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救う気ゼロの大魔法使いは私だけに夢中。~「迎えに来るのが遅くなってごめんね」と助けてくれた見知らぬ美形に話を合わせてみたら~  作者: 待鳥園子


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11 馬車の中での口づけ

「……そうか。それは良かった。サブリナ」


 ルーファスは落ち着き払って、サブリナの腰に手を掛けた。


 彼の行為自体は、別に珍しいことではなかった。先ほどまで二人は踊っている時に、ルーファスはサブリナの腰に手を掛けてダンスをしていたのだから。


 けれど、息が掛かるまでに整った顔を近づけて来た彼に驚いて、サブリナは思わず顔を俯かせてしまった。


「……ごめんなさい」


 舞踏会終わりに、人目を避けて恋人と口づけを。それは、とても叙情的(ロマンチック)で若き乙女なら夢見るような状況なのかもしれない。


 それなのに、サブリナはキスを拒否してしまった。


 それをしてしまってから『しまった』とは思ったものの、時間は戻せない。これからサブリナからキスをせがんでも、無理に合わせたようになってしまうだろう。


(ああ。困ったわ。何をどうしても不自然になってしまうわ。ここから私が彼にキスをしてしまうのも、おかしいわよね)


 ルーファスは恋人だと言っていて自分もその関係を受け入れているのだから、キスを避けてしまうのはおかしい。


 だと言うのに、もう避けてしまった後だった。


「どうして、君が謝る?」


 いまだ息が掛かる程近くにルーファスの顔があって、サブリナは赤くなってしまった顔を上げられずに呟いた。


「私たちは……再会して、間もないので」


 それは、ここで恋人のキスを断る理由にはならないかもしれない。けれど、ルーファスは彼女の言い分を聞いてから、身体をゆっくりと離した。


「それはそうだ。僕たちは長い間、会ってはいなかった」


 余裕ある仕草で足を組み替えた彼は、それ以上はサブリナと距離を近づけようとはしなかった。


 もう一度はないとほっと息をついたものの、サブリナはこれで良かったのだろうかと心の中で葛藤した。


 ルーファスは当たり前のように、キスをしようとした。けれど、それはおそらくサブリナに対してキスをしようとしたのではないのだ。


(本当に……恋人とは、一体、誰のことなのかしら? 間違っているくらいだもの。私にそっくりな、誰かの事よね)


 サブリナは彼に聞きたいけれど聞けないという状況に、そろそろ苛立ちを感じ始めていた。


 父フレデリックからはこの国を救ってくれる救世主たるルーファスに求められれば応じるようにと言い含められ、それにサブリナは先ほど逆らってしまったかもしれない。


 けれど、ルーファスが言う『恋人』はおそらくサブリナではないのだ。


 求められているのは自分ではないことをわかりつつ、彼からのキスを受け入れその先までもと言うには、これまでに大事に育てられた貴族令嬢であるサブリナには、あまりにも難しい行為だった。



◇◆◇



 ラディアント伯爵邸にて、翌朝父フレデリックに会ったサブリナは、昨夜舞踏会であった出来事を彼に報告した。


「……コードウェル公爵。ああ。ベネディクトか。彼が昨夜、サブリナとルーファス様を、睨んでいた……と?」


 父フレデリックは、娘の話を聞いて、不思議そうにしている。


(では、お父様とコードウェル公爵が、何かあったという訳ではないのかしら? 不思議だわ。私との間にも、何かあった訳でもないのに……)


「ええ。お父様。私は何年も前にお会いした時の記憶しかないのですが、私とルーファスを睨んでいたので、もしかしたら、お父様と何かあったのではないかと思ったのです。


 コードウェル公爵とはラディアント伯爵邸に訪問した際にサブリナとは、挨拶程度しか交わしていない。


 そもそも、サブリナはここ二年ほどは病床の母と共にラディアント伯爵領に居たし、話すこともましてや会うことすらもなかった。


 だというのに、まるで憎んでいるかのような、あの視線がおかしかった。


「……数日前に召喚されたルーファス様とはベネディクトは面識がないだろうから、お前に何かあると思ってもおかしくはない。気にするな。彼とは何か行き違いがあるのかもしれないが、お前は今自分がすべき事に集中しろ」


 その時父が鋭く視線を光らせたので、サブリナは慌てて頷いた。


「はい。お父様」


「……ルーファス様はサブリナの願いならと、魔界の門の封印を引き受けてくださったんだ。決して、国を救ってくださるという彼の機嫌を損ねてはならぬ。わかったな?」


「もちろんですわ」


 しかし、サブリナは今のところ、ルーファスから何も嫌なことはされていない。キスをされそうになったものの、避けてしまっても怒るようなことはなかった。


 父から機嫌を損ねてはいけないと指示されても、ルーファスが不機嫌になることはなかった。


 初対面で会った時の、あの不機嫌さがまるで嘘のようだ。


「国王陛下も、魔界の門の封印が一朝一夕ではいかぬと理解しながらも、どうなることかと気を揉んでいらっしゃる。どちらにせよ。我がアシエード王国の命運は、彼に手に握られてしまっているのだからな」


 ルーファスからは魔界の門に描かれた彫刻などを解析し、古の時代に施された封印と同じように魔法を掛けたいとは言われていた。


 その期間は三ヶ月ほどは掛かるだろうと目算されている。だから、彼以外であれば恐らくより長い時間が掛かってしまうのだろう。


「……お父様。そういえば、魔界の門の封印は、何故解けてしまったのですか?」


 サブリナはその事が、不思議だった。魔界の門が開いてしまえば、魔物大暴走(スタンピード)が起きて、アシエード王国が滅亡してしまうかもしれないという理屈はわかるのだ。


 けれど、これまでに解けていなかった封印が、いつの間にか解けてしまうことなど、有り得るのだろうか。

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