第035話 瀬戸姉妹の実力と紗友の貫禄
菜月は持ち前の明るくてフランクな性格で、クラスにあっという間に馴染んでいった。私と祐一と一緒に登下校して話しているのも大きいかもしれない。瑞季ちゃんにそれとなく尋ねてみると、彼女は自然と大人しめの女子グループに入れたようだ。まさか愛梨さんみたいに、野球の時だけ性格と口調が変貌するとかじゃないよね……?
思わず菜月に探りを入れる私。
「瑞季ちゃんって野球してる時もこんな感じなの?」
「んー、まあ基本は変わらないけど、言うべきことは言うし普段よりは多少ハキハキしてるかな?」
「そっか。なら安心だね」
どうやら良い方向に変化するみたいでよかった。
すぐに週末になり、私の家の車に二台続いてグラウンドへ向かう。
コーチ陣がやって来て、朝イチの集合が掛けられた。西出コーチが言う。
「今日は新年度になって最初の練習だね。引っ越してきて早速チームに入団してくれた二人がいるから、挨拶してもらうことにしよう」
二人が前に進み出た。
「はいっ、瀬戸菜月です! 四年生で前のチームではセンター守ってましたっ。よろしくお願いしまっす!」
「えとっ、瀬戸みじゅ……瑞季、三年でセカンドです。よろしくお願いします」
緊張したのか、噛んでしまった瑞季ちゃんが可愛い。精一杯頑張っている小動物然としていて愛らしいのだ。私は今まで年上に可愛がってもらってばかりだったので、新鮮な気持ちだな。
私にとっての由香さんみたいに、瑞季ちゃんにとって良い先輩になりたいな!
アップやランニングを終えて本格的な練習が始まる。まずは内野と外野に分かれてのノックだった。コーチ達も二人の実力を知りたいのだろう。菜月と瑞季ちゃんには他より時間を割いていた。
まず瑞季ちゃんだが、フィールディングが良く、グラブ捌きも熟れている。送球も正確で、マイナーチームでは由香さんがメジャーに行って以来、お目に掛かれなかったレベルのセカンド守備だ。
外野ノックを受ける菜月はというと、飛球への反応が誰よりも速い。そして小四にしてはかなり高い身長からくる大きいストライドで、ぐんぐん走って打球に追い付く。更に捕ってからの返球を見ると、肩も相当に強い。センター定位置くらいのフライなら助走をつけて捕球すれば、三塁ランナーのタッチアップを刺せるんじゃないだろうか。
やがてノックが終わり、西出コーチがピッチャーを務めてのバッティング練習になった。きっと人が投げる生きたボールをどこまで打てるか見定めたいのだろう。
ウェルカムノックとウェルカムバッティングだね!
先に打席に入るのは菜月。左打席に長身をゆったりと構える。体感速度を調整する為に、西出コーチはリトル用ではなく野球本来の距離から投げているが、それでもそのスピードは百二十キロを優に超えている。
リトルリーグのマウンドからキャッチャーへの距離だと、時速百キロのボールが野球本来の距離でいう百三十キロ程に感じられる。とはいえマイナー世代で百キロのストレートを投げる子はほぼいない。だから西出コーチの投げる球は充分なスピードボールなのだ。
しかし、菜月は初球から容易く外野へと弾き返していく。二十球程投げる中、十七球目はリトル仕様とはいえなんとライトのフェンスをギリギリ超えた。これには選手もコーチも同様に驚いて声が上がる。
やっぱりスイングスピードかな、と私は自分との差異を悟っていた。それに身体全体の馬力も違うかなぁ。大きい身体は羨ましいね。
「ありがとうございました! いやー久々にホームラン打てたっ! やっぱ気分良いねー」
打ち終えて西出コーチに一礼し、ベンチにバットを置きに行く途中の菜月。
次は瑞季ちゃんだ。西出コーチは右投げなので、姉の菜月と同じ左打席に入る。右足を開いたオープンスタンスから、こちらも容易く、だが菜月とは違って一二塁間や二遊間、三遊間を狙った打球が的確に飛んでいった。次第に慣れてきたのか、右中間と左中間にも鋭いライナーが飛び始める。去年までの私とよく似たバッティングスタイルだとすぐに気付いた。
「あ、ありがとうごじゃいましたっ!」
またしても噛んだ瑞季ちゃんが頬を赤らめていて可愛い。きっと初日だから緊張しているんだろうね。
他の選手を打席に迎えた西出コーチが投げる中、フェンスの裏から見守っていた向井コーチが二人を呼ぶ。
「二人共凄いな! 前のチームでも当然レギュラーだったんだろう?」
「はいっ、レギュラーでした!」
「うちでもそのままのポジションでレギュラーになってもらいたい! さっきの守備練習と打撃練習を見れば他の子達も納得だろう」
「ありがとうございますっ」
「が、がんばりますっ」
「幸い選手登録も大会までには済ませられるしな。後は打順なんだが、その前に紗友のバッティングを見てくれ」
「はい、わかりました」
向井コーチ、聞こえてますって……。これはしっかり実力を見せないとだね。
やがて私の順番になり、打席に入る。
「西出くん、変化球も混ぜて一打席毎の真剣勝負で頼む!」
「わかりました! 相手が紗友なら本気でやれますね」
その言葉は嬉しいけど、小四女子に大学まで投手だった大人が本気で投げるのは世間的には不味いかもね。でも私だって譲らないよ!
結果、私は四打席で四安打、うち二本が長打性の当たりだった。西出コーチはそれにがっくりきていて、疲労もあってか他のコーチとピッチャー役を交代することとなった。
「どうだ、二人から見て紗友は?」
「天才としか言えないですねー……」
「す、凄すぎます……」
「なら、紗友が四番で納得してくれるな。菜月には三番を任せたい。瑞季は一番だ」
「はい、紗友の前は任せて下さいっ!」
「が、頑張って出塁します!」
こうして新たな陣容が決まり、まずはマイナーの春季大会優勝を目指す私達だった。
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