31 約束
ルーファスの持つ魔力が回復し、すぐに封印が緩んだ『魔界の門』へ完全な封印を施してしまった。
ダミアンと名乗って幼い姿で居た頃は、出せる魔力にも制限があったようで、彼はあの時に泣き出してしまったサブリナを思い、完全な封印をするまでは姿を戻すまいと思っていたらしい。
けれど、もうルーファスは姿を変えている必要もなくなった。
当初は国王陛下からの感謝も祝いも何も要らないと固辞したが、それでもと押し切られ『ラディアント伯爵令嬢サブリナと釣り合う身分を』と望めば、王家の持つ領地と空位になっていたマクティア公爵を与えられた。
近い将来、ルーファスはマクティア公爵を名乗ることになり、サブリナもマクティア公爵夫人と呼ばれることになるだろう。
アシエード王国が救われてから、ルーファスは爵位を受け取った手前、すべての誘いを断るという訳にもいかず、二週間ほどは自由になる時間はなかった。
そんな彼に未来の妻として同行したサブリナも、ルーファスはこれまでに誰も気にせず自由な生活をしていただろうに、それでも自分の傍に居たいという強い意志を感じ、やはり不思議になっていた。
(初対面の私のことを恋人だと言うし、結婚をしたいと言う。どうして、ルーファスは私のことを……そこまで?)
サブリナはルーファスの事を好きになっているし、彼の離れていると思っていた間には、その思いがより強まったと言って良い。
けれど、それを聞く機会はなかなか訪れず、何もない一日が訪れるまで、持ち越されることになってしまったのだった。
◇◆◇
「おはようございます。ルーファス」
「ああ……おはよう。サブリナ」
結婚式を控えた頃には、マクティア公爵仮邸と呼ばれることとなった王家の森近くの邸に、サブリナも共に生活していた。
サブリナが食べ終わり食後のお茶を楽しんでいた頃、朝食の席に現れたルーファスは、どことなく疲れていて気怠そうだ。
けれど、そもそも彼はとある公国の公子であったという過去があるので、貴族らしくそつのない社交もすることが出来る。
アシエード王国の貴族社会でも、上手くやっていけるだろう。
ルーファスとサブリナはここ二週間ほどは、アシエード王国社交界に加わった大魔法使いに喜ぶ貴族たちに引っ張りだことなり、常に社交の場に連れ出される事態になってしまっていた。
「あの……ルーファス。今日は何の予定もないですよね?」
もしかしたら、自分の知らない予定があるかもしれないとサブリナが確認すれば、ルーファスはゆっくりと頷いた。
「……いや、今日は君と共に行きたい場所があるんだ。サブリナ」
「え? 私と一緒にですか?」
サブリナは彼から、思わぬ事を言われ驚いた。
「ああ。僕が君と初めて会った時のことを覚えているか? サブリナ」
「えっ……えっと……」
サブリナは咄嗟に、どう答えるべきか悩んだ。
既にルーファスには誤解をしているとわかっていて、それを利用していたと話していたのだが、どう誤魔化すべきかと思ってしまったのだ。
「いや、僕と君の認識は同じで合っているよ。サブリナ。夜会の夜、君は複数の男たちに囲まれて、困っていたよね。あの時で合っている」
「え? ええ」
彼が何を言わんとしているかをまだ理解出来ず、サブリナは戸惑いながら頷いた。
「あの時、僕は魔女に、いきなり召喚されてね……ああ。必要があったので、住んで居る場所まで明かしてしまったことが間違いだった。だから、僕はすごく……不機嫌だったんだ」
その時、視界に入る風景が変わり、サブリナは驚いた。
そこは先ほどまでに居た貴族らしい邸ではない。山の中にある、大きな木の中にある小屋だった。
以前、海岸に移動した時と同じように、座っている椅子と一緒に移動したらしい。
「その原因がこれだ。この魚は僕の好物なんだ。久しぶりに釣れて、やっと食べられると思ったら、あの城の中に居て……最悪だったよ」
四角い食卓の上には、切られて食べる食前だったのか、皿に盛られた魚の切り身が干からびていた。
(まあ……これが、あの時にルーファスが不機嫌だった原因? 久しぶりに好物を食べられると思った矢先に魔女アデライザ召喚されたから、だから、あんなにも不機嫌だったのね)
あの時の彼の態度を納得し、そして、召喚した魔女を追っていたルーファスの怒りの原因を知り、サブリナは面白くて笑ってしまった。
「ふふふっ……だから、とても不機嫌そうだったのね。」
「そう。あの魔女には謝罪を受けたし、サブリナと会えたことには感謝しているから」
ルーファスがそう言って立ち上がったので、サブリナは慌てて追い掛けた。巨大な木の上に出来たうろを利用して作られた小屋に住んでいるらしく、短い廊下からは深い森、緑の地平線が見えた。
(すごいわ……アシエード王国から、どれだけ離れてしまっているのかしら)
それも、ルーファスは一瞬で移動出来てしまうのだから、彼がどれだけ魔力を持つ魔法使いなのかわかろうものだ。
「あの……前々から聞きたかったんだけど、私を迎えに来たって、どういう意味なの?」
以前から聞きたくて、それでも聞けなかった疑問を口にすると、ルーファスは振り返り答えた。
「え? ……ああ。サブリナは困っていたようだし、あの場を助けるための嘘だった。けど、サブリナもそれに乗っかってきたから、面白いから続けていた」
その時、サブリナはルーファスの面白そうな表情を見て、何も言えなくなってしまった。




