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第036話 閑話三点盛り

インターミディエット(小五~中二)の大会は全主要キャラが出場できるのですが、春日野東のスケジュールを考えた結果、物語がより煩雑になるので無かったことにしました。

【瀬戸家の食卓】


 土曜日の夜、私達姉妹がシャワーを浴びて準備を済ませるのに合わせて、夕飯が始まる。そこでさも当然のように確認された。


「二人共、どうだった春日野東は? 菜月は当然四番だろうなあ。瑞季もレギュラーだろう? そろそろ三番あたりを打ってもおかしくないだろうね」


 野球好きで子煩悩なパパは私達が以前のチームと同様、またはそれ以上に活躍することを望んでいるのか確信しているのか、そんな風に言ったけれど。

 パパの発言に対して俯いている瑞季の横で私は首を横に振った。


「いやーそれがね、すっごいのっ。一応学校で聞いてはいたんだけどさ。朝パパとママも会ったけど、あの女の子、紗友がエースで四番だよ。私は三番で瑞季が一番だってさー」


 あっけらかんと言う私にパパは驚いた様子。私は続ける。


「私らはバッティング練習、全部打ちやすいコースの真っ直ぐで、まあ歓迎と腕試し的な意味もあったんだろうけどさ。紗友だけコーチが変化球も混ぜてコーナーついて真剣勝負なわけ。なのにそれを全部打っちゃうんだよ」


 お手上げ、とお箸を持ったまま私は両手を上げる。


「う、うん。紗友さん、凄かった。投げても、去年の秋、練習試合で、ノーヒットノーラン、したって聞いたよ」


「あー、そうらしいねっ。時期的に五年生の主力がいないとはいえ、三年生でノーヒットノーランとかもう凄すぎっ! 本当同じチームで良かったー」


 そこでママが口を開いた。


「紗友ちゃん、礼儀正しい子だし、ご近所で良かったわねえ。同じクラスで同じチームにあんな女の子がいるなんて幸運よ。前のチームではやんちゃな男の子ばっかりだったから……。二人共、仲良くするのよ」


「言われなくてもするって! ていうかもう結構仲良いよっ。紗友も私らに良くしてくれるしさっ。だよね、瑞季?」


「紗友さん、優しいよ。でも、私よりお姉ちゃんの方が、仲良さそう……」


「ははは。瑞季は嫉妬かな? 菜月は学校でも一緒に過ごしているから、瑞季にしたらそう思えるのかもしれないね。しかしそうなると、チームは勝ち進めそうなのかな?」


「もっちろん! 秋は紗友が投げられない試合で苦労したらしいけど、私と瑞季が入ったからには当然勝つよっ!」


「私も、か、勝ちたいよ。それに、勝てる、と思う」


「お向かいの祐一くんはどうなの? 歳の割に随分落ち着いた子みたいで安心したけれど」


 言葉通り本当に安堵した様子のママ。確かに前のチームにはいなかったタイプの男の子だね。


「祐一も上手いねっ。流石に紗友ほどじゃないけど結構打つし、何よりキャッチャーとして凄い! 私もちょっと受けてもらったんだけどさ、キャッチングが上手いんだ」


「お姉ちゃん、普段より、いい音してたね」


「投げたボール自体はいつもと一緒なのにさ、キャッチャーがしっかりミットの芯で捕るだけであんなに変わるんだねっ! あと、際どいコースのキャッチングが本当に上手くて。あんなの野球中継でしか見たこと無いってレベル!」


「そうかあ。引っ越してどうなるかと思ったけど、良いチームに入れて、チームメイトに恵まれたみたいでパパもママも安心だよ」


「うん、心配してくれてありがとうっ!」


「わ、私も、ありがとう」


「あら、つい話してばかりで皆お箸が進んでないわね。さあ、食べましょう」


 会話もちょうど一段落し、ママに促されて私達は食事を進めるのだった。



【春日野東リトル コーチミーティング】


「次はマイナーチームの報告を。向井コーチ、西出コーチ、秋は苦戦しましたが、この春はどうですか?」


 ジュニアチームの報告が終わり、そう尋ねたのは春日野東リトルの監督である水原だ。マイナーの監督役である向井が答える。


「転入してきた瀬戸姉妹のこともあって、チーム力は格段に向上しました。無論、冬の間に選手達の地力も随分上がりましたが。特にエースと四番を任せている紗友は野球選手として非の打ち所がないですね。レギュラーのキャッチャーになった祐一は、守備は元来の素質と練習の甲斐あって申し分ないですし、打撃がとても上達していて、五番打者として期待しています。三番の菜月には二番手投手も任せられそうですし、妹の瑞季は攻守ともに長けたセカンドとして、一番にしようかと。由香の後釜がこれといって不在だったのが悩みでしたが、解消してくれそうですね」


 明るい表情で報告した向井。次に水原が尋ねた相手は西出だった。


「西出コーチ、紗友のピッチャーとしての状態はどうですか。シニアの佐藤コーチが随時知らせてくれと言っていてね。どうやら相当入れ込んでいるみたいだ。シニアの尾崎監督にまで、三年後には春日野東シニアの黄金時代が来ます、と豪語しているらしい」


