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第037話 祐一、空気を読む

「紗友、電話取ってくれる? 今料理から手が離せなくて」


「はーい」


 ある火曜日の夕方、突然掛かってきた電話に私が出ると、なんと愛梨さんからだった。あの秋以降、両親同士が話したのを聞くに、愛梨さんは一変して勉強にも励み出したと知り、それならばとこちらからも連絡を控えていた。久し振りの会話にテンションが自然と上がる。


「愛梨さん、久し振り! 今日はどうしたの?」


「紗友ぅ~、本当に久々だよぉ~。でもその分、野球も勉強も頑張ってるから~! 新チームのキャプテンにもなったし~」


「凄いね! ただでさえエースで四番なのに、キャプテンも任せられるなんてコーチ達に認めて貰えてる証拠だね!」


「そうなんだよ~、って電話したのはその話じゃなくて~。春日野東に女の子が入ってレギュラーになったって本当なの~?」


「もう愛梨さんも知ってるんだ! 噂が回るの早いなあ。私と同い年の菜月が三番センターで、その妹の瑞季ちゃんが一番セカンドだよ!」


「春日野東ですぐレギュラーって、二人共上手いんだねぇ~。その菜月ちゃんって子は練習試合でホームラン打ったんでしょ~?」


「そうだよ! 私、ネクストから見てて驚いたよ。綺麗な放物線だったなあ。私も早く大きくなって打ちたい!」


「打ちたいねぇ~。で、お願いなんだけど~、平日の放課後に私がそっちまで行くから、女子皆で遊ばない~?」


「いいね、楽しそう! あ、でも愛梨さんの地元と違って大したお店無いけど、いいの?」


「私の為に皆にこっちまで来てもらう訳にもいかないでしょ~。私一人が動けばいいんだよ~。お母さんが車で送ってくれるしね~」


「そっか、それならこっちは構わないよ! じゃあ由香さんと菜月と瑞季に連絡しておくね! 曜日はいつにする?」


「ん~、じゃあ明後日、木曜日とかどうかな? 駄目なら金曜日でも愛梨は大丈夫だよ~」


「わかった。それで皆に確認してからまた連絡するね! じゃあまたねー」


「うん、またね~」


 それから私は急いで由香さんのお家と瀬戸家に電話をすることとなった。

 その結果、どちらも木曜日で大丈夫という返事を貰ったので、愛梨さんにその旨を伝えて電話を置いた。


 その頃には夕食も出来上がりに近付いていて、私がお皿を運んだりしているうちにお父さんも帰ってきた。

 三人で食卓を囲む際に、早速先程の出来事を伝える。


「愛梨ちゃんも同じチームなら良かったのにねえ」


 残念そうに言うお母さん。


「理に適ったルールがある以上仕方ないさ。それよりライバルチームの子と仲の良い友達になれていることを喜んであげなきゃいけないよ」


「それもそうね。紗友、木曜日は楽しんで来なさいね。学校から帰ったら着替えとヘアメイク手伝ってあげるから」


 お父さんに同意した後、またやる気を出すお母さん。


「うん、ありがとう!」


 実はまだあの服、着られるのだ。去年の夏から身長は順調に伸びているのだが、六センチ程度で体格までは大きく変わらないからかな?

 しかもお母さんはこういった日に備えてか春物の、フードの内側がギンガムチェックになっていて左胸元と左右のポケットにリボンの意匠を凝らしたパーカーを買ってくれていた。


 それに、更に身長が伸びて着られなくなったら、お母さんはまた新たにお洒落な服を買ってくれそうな情熱を感じる。厳しく育てられて自分の力で全てを勝ち取った前世とは全然違うな、と思う私だった。


 別に前世で両親を嫌っていたわけではなく、大人になってから服の蒐集などの反動こそ来たものの、厳しい躾も己の為になっていたし、プロに入って高給取りになってからは出来る範囲で恩返しもした。


 今の両親はといえば私の言動に対して理解があり、優しいところと厳しいところを状況に応じて使い分けてくれる、理想的な両親だと感じられる。それに何より、永嶺紗友にとっての両親はあくまでこの二人しか存在しないのだ。

 そんなことを考えながら黙々と晩御飯を食べ終えて、片付けを手伝うのだった。


 翌日の水曜日は登校の際から瀬戸姉妹に、彼女達が会ったことのない二人のことを訊かれた。


「ねえねえ、会うとは決めたけど、愛梨さんってどんな人なのっ?」


「わ、私も、気に、なります」


「うーん、普段は綺麗なお人形さんみたいな人だよ!」


「普段は?」


「試合中は性格も口調も変わっちゃうんだよね。なんていうか……荒々しい感じ」


「あっ、もしかして紗友が私に瑞季のこと尋ねたのってそれで?」


「まあ、うん。それも多少あったかな」


「え、私のこと……?」


「前に、瑞季は野球の時も普段の調子なのかって訊かれたんだよー」


「瑞季ちゃんの場合は野球の時は普段より元気だから良いよね!」


「えっと、周りに迷惑かけるといけないから、頑張ってます」


「偉いね! その調子で普段も元気になってくれると嬉しいな」


 ちなみに当然祐一もいるのだけれど、空気を読んで無言だ。ありがとう祐一。


「じゃあじゃあっ、由香さんは? 二個上の凄い先輩だっていうのは聞いたけど」


「由香さんは大人っぽくて優しいお姉さんだよ。二人共良い人だから、そんなに緊張しないでも大丈夫。単に野球女子で集まってお喋りしたりするだけだしね!」


「まあそれもそっか。それに私らがメジャーに行ったら由香さんともチームメイトになるわけだしねっ!」


「そうだね。私達はそれまでに即戦力になることを目指そう! そうだ、昼休みのトレーニング、二人も始めない?」


「なにそれっ! 紗友が昼休み教室にいないのってトレーニングしてたからなんだ?」


「うん、コーチに教わって安全にやれるのだけね。由香さんと一緒にやってるんだ!」


「じゃあ私達もコーチに教わってから一緒にやるっ! 同じチームになるより先に仲良くなれるのもいいしねっ」


 そこでふと瑞季ちゃんが嘆いた。


「わ、私だけ由香さんとチームメイトになれないです……」


「瑞季ちゃんには私達がいるよ。来年は別々だけど、今年と再来年は一緒なんだからさ」


「その前に明日一緒に遊べるわけだしねっ。前のチームは歳の近い女子いなかったから楽しみっ!」


「そうだね、私も由香さん愛梨さんと遊ぶのは久し振りになるから楽しみだよ!」


 結局教室に着くまで祐一は無言を貫いてくれた。この空気を読む力、絶対に将来モテるよ、祐一!


お読み頂きありがとうございました。

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