第041話 次の相手はスラッガー
水曜日、月曜火曜と二日休んでなんとか登校してきた真美ちゃんと話をした。
なんでも、小児喘息は成長につれて順調に良くなっているものの、風邪気味で熱が出てしまったらしい。
「紗友ちゃんは勉強出来るけど風邪とか引かなそう」
「まあ、バカはバカでも野球バカな自覚はあるからね!」
「単に健康的って意味だよぅ。春の大会はどう?」
「勝ち進んでるよ。今週末が三回戦と準決勝で、来週の日曜日が決勝戦だね」
「来週の日曜! 私その日先生の都合でレッスンがお休みなの! 応援に行ってもいい?」
「えっ、わざわざ来てくれるの? ありがとう! でもまだ決勝まで進めるか分からないから、週明けの月曜日に伝えるね」
「うん! でも紗友ちゃんがいるし菜月ちゃんも祐一くんもいるんだからきっと勝てるよ」
「期待に応えられるよう頑張るね!」
一時間目が始まるまで、そんな会話をしたのだった。
土曜日になり、朝の集合が掛かると、向井コーチが発したのは今日の試合のことではなかった。
「時期的には春季大会決勝の二週間後になるんだがな。プロ野球のレパーズ戦のチーム招待に当選したぞ! レパーズ対ウォリアーズ戦だ。メジャー、マイナー、ジュニアの全員で行くことになる。プロの試合を生で観る機会なんてまだあまりないだろうから、楽しみにしていてくれ。詳しくは親御さんに連絡網を回すけど各自知らせておくように。当日はユニフォーム着用だぞ」
聞き終えて皆が一気に沸き立つ。それが落ち着いたところで、西出コーチが引き締める。
「皆が今から盛り上がってくれて私達も嬉しいよ。心置きなく観戦する為にも、今日と明日、そして来週も勝って、春季大会の覇者として胸を張って行こう」
全員で快活に返答した。
球場に移動するバスでは、秋から私と祐一が隣で、春からはその前に菜月と瑞季ちゃんの姉妹が座っている。
今日の先発は菜月だ。祐一はどこか悩んでいる様子。ちょっと声のトーンを落として尋ねる。
「祐一、何考え込んでるの?」
「ああ、今日のリードどうしようかなって思ってて」
「菜月のスピードと、変化球のコントロールがあればそんなに苦労しないでしょ?」
「そうなんだけど、やっぱり紗友と組む時と比べると大変だよ。紗友は毎回構えた所にぴったり投げ込んでくれるから、その場その場でリードを修正していく必要もないし」
どうしよう、私のせいで祐一が贅沢なキャッチャーになっちゃったよ!
かといって私が上から目線でお説教するのも違うし……。向井コーチ、助けて下さい!
だが向井コーチは最前列に座っていてちょっと位置が遠い。うーん、どうしたものか。なんとか言葉を捻り出す。
「で、でも菜月だってストライク先行の良いピッチャーだよ。確かに荒れ球だけどゾーン内だしさ。組む相手それぞれの良さを上手く引き出した方が、向井コーチも褒めてくれるんじゃないかな?」
「ん、それは確かにそうだね。ピッチャーを比べる俺が悪かった。でもやっぱりコントロールの練習はして欲しいかな……。ストレートの方が制球出来ないっていうのは変わってるよね」
「変化球も荒れ球なのよりは良いんじゃないかな。カウントも稼げて決め球にもなってるし」
「そうだなあ。もうちょっとポジティブに考えるよ。ありがとう、紗友」
「いいよ、これくらい」
ポジティブ過ぎるキャッチャーというのも怖いが、祐一は私と控え投手を比べて多少ネガティブな気持ちになっていたようなので、これくらいが丁度いいだろう。悪く言えば心配性なのだが、それもキャッチャーには必要な要素だ。
そして挑んだ三回戦。私は三打席三安打で全て長打を放ち、四打点の活躍を見せた。菜月と祐一のバッテリーはというと、開き直った祐一が良かったのか、それとも単純に菜月の調子が良かったのか、五回コールドで相手のヒットを散発四安打に抑えて完封した。菜月だって他のチームだったらエース級の投手なのだから、おかしな結果ではない。
「ナイスピッチングだったね、菜月!」
「ありがとっ! でも今日は祐一のおかげだよ」
「いや、俺は大したことはしてないよ」
「そんなことないって! 今までコースに構えてたのが、今日はアバウトに構えてくれたから気楽に投げれてさっ。そのおかげでストレートがむしろ良いコースにいったんだっ」
なるほど、確かに甘いコースにミットを構えるなあと思っていたが、結果的に菜月にはそれがハマったようだ。トップレベルでもそういうピッチャーがいないわけではないし、納得だね。
そのまま次に行われる三回戦を観戦する私達。この試合の勝者が準決勝の相手なのだ。
初回、先攻チームの三番打者が出塁して四番に回る。その四番が立ち上がって打席に向かっていくにつれ、私達は驚かされた。
「でかっ!」
マイナーチーム最長身の菜月が思わずそう言う程に大きいのだ。
「あの子女子だよね?」
「うん、髪長いし」
私と祐一はなんとか落ち着いて確認し合う。スコアボードを見るとチーム名は氷川台、四番サード三谷と書いてある。身長は百六十センチを少し超えるくらいで、菜月より五センチくらい高そうだ。リトルの年齢基準である九月以降生まれの五年生かな?
その三谷さんは、初球のボール球を見逃した後、二球目を打ってあっさりセンターへのホームランにした。その後の打席でも長打を連発。四番の活躍で氷川台リトルは準決勝へと駒を進めた。
「あれは要注意だね……」
「明日投げるのが紗友で良かったよ。まだなんとか出来そうだ」
「祐一、それ私だと打たれるって意味っ? まあ今の見せられたら私も自信無いけど……」
トーナメント表で私達と反対の三回戦では、武蔵北も勝っているらしいし、ライバルである愛梨さん達と決勝で当たりたい。その為には相手の四番が強力だろうと、明日はなんとしても勝たなきゃね!
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