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第039話 春季大会、開始!

 二度目の女子会の前後に練習試合があって、私達は新たなラインナップでこれに臨み、快勝を続けた。私が投げない試合でも、だ。


 コーチ陣が本人の言をもとに適正を見た結果、菜月は二番手投手になったのだ。その上背と強肩からくるスピードボールは、まるで去年一緒にプレイした貴大くんのよう。しかし菜月は貴大くんと違って、ストライクゾーン内で適度にボールが荒れる。祐一は苦労していそうだけど、正直相手からすると打ち辛いみたい。変化球はカーブとスライダーの中間のようなブレーキングボールなんだけど、何故かこちらはコントロールが良く、良いコースに決まる。


 西出コーチは「紗友がいなければエースでもおかしくないよ」と菜月に言っていた。


 確かにスピードでは負けるけど、エースの座は譲らないよ!

 百三十キロ台のストレートで奪三振王を取ったプロだっているしね。現に球の質は菜月より私の方が良いと思う。ストレートが速くなくても、球の出所が見にくいフォーム、球持ちの良さや、腕の振りとリリースが変わらないこと、更には緩急とか、空振りを奪う為の要素は一杯あるんだよ。


 現に練習でお互いの球を打つ機会があったのだけれど、私は菜月から全打席でヒットを放った。だが菜月は私に翻弄され、なんとか一本打ったヒット性の当たりは妹である瑞季ちゃんのファインプレイで阻まれていた。でも正直、良い当たりすら打たれるとは思っていなかったので、これは私の慢心を戒めて菜月の上手さを褒めるべきだね。味方、それも私の前を打つ三番打者が、ハマればホームランを打つ程の長打力があってミートも上手いのは頼もしいよ。


 話が逸れちゃったね。それで二番手投手候補から三番手、四番手に下がってしまった五年生の男子二人は、その事に腐る事無くより一層練習に励んでいる。彼らも昨年夏の全国大会に行ったから、控え投手の重要さを知っているのだろう。シートバッティングの投手にも自ら「投げさせて下さい!」とコーチに志願する程だ。西出コーチにも積極的にアドバイスを求めているみたいだし、不安だった投手陣の層も解消されるんじゃないかな。


 土日の二連戦なら、一試合目に菜月がピッチャー、私が昨年までと同じショートで出場して、二試合目に先発すれば今までより穴はない。その場合は控えのセンターには頑張って欲しいね。

 そうでないパターンなら、一試合目を五年生の先発で場合によっては継投して勝ち、二試合目も菜月と私がスタメンで出場するという万全の布陣もある。このあたりはコーチ陣が相手チームの実力を見て、上手く起用してくれるだろう。


 全国大会の二日間四試合も、一回戦と二回戦を五年生投手二人がそれぞれ先発して勝てば、準決勝と決勝は二連戦と同じパターンが使える。その為には先発の球数を規定内に収めるよう、積極的にコールド勝ちを狙わなきゃね。


 その鍵となる打線はというと、一番の瑞季ちゃんがコツコツと毎度のように出塁してくれることもあって、三番菜月、四番私、五番祐一のクリーンアップがしっかりランナーを掃除する仕事を果たせている。ちなみに二番は打率こそ特筆すべきものではないが、選球眼が良くて出塁率は高く、出塁した瑞季ちゃんを確実に進塁させる技術にも長けている。由香さんのような攻撃的二番打者ではないものの、充分に役割を果たしていると言えるだろう。


 練習試合で結果を残した私達は、とうとう始まった春季大会の一回戦、二回戦をあっという間にコールド勝ちで突破した。今回は最初から週末の二連戦なので菜月と私が投げて、それぞれ十二対一、八対〇というスコアだった。


 二試合目の得点が一試合目より少ないのは菜月が休養日だからだ。その日は代わりに祐一が三番を務めて、六番以降の打順が一つずつ繰り上がって、控えのセンターが九番に入った。それにしても、四回コールド勝ちとはいえ一失点に抑えるとは菜月も凄いね!


 二試合目に先発した私は、一安打で五回完封勝利を収めた。打たれたのはカーブで、ファーストの頭をふらふらと超えていった。これまたコールドが濃厚で参考記録とはいえ、パーフェクトゲームを逃したその瞬間のバックと、コーチを含めたベンチの皆の嘆きようといったら凄かった。だが私は以前の練習試合、武蔵北戦と同じく気にしていない。ただ、所詮アンラッキーなヒットと片付けずに、もっと効果的なボール、効果的なコースがあったかどうかを試合後に祐一と話し合った。


「同じカーブでも、遅いので入った方が良かったのかな。タイミング合ってなかったし、遅いカーブでもっと間を外せば空振りだったかもしれない。あと、逆にあのバッターならストレートで充分押せたかも」


 とは祐一。真剣に配球について考えてくれるありがたい女房役だ。私が女で祐一が男だから主夫役? いや、女房役の女房は『妻が夫を助けるように』って意味だったような気がするし、あくまで『役』って付くか。昔の妻は献身的だったんだね。私は誰かをそっと支える女性じゃなくて、独り立ちした強い女性になりたいよ!


「確かにそうやって考えることは大事だが、なにも完封勝利の後にそこまで反省しなくとも……」


 私達の真剣な態度を見て思わずそう言う西出コーチだが、向井コーチは違うようだ。


「紗友ほどキャッチャーを育ててくれるピッチャーはいないぞ、祐一! バッテリーを組めるうちに学べるだけ学ぶんだ。それが必ず祐一の野球人生にとってかけがえのないものになる!」


 断言されてしまった。


 でも私だって祐一には助けられている。祐一が向井コーチに教わったキャッチング技術は更に上達し洗練され、実戦で発揮されていて、際どいコースを審判が躊躇なくストライクとコールした後のバッターの驚きようといったらない。


 そのことを口にすると、祐一は照れた様子で「力になれてたなら、良かった」と右手の拳を握りしめた。


「祐一は性格も頭の良さもキャッチャー向きだし、何より練習への熱意と技術の吸収力が凄いな! ここまで素直で飲み込みが良い子は初めてだ」


 続けて向井コーチにまで絶賛され、照れ過ぎて礼を言ったきり何も喋らなくなった祐一だった。


お読み頂きありがとうございました。

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