 三年後、それは由香、貴大、航也達が中学三年生で、紗友達が中学一年生になる年だ。


「無論その前に、一年後に我々がリトル世界一を狙わせてもらうことになりますがね」


 と付け足す水原。それを待ってから西出が答える。


「あの子はピッチャーとして既に完成されています。このままいけば確かに中一でもシニアの立派な主力投手になれるでしょう。現状、フォームも綺麗なままですし、変化球などによる影響も全く見られません。スピードこそまだ体格にしては速い程度ですが、フォーシームの回転は綺麗でスピンも多いですし、カットボールとツーシームによる内外角の出し入れを自由自在とするコントロールがあります。他の球種ですと縦、斜めとスローカーブの三種を器用に使い分けていて、チェンジアップの投げ方に至っては貴大にも見習わせたいくらいですね。更には佐藤コーチが懸念して封印させたスライダーもあります」


 誇らしげに語る西出。


「ふむ。わかりました。では私からメジャーチームの報告を。コーチ陣と相談して、この春から貴大、由香、航也の三人をレギュラーにすると決めました。中一でまだリトル在籍の子には申し訳無いが、練習や実戦でも申し分ない活躍を見せていますし、先程話題に上がった、後の栄光の為にも良いことではないですかね。結局彼ら彼女らが進むのは、どこまで行っても実力主義の世界なのですから……」


 指導者達もまた、野望に燃えているのだった。


【愛梨の憂鬱と奮闘】


 愛梨が所属する武蔵北リトルのマイナーチームも、秋季大会では準決勝とはいえ善戦の末破れた。翌日の決勝に愛梨を温存して野手として出場させたものの、エースの穴を埋めることが叶わなかったのだ。


 そのせいか、愛梨は秋が終わる頃にはチームに失望し、この先の目標と言えば、由香と紗友の三人で誓った同じ高校で野球をすることだけとなっていた。時には、自分も春日野東に入れる身だったら良かったのに、とさえ思うようになっていた。


「ねえお母さん」


「なに、愛梨?」


「うちって引っ越せないの?」


 いつものぽやっとした口調と雰囲気はどこへやら、深刻な様子の愛梨を見た母は悟った。


「由香ちゃんと紗友ちゃんのことかしら。前に愛梨、シニアまではルールだから別のチームでも我慢するって言ったじゃない」


「だって、だってぇ……」


 愛梨の眼に涙が溜まっていき、やがて溢れていく。


「また一緒に遊びに行くのはどう? お母さん連絡してあげるわよ」


「うん、それもしたいけど。やっぱり一緒に野球が、したくてぇ……」


 泣き止みかけたが、再び嗚咽を上げる愛梨。


 紗友に秘密にしようと言われたので、未だ母にも同じ高校に進学する約束は黙っている愛梨である。だが、それを見透かすように母は言った。


「じゃあお母さんも協力するから、由香ちゃんと同じ高校に入れるように、野球も勉強も今までより頑張りなさい。由香ちゃんとあなたが行くような高校なら、紗友ちゃんも後から入ってきてくれるんじゃないかしら?」


 その母の言葉に、愛梨はようやく泣き止み、新たに決意した。そう、愛梨は学業の成績が然程良くない。二人と誓い合った時も、野球推薦があるから己の実力ならばどうにでもなると思っていた。しかし母の言葉で思い至ったが、由香も紗友も成績優秀だと伝え聞く。そして最初に進学する由香が、愛梨がスポーツ特待生の下駄を履いても入れないような高校に入ったら。更に言えば、スポーツに特化したコースの無い高校だったら。


 そう気付いたからには、今までのように勉強を手抜きするわけにもいかなくなった。勉学に励む直前に決まって思い出すのは、由香の走攻守全てにおいて洗練されたプレイと、紗友が自分達との練習試合で達成したノーヒットノーラン。


 特に同じ投手として、紗友のピッチングは意識する。いや、せざるを得ない。打撃には自信があるのだが、未だに自らの想像内ですら、紗友を攻略する手段は見つからなかった。


 しかし、二人のそんな姿こそが、愛梨を学業に励ませてくれるのだ。思うのは一つ。二人と同じチームで野球がしたい。只々それだけである。母に同時に勧められた遊びにも行かず、野球の無い日はひたすら学力向上に徹した。


 それは途中だった二学期こそ僅かな変化に留まったものの、三学期の成績には大きく反映された。以前はB評価が殆どだったのが、ほぼA評価まで上がったのだ。また、所見には「授業態度の大きな向上が見られ、全ての教科にとても意欲的になりました。それに伴ってテストの点数も大幅に上がっています」と記されていた。


 それを見て喜んだ両親は春休み中、父の仕事が早く終わった夜に、愛梨によそ行きの服を着せて、小洒落たレストランに連れて行ってくれたのだった。


 無論、勉学に励み出した日から、チームに対する意識も変わった。この先中三まで付き合うチームメイトだ、それなら現時点では一番上手な自分が率先して練習に取り組み、チームを率いて数多のライバルに勝り得るチームとしなければ。ともすれば個人主義的な傲慢が、チームを引っ張るリーダーシップとなった。


 これも全ては明るい高校生活の為。そう考えれば、愛梨にとってなんら苦ではなかった。


 そして五年生になり、指導者達に認められ、エースで四番の愛梨がマイナーチームのキャプテンをも任されることとなった。しかしそんな時に聞こえてきたのが、春日野東に転入生の女子が二人入って早速レギュラーとなった、という話である。


 居ても立ってもいられなくなり、愛梨は久々に紗友と話をする為に自ら電話を掛けるのであった。


お読み頂きありがとうございました。

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