28 肉弾戦
暗い視界の中で、ルーファスはモードレッドの攻撃を一身に浴びながらも、何色もの光に包まれても歩みを止めることはない。
余裕を持ってモードレッドへと近づき、近距離になると右手を振り上げて殴りかかった。
「ぶっ……何を! お前は山に永遠に篭もってろよ! なんで、こんな場所に召喚されたんだよ!!」
「その文句は、俺に言うべきではないだろう」
細い身体は呆気なく地に落ちて、ルーファスはモードレッドの腕に持っていた杖を取り、無造作に投げた。
カンカンと金属音を立てて呆気なく転がった。
「止めろよ! あれを手に入れるために、どれだけの犠牲を払ったと思っているんだ!!」
モードレッドは甲高い声で抗議をした。
「では、後生大事に胸元にでも忍ばせていれば良いのではないか? 誰にも見せずに、誰にも知られずに……僕ならそうする。本当に大事な物ならば」
ルーファスは倒れたモードレッドの胸元を持ち、顔を引き寄せて低い声でそう言った。
「……お前に俺の気持ちは、わからない。ルーファス。居るだけで何もせずとも、すべてを手にしやがって」
悔しそうに言ったモードレッドに、ルーファスは鼻を鳴らして笑った。
「周囲の皆を、地獄に巻き込む……? だったか。ああ。そうだな。僕は一国を地獄に落としたのだから、その通りなのだろうな。知らぬ者は、なんとでも言う……僕が何を失って何を手にしたかなど、本人に聞かねばわからないのだからな」
ルーファスに間近で目を合わせそう言われたモードレッドは、その迫力に言葉を失い、何も言うことが出来ないようだった。
(……ルーファスは自分のせいで故国が滅亡したと言っていたけれど、あれは、モードレッドも知らないことだったのね)
大魔法使いルーファスは名前以外謎に包まれていて、それ以外を知る者は居ない。だから、モードレッドもあんなにも悲しい過去があるとは知らず、ただ妬んでいただけだったのかもしれない。
ルーファスが彼の胸元から手を離そうとした時、いくつもの影がにじり近寄ってきた。
「こいつか、魔界の扉の封印を解いた犯人は! それに……俺たちを救ってくださる魔法使い様に、なんということを!」
「そうだそうだ!」
「魔法使い様は、うちのばあさんの命も、助けてくれたんだぞ!!」
「なんという自分勝手な言い分だ!」
気が付けば周囲には、館に居る使用人たち、それに近くの村民も集まっていた。
モードレッドが使った攻撃魔法は、かなり派手なものも多く、その音や光などを見て駆けつけてきたのかもしれない。
「なんという奴だ!! 罰を受けろ!」
「縄で縛れ!! 王国騎士団に突き出すぞ!!」
「どうして、こんなことをしたんだ!」
「信じられない!!」
呆気にとられていたモードレッドは、あっという間に縄でぐるぐる巻きにされて、村人たちに運ばれていった。それをどうにかしようと魔法を使う気力もなくしてしまっているのか、彼は悄然としていて去って行った。
そして、それを少し離れた場所で見るルーファスは、どことなく嬉しそうだった。
(これまで、山奥で住んでいたというけれど、彼は人が嫌いという訳でもないものね……ルーファスは孤独だったんだ)
ルーファスは魔物に見つからぬように魔力を操作出来るようになってからも、人里離れた山奥で暮らしていたと言う。
自分の存在で故郷がなくなってしまうというとんでもなく強烈な過去があるのだから、それは仕方ないことなのかもしれない。
「あの……ルーファス?」
「サブリナ……待ってくれ。これには、ちゃんとした訳があるんだ」
近付いて彼の名前を呼んだサブリナに、ルーファスは慌てて言った。
(どういう訳があると言うの……だって、子どもの姿になって、私と一緒に居ただけだと言うのに。私が彼に会いたいと言ったけれど、それを黙っていたことを?)
今考えれば確かに恥ずかしいが、それを彼にさせてしまったのは、サブリナだった。
「私……その、ルーファス。ごめんなさい。私……あの」
「ああ……ごめん。サブリナ。力業で押し切ったせいか、もう限界で……」
ルーファスに対して今まで言えなかったことを勇気を出して話そうとしたサブリナは、突然ふらりと身体が倒れてしまったルーファスの身体を慌てて支えた。
「誰か! 誰か来て!」
近くに居た護衛騎士が数人でルーファスの身体を抱えて、邸の中へと入った。
あれだけ連発される派手な攻撃魔法を防ぎきり、それに、加えてモードレッドを逃がさないようにしていたのだ。
彼がどんなに大魔法使いと呼ばれようと、魔力が無限にある訳ではないし、弱ってしまっても仕方ないことなのかもしれない。
(……すぐに謝りたかったけれど、仕方ないわ……ゆっくり休んでもらって、それからちゃんと話すようにしましょう)
これまでにルーファスとは全くの別人のダミアンとして接していた時間が、とても恥ずかしいものに思えて、サブリナは複雑な気持ちになってしまうものの、彼に会って話したいこと謝りたいことがたくさんあった。




