22 代理
珍しい先ぶれのない来客が来ていると執事から聞かされたサブリナは、案内されて応接室に向かい、そこには黒いローブを羽織った可愛らしい男の子が居た。
「はじめまして。僕はダミアンです。大魔法使いルーファスの代理でこちらにご挨拶に来ました。魔物大暴走を引き起こす恐れのある『魔界の門』については、僕が封印します」
幼い男の子特有の高い声で元気よくはきはきと告げられて、あれからラディアント伯爵邸に戻り着替えをしてからやっと落ち着いていたサブリナは驚いた。
「……はじめまして。私はサブリナ・ラディアントです……あの、もしかしたら……ダミアンはルーファスと、血縁があるのかしら?」
サブリナはダミアンの姿を見て、素直にそう思った。
黒髪に紫色の瞳。つい先ほど、彼女の目の前から去ってしまった大魔法使いにそっくりな色味を持っているからだ。
それに、まるで人形のように整ったダミアンの顔立ちには、ルーファスと似通った点が多かった。
「いえ。彼とは明確な血縁はありません。しかし、聞けば生まれ育った故郷が近かったようなので、ルーファスとは遠い親戚のようなものなのかもしれません」
ルーファスの祖国は魔物の襲撃に遭い滅亡してしまったと聞くが、国民全員が亡くなったという訳でもないだろうし、どこかで血が繋がっているというのならあり得る話だった。
それに、彼らのように整った顔立ちであれば、似通ってしまう部分は多いのかもしれない。
(ただルーファスと髪と目の色が同じだからと、おかしな事を言ってしまったわ。ルーファスは年齢不詳と言えるほどに古くから生きているはずだし、彼の近い血縁であれば姿は大人のはずよ)
多くを知り魔力を持つ魔法使いだとしても、ダミアンは大人びた少年だった。成人した年齢であれば、大人の姿を持っているだろう。
「まだ、幼いのに……彼の代理を任されるなんて、とても優秀なのですね」
ダミアンの外見を見たところ、まだ十歳にもなっていない年齢だろう。
「その……僕は生まれつき魔力が強いので」
言いにくそうに言ったダミアンに、サブリナはもしかしたらと思い当たる点を思い返した。
(ああ……もしかして、ルーファスが過去の自分と同じような子どもを保護してくれているのかしら……? それで、この子は幼いけれど優秀な魔法使いなのね)
幼くして魔法使いであるという経緯を言いづらそうにしているダミアンに、サブリナは以前ルーファスが話してくれた事を思い出した。
魔力の強い子どもは強い力を得るために魔物に襲われて、殆どの場合は、成長する事なく亡くなってしまう。
(もしかしたら、悲しい過去を持っているのかもしれないわ……あまり触れないようにしましょう)
「ダミアンはルーファスから、詳しい事情を聞いているのよね?」
アシエード王国の現状を知らないならば、自分から伝えるべきだろうかとサブリナが言えば、彼は手を挙げてそれを制した。
「はい。魔界の門についてもお聞きしています。ルーファスの書き付けなども一通り彼から説明を受けました」
サブリナの前から姿を消してから、ルーファスはダミアンを呼び出し、これからすべき事を引き継いでいたのだろう。
(私のためにそうしてくれたのね……ルーファス)
あの時、サブリナは彼を騙すことももう嫌だけれど、救って貰わねば困ると駄々をこねていた。その願いをすべて叶えてくれたことになる。
「わかりました。それでは、私と共に国王陛下への説明に、城へと同行して頂いても? そこで、この仕事に関する貴方への報酬を相談することになると思うわ」
「いいえ。報酬については大丈夫です。僕の報酬はルーファスからいただく事になっておりますので」
にこやかな笑顔をで胸に手を当てて頷いたダミアンを連れて、サブリナはアシエード王国国王へと説明することとなった。
アシエード国王はダミアンからの説明を受け、とある事情でここを去ることになったルーファスの代理で魔界の門を封印してくれることになり、有難いと感謝しながらもルーファスが居なくなった理由を知りたがっていた。
サブリナが何も言えずに困っていたら、ダミアンが『僕に任せられる難度になったので』と言い、一応は納得したようだ。
「……サブリナ。ダミアンはまだ幼い。アシエード王国に居る間は、君に共に暮らしてもらい、世話を頼もうと思うんだが」
「はい。もちろんです。お引き受けします。国王陛下」
国王からの要請に対し、サブリナは頷くしかない。
これまでサブリナはラディアント伯爵邸より通っていたが、幼い魔法使いダミアンとは共に暮らすことになった。
(陛下もルーファスと私が何かあったんだろうと疑ってはいるけれど、代理を用意してくれたのなら、関係は悪くないと思われたのかしら……けれど、魔界の門が完全に封印出来るまでは気が抜けないと思い、関わらせることにしたのね)
窮地にあるアシエード王国の今後は大魔法使いルーファスに握られている現状は変わらない。
ダミアンとて彼の代理としてやって来ているだけで、彼の気が変われば居なくなってしまうかもしれない。
サブリナは王家が派遣した護衛と共に、ダミアンと暮らすことになった。ダミアンに聞けば魔界の門に刻まれた紋様の解析はかなり進んでいるようで、後は完全な封印に向けての準備に掛かるらしい。
幼いダミアンは賢い子で手は掛からないものの、傍に居るサブリナにやたらと甘えたがった。いきなり抱きついたり膝枕したりと、幼い子が母に求めるような接触を求めていたのだ。
(もしかしたら、自分の持つ魔力が原因で魔物に襲われてお母様を亡くされたのかもしれないわ……)
ルーファスの悲しい過去を思い出せば、幼くして魔法使いを名乗るダミアンがサブリナに甘えたがる理由も理解してしまえるようで、サブリナは彼のやりたいようにさせていた。




