23 浴室
「ごめんなさい。ルーファスの部屋は、彼が使っていた通りに置いておきたいから……」
いきなり姿を消してしまった大魔法使いルーファスではあったが、またここへと戻って来て来るかもしれない。
そんなルーファスの部屋を代理で来てくれた魔法使いダミアンとは言え、サブリナは誰にも使わせたくなかった。
けれど、使用人たちが使用しているような部屋に客分の彼を放り込む訳にもいかずに、幼いのだから問題ないだろうと、一晩だけ一緒のベッドで眠ることにしたのだ。
「そ、それは構いません。構いませんが、僕は別にソファで眠っても大丈夫なのですが」
恐縮してしまったのか、しどろもどろになりながら、ダミアンは答えた。
彼は年齢がいくつかは知らないが、姿形からして、まだ十歳にもなっていないだろう。しっかりした受け答えをすることが出来て、賢い少年だが、幼いことには変わりはない。
「まあ。とんでもないわ。ダミアンはルーファスの代理で来てくれたとは言え、アシエード王国を救ってくれる存在なのよ。そのような雑な扱いをすれば、私が陛下から怒られてしまいます」
「その……サブリナさんが……怒られてしまうんですか?」
サブリナは国王陛下より、ダミアンの世話を任されているにも関わらず、彼を招かれざる客人のようにソファに寝かせるなど許されないと思って居た。
(そもそも、こちらの館は買い取った段階で、まだ未使用だったから、客室の十分な準備も調っていなかったのよね)
使用する前にサブリナの父に買い取られた訳だが、ダミアンの部屋は今、粗相のないように急ぎで用意させているのだ。
しかし、二、三日は掛かってしまうことだろう。
「ええ。そうです。だから、ダミアンには今夜は、この部屋で私と一緒に眠って欲しいの。良いわね?」
「はい……」
顔を赤らめるダミアンは、サブリナの言葉に頷いた。
「それでは、ダミアン。先に浴室に行っていてくれないかしら」
「わかりました」
サブリナの指示に彼は素直に頷き、先に部屋に隣接された浴室へと向かった。
(さあ……私も髪を解いたら、浴室へ行きましょう……)
ダミアンは貴族が使うような浴室に慣れているとは思えず、サブリナは彼と共に浴室に入る事にした。
「え! サ! サブリナさん!?」
先に浴槽へと入っていたダミアンは驚いて動きが固まって居た。サブリナが身体に撒いていた布を取り払うと、視線を落として恥ずかしそうにしていた。
(……どうしたのかしら。まだ、子どもなのに)
サブリナはそんな彼の反応を不思議に思ったものの、ダミアンはまだ幼く、いやらしい意味で自分を見ることはないだろうと考えた。
隠すことなく堂々と身体をさらけ出して、浴室へと入ればダミアンは固まったように動かなかった。
「どうかしら。浴室の使い方はわかる?」
貴族と平民の生活習慣は違う。幼い魔法使いダミアンがこれまでにどんな生活をしていたのかはわからないが、サブリナのような生活をしていなかったことは確かだった。
髪も身体も特別に調合されたものがあるし、その後に身体に塗る香油も特殊なものだ。使い方を誤れば髪が乾いてもべたついてしまい、逆効果になってしまうものもある。
「はい。大丈夫です……」
目を伏せているダミアンを見て、サブリナは微笑んだ。
「急に入って来て驚かせてしまって、ごめんなさいね。私は貴方のことを任されているから……」
国王陛下からサブリナは、ダミアンの世話を任せられた。それは、彼の生活すべてを問題なく見ろということだ。
浴室での世話は使用人に任せても良かったのだが、それでは何も知らない彼を不安にさせてしまうかもしれないと思い、自分で世話をしようと思い至った。
「どうかしら。身体の洗い方はわかる?」
柔らかな海綿を取ってダミアンへと語りかけた。彼は身体を洗って浴槽へと入っていたのか、それは湿っていた。
「はい……」
俯いたままのダミアンはサブリナの質問に、力なく頷いた。
(もしかしたら、わからないとは言いにくいかもしれないわね……私が実践して教えてあげようしら)
「ダミアン。こっちに来てくれるかしら。恥ずかしがらなくても良いわ」
「ええっ……ええっと……」
「良いから。一通り知っていれば、これからは大丈夫なはずよ」
サブリナが白い泡で身体を洗い髪を洗ってあげても、ダミアンは恥ずかしそうに彼女から目を背けるばかりだった。
髪を乾かしてあげれば黒い髪はサラサラとした絹糸のようで、去ってしまった魔法使いを思い起こさせた。
そして、共にベッドで眠る事になれば、ダミアンは身体を寄せて、サブリナの身体をずっと触っていた。胸を触られた時は驚いたが、親元寂しいのかと思えば、サブリナは彼のしたいことをさせてあげていた。
(ダミアンも、寂しいのかもしれないわね……仕方ないわ)
幼い身の上で親元から離され、ダミアンも寂しい生活をしていたのかもしれない。
その夜、夢の中でルーファスが帰って来たような気がしていたが、朝起きれば幼い子どもが一緒に寝ていて、彼のせいではないとわかりながらもサブリナはがっかりしてしまった。




