎えに来るのが遅くなってごめんね」と助けてくれた見知らぬ美形に話を合わせてみたら~  作者: 待鳥園子


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04 葛藤

「そういうことだ。だが、ルーファス様がお前のことを気に入ってくれたようで、本当に良かった。本当に、助かったよ……」


 その時、急に父が自分を見る視線が鋭くなり、サブリナは息を呑んだ。


(お父様……怖い)


 けれど、それは無理もない事なのかもしれないと思い、サブリナは小さく息を吐いた。


 アシエード王国が滅亡してしまえば、王侯貴族は何もかも失う。そして、国民たちだって多くの命が失われることになるだろう。


 実際に、父の命だって掛かっているのだ。


 窮地にあるアシエード王国の今後は、それを救える能力を持つ大魔法使いルーファスの気分により、左右されることになってしまった。


「お父様……」


「良いか。サブリナ。ここまでの話を聞いてよくよく理解していると思うが、これからお前の行動に、アシエード王国の今後が掛かっていると言っても過言ではない」


 アシエード王国にある魔界の扉の封印が解かれ、無関係だから救うつもりはないと言っていた大魔法使いは、恋人と呼んだサブリナが『願ったから』と救ってくれることになった。


(そうだわ……私が実は恋人ではないとわかってしまえば、あの方は……)


 実際には、サブリナはルーファスと初対面で、心を通わせるような過去の記憶もない。だが、彼はサブリナを恋人と呼んでいる。


 このことが何を意図しているかはわからないが、国王陛下や大臣たち、特に父フレデリックにとっては思わぬ幸運を掴んだと思っているはずだ。


「良いか。ルーファス様より何かを求められれば、お前は応じねばならぬ」


「っ……お父様。けれど、それは……」


 貴族令嬢であれば、結婚式までに必ず純潔を貫くこと。それが不慮の事態であっても出来ないのならば、サブリナはまともな貴族相手に嫁ぐことは出来ない。


「お前の言いたいことは、私にもわかっている。陛下は必ずその後の責任を取り、二人どちらかの殿下の王子妃に、サブリナを必ず迎えると約束してくださった。お前があの方の傍で役目を果たしている間、大魔法使いルーファスと何があっても……だ。わかるな?」


 父を通じてアシエード国王より提示されたそれは、サブリナにとって破格の条件だと言えた。


 サブリナは身分上、王族に嫁ぐには問題のない高位貴族の伯爵令嬢ではあるが、母の看病で二年間も社交界デビューが遅れ、王位継承権を持つ年下の王子たちにとって最適で完璧な相手であるとは言えない。


 それに、本来ならば王侯貴族に嫁ぐ女性は、家の血を繋ぐことを考え処女でなければ許されない。


 だが、サブリナがルーファスから求められてその役目を果たすのならば、それすらも不問にすると言っているのだ。


 国王がどれだけ追い詰められているのか、この事だけでもわかろうと言うものだ。


「はい……わかりました」


(いいえ。それだけ、アシエード王国の今後が……私に……私の行動に、掛かっているということだわ……)


 サブリナがルーファスから好意を持たれていれば、彼は彼女のために国を救ってくれるだろう。


 こうして、求婚者を募る年頃の伯爵令嬢であったはずのサブリナの細い肩には、アシエード王国の今後、いや全国民の命が掛かっていると言っても過言ではない重責を課せられる事態になってしまったのだ。



◇◆◇



 無関係だと渋っていたものの奇跡的にサブリナからの願いには頷いてくれたルーファスは、あれからすぐに王家の森にある封印が破られた『魔界の扉』へと趣き、簡易的な封印を施したらしい。


 だが、本格的な封印は伝説に残るほどの大魔法使いルーファスの力を以てしても、ある程度の期間が必要だろうという見立てであった。


 大魔法使いルーファスがサブリナの願いに応え、アシエード王国に滞在することになり、父フレデリック・ラディアント伯爵は、急遽彼の住居を用意することになった。


 その間、ルーファスが滞在する邸が必要になる。王家の森は禁猟区で、ほぼ人の出入りはない。すぐ近くに小さな村があるが、それは畑を作ったり工芸品を作ったりして生活しているらしい。


 だが、自然が好きな変わり者が王家の森近くに別邸を建てていて、また都合の良いことに、まだ使用しておらず家具調度は真新しいという。


 フレデリックはその邸の情報を聞きつけ、すぐに使用出来るように家具ごと言い値で購入し、清掃のためラディアント伯爵家の使用人を何人も向かわせていた。


 ルーファスが引き受けてくれた理由となる娘サブリナのこともあり、国王に世話を任されている父は、寝る間を惜しんで忙しなく動き回り準備を整えていた。


 そして、翌日の夕方には城で休んでいるというルーファスを迎えに行く段になり、当然のごとく娘サブリナにも同行するようにと伝えた。


「……良いな。サブリナ。絶対に大魔法使いルーファス様の機嫌を、決して損ねてはいけない。彼の気分に、我らの命は掛かっているのだ」


「はい……」


 父よりこれまでに再三言い含められているサブリナは、その言葉に大人しく頷くしかなかった。


 魔界の門が開けば、アシエード王国は滅亡してしまう。


 それは、疑う余地もなく、確かなことだった。


 大魔法使いルーファスの機嫌を損ねず、封印を掛けて貰う三ヶ月間、何故か気に入られたサブリナが粗相をしなければ彼に救って貰えるだろう。


 あの時、恋人のお願いだからとルーファスは頷いた。


 もしかしたら、それはサブリナと誰かと勘違いしているのかもしれないが、勘違いしたままで進めて貰えるのがアシエード王国にとっては一番に都合が良いことだった。


(嘘をつくのは、嫌だわ……けれど、私がそうしなければ、魔物大暴走(スタンピード)が起こってしまう。それだけは防がなければ)


 真面目な性格のサブリナにとって誰かを騙し、それで助力を得ることについて、心の中に何の葛藤もないと言えば嘘になってしまう。


 だが、アシエード王国の滅亡と自らの良心の呵責(かしゃく)を秤に掛けて、どちらに傾くのかと問われれば、考えるまでもないことだった。


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