第034話 転入生達
四年生になった新年度の始業式の日。転入生が来るらしい、という噂はあっという間に学年中を駆け巡った。私は「へえ、そうなんだ」くらいの反応しか出来なかったのだが、いざ転入生が教室に入ってきて自己紹介をすると、手のひらを返すこととなった。
「はじめましてっ! 瀬戸菜月でーす。気軽に菜月って呼んでね! 群馬の高崎から来ましたっ。一個下の妹と一緒に硬式野球やってます! こっちでもチーム入るつもりなんで、もしお仲間がいたらよろしくっ!」
その挨拶を受けて歓迎の拍手を送る皆の視線は、ほとんどが私、残るは祐一に向けられていた。その状況を察したらしく、菜月は私と祐一を交互に見る。
「この感じだと、キミら二人がお仲間かな? 女の子もいるとは嬉しいじゃんっ!」
「良かったわね瀬戸さん。じゃあ席はちょうど空いている、永嶺さんの後ろね」
おそらく菜月と担任の先生が会っている間に、先にやって来た副担任の先生と、既に座席のくじ引きを済ませた後だったのだ。その際に後ろの空席は転入生だろうな、と勘付いてはいた。
でもこれはナイスだよ! これからチームメイトになる女の子だし、私も是非親睦を深めたい。それにこのさっぱりとフランクな感じ、今までにいなかったタイプで新鮮だね!
大股ですいすい私の後ろの席へ歩く菜月。近付いてきて確信したが、背が私よりかなり高い。私だって百五十センチは超えているのだが、それより大きい。百六十センチ近くあるんじゃないだろうか。
「よろしくねっ」
早速後ろの席から声を掛けられる。
「うん、よろしく! 私、永嶺紗友。紗友でいいよ」
生憎教室でそれ以上会話をする前に、始業式の為体育館へ移動することとなった。
それでも、体育館へ向かう列の中で話を続ける。私の右隣に菜月、反対側に祐一という並びだ。
「俺は紗友と同じチームでキャッチャーの相原祐一。よろしく」
「うんっ」
「祐一はこの春からついに背番号二を貰ったんだよ!」
「レギュラーなんだ、凄いじゃんっ! まあ私も入ったらすぐレギュラー取る自信はあるけどねっ! そういう紗友はポジションどこなの?」
私がちょっと自分からは言いづらそうにしていると、祐一が代わりに言ってくれた。
「紗友はエースで四番。俺達の世代の中心選手だね」
「マジでっ? いや、ごめん。疑うわけじゃないんだけど、単純に驚いちゃってさ。そっか、それで言い難そうにしてたんだ!」
「中心選手は言い過ぎだけど、一応今は背番号一で四番打ってるよ!」
「瑞季と同じくらいの身長なのに凄いねっ。あ、瑞季ってうちの妹のことなんだけど」
「菜月も背高いけど、一つ下で私と同じくらいって、妹の瑞季ちゃんも大きいんだね」
「うんっ。まあその割におどおどしてる子だけど、瑞季とも仲良くしてやってねっ!」
そこで体育館へ到着し、一旦会話は中断した。出席番号順に並ぶので、三人ばらばらになるからだ。
校長先生のありがたいありがちなお話と、いくつかの連絡事項を聞かされた後、学年順に教室へ戻る。
担任の先生が素早く明日以降のことを伝えてから場を締めて、今日はこれで終わり。私は後ろを振り向いて菜月に話し掛ける。
「そういえば菜月のお家ってどのあたりなの?」
「うーん、まだ上手く説明出来ないけど、住所のメモなら持ってるよ」
そう言って読み上げた住所は、なんと我が家と相原家の近くだった。
「それ、うちのすぐ近くだよ! ちょうどいいし三人で一緒に帰ろう?」
「四人に増えてもいい? 校門で瑞季と待ち合わせしてるんだよねっ」
「大歓迎だよ!」
そうして私達三人は校門へ向かった。すると確かに私とほぼ同じくらいの身長の女の子が、俯いて待っていた。
「うちのクラスも結構早く終わったと思うんだけど、瑞季ちゃんの方が早かったみたいだね」
「そうだねー。瑞季、この二人は同じクラスでリトルに入ってる、エースの紗友とキャッチャーの祐一。仲良くしてもらいなよっ」
「はい、えっと、瀬戸瑞季です。お二人とも、よろしく、お願いします……」
瑞季ちゃんに私と祐一が返答して、四人で帰り道を歩き始めた。菜月が言ってた通り、姉妹で随分性格が違うみたいだね。
「そうだ! 二人のポジションは?」
まだ聞いてなかったことに気付き、尋ねる。
「私はセンター! 左利きだからピッチャーもやってたよっ」
「わ、わたしはセカンドです。右投げ両打ち……です」
「瑞季ちゃんスイッチヒッターなの? 器用なんだね!」
「い、いえ、不器用なりに頑張りました。お姉ちゃんの、真似、してるうちに出来るようになって」
「そうだったんだ。じゃあ凄く頑張ったんだね! やっぱり右ピッチャーには左打席だと楽?」
「そ、そうですね。ボールが見易いので、ヒットに、しやすいです……」
「紗友、瑞季ばっかり質問攻めだねー! 私に訊きたいことはもう無いのかな?」
「あっ、ごめんね! 二人共訊きたいこと一杯あって。菜月くらい背が高いと、オーバーフェンスのホームランって打てるのかな?」
「打撃練習でなら打ったことあるねっ。試合ではまだ打ててないよ。背が高いって言っても私もまだ皆と同じ小四だしねー」
「それでも凄いよ。紗友は試合でランニングホームラン打ったことあるんだよね。俺は練習でスリーベース打ったのがやっとだ」
嘆息する祐一。でも中学生の頃には祐一が一番大きくなるんだよ!
話を聞く限り、菜月も瑞季も実力を期待できそう! これはチーム力が一気に上がるかもね! 新しい友達が出来てそれが頼れる野球仲間だなんて嬉しいな。
その後も四人で野球の話ばかりしていると、うちのすぐ近くまで来た。
「二人のお家もこのあたりでしょ?」
「うん、あそこだよ」
そう言って菜月が指差したのは、私の家の斜向い、つまり祐一の家の真向かいだった。
更に近付いていって、私は順番に指差しながら言う。
「向かいが祐一のお家で、その隣がうちだよ! ご近所さんだね!」
「そういえば引っ越し、してたなあ」
今思い出した、といった様子の祐一。
「こうなると私達、尚更良い出会いだったねっ。週末には練習行かせてもらうからその時は頼むね!」
そう言って菜月は快活に笑った。週末が楽しみだね!
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