27 封じられた魔法
「モードレッドか……これをして、お前に何の得がある」
(……ダミアンの知り合いなのかしら? それに、なんだか話し方が)
ダミアンは冷静にそう言い、サブリナはそれまでの彼ではない気がして、違和感があった。
「うるさいうるさい。お前になど、俺の気持ちなど、わかる訳もない。お前は一体なんなんだ。大したこともやっていないというのに、お前が世界で一番の魔法使いだと皆が持て囃す。周囲の皆を地獄に巻き込むお前のような奴は、悪魔のような妙な魅力を放つんだ。誰も幸せに出来ないというのに」
コードウェル公爵の姿はみるみる内に変わり、そこには黒いローブを着た男が佇んでいた。
銀色の髪に血の色に見た赤目の男。容貌は整っているものの、歪んだ表情を浮かべ、苛々とした様子を見せていた。
「……では、お前が世界で一番の魔法使いで良いではないか。僕はそれで別に構わない」
「お前のそういうところが、本当に嫌いだよ。心からな」
冷静に返したダミアンに、モードレッドと呼ばれた男は答えた。
(世界で一番の魔法使い……? それって)
サブリナは彼らの話を聞きながら、その部分が引っかかってしまった。それは、ダミアンではない、ここに居ない人の別称のような気がしたからだ。
「……何故、魔界の門を開放した。魔物大暴走が起きれば、この国だけではない。周辺諸国を巻き込み、相当に恨まれるだろう。お前にはこのアシエード王国を焦土にして、何の得がある」
「別に焦土にするつもりなんて、なかったよ」
ダミアンが静かに聞けば、モードレッドは肩を竦めて、にやりと悪い笑みを浮かべた。
「理解出来ないな。どういう意味だ……?」
「封印は確かに壊したが、俺が修復するつもりだった。そうすれば、俺はアシエード王国を滅亡から救った英雄となり、お前の言う周辺諸国からも讃えられるだろうな」
「そのために古くからある魔法を壊し、封印を解いたというのか? なんと、馬鹿な事を」
「別に良いだろう。すぐに封印を施せば、魔界の門は開かない。魔物大暴走は起きない。俺が讃えられるだけに終わった。そこの女が居なければな……!」
呆れかえった声音でダミアンは言い、モードレッドはサブリナを指さした。
「わっ……私ですか!?」
これまでの話の流れで、まさか自分こそが諸悪の根源であるとされるなど、信じられない気持ちだった。
「そうだ。お前だ。お前が、ルーファスを留めなければ、俺がすぐに出て行く予定だった。だと言うのに、ルーファスが居れば俺は用済み、長い時間を掛けて計画したことだというのに、すべてが無駄になってしまった……お前のせいでな!」
衝撃波がサブリナを襲い、ダミアンはそれをそのままモードレッドに返したようだが、彼の前で何事もなかったかのように消えてしまった。
「……これで、魔界の門の封印を解いたんだな? 魔法を打ち消す古い魔導具か。禁じられた遺跡にでも盗掘に入ったのか」
モードレッドは小さな杖のようなものを振り、高笑いをした。
「はははははは!! ご名答だ! ご自慢の魔法は、今の俺には決して利かないんだよ! 残念でした。お前がどんなに攻撃魔法を撃とうが、俺には何の傷も付けられない。残念だったな!」
ダミアンは魔法使いだ。そんな彼が魔法を使えないとなると、攻撃を封じられてしまうだろう。
黙ったままのサブリナは、自分がどうすべきかと迷っていた。
(護衛騎士を呼んで来る……? けれど、ダミアンにもし、何かあれば……)
ここで自分が下手なことをすれば、モードレッドはダミアンに何かする気かもしれない。ダミアンは魔界の門の封印に必要不可欠な存在で、サブリナは国王から彼の世話を任されていた。
それに、モードレッドが再度の封印を施そうが、一度封印を打ち壊した犯人なのだ。その後にも何か妙なことを仕掛けて来てもおかしくはない。
「……では、魔法でなければ、攻撃出来る。そういうことで良いんだろう?」
ダミアンの身長がみるみると高くなり、そこにはルーファスが立っていた。
(嘘でしょう……やっぱり、ダミアンがルーファスだったの? すごく似ていると思っていたけれど……いいえ。魔法使いなのだから、姿を変えることだって出来るはずなのに、私ったら……)
サブリナは驚きながらも、これまでルーファスとダミアンが良く似ていると思ったことを思い返していた。
美しい黒髪と紫の目。それに、整った顔にふと見せる表情。
(良く似ていると思っていたけれど、本人だったのね……嘘みたいだわ)
サブリナは魔法とは縁遠く生きて居たし、魔法使いもそれほど数が居る訳ではない。ルーファスが去りダミアンが代わりに現れたからと言って、彼が年齢を操れるとは考えつかないだろう。
「ふん。そこの女が面倒なことを言ったからと、子どもの姿になっていたんだろう? ……何があるんだ。お前はこれまで山奥に住んで、人とほぼ接していない。だと言うのに、年若いその女に、特別な何かを感じるなど……」
「本当に良く動く、うるさい口だ。物理的に閉ざしてやろう」
ルーファスはモードレッドに一歩近付くと、彼を取り巻くように炎が巻き上がった。
「……ぬかせ。魔法が使えない魔法使いなど、俺の敵ではない」
「お前の魔法くらい、僕が防げないとでも?」
自棄になったかのようなモードレッドが攻撃魔法をいくら乱発しようが、ルーファスは真っ直ぐに彼の元へと向かっていた。焦るようなモードレッドの顔を見て、彼が逃げられないのだとわかった。
ルーファスは自分の魔法では、古の魔法具を持つモードレッドを直接攻撃することは叶わない。だが、モードレッドをここから逃がさないようにすることは、彼には出来るのだろう。
大魔法使いルーファスとってそれは、簡単なことなのだ。




