表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/49

第029話 変化球お披露目

本作はあくまでフィクションです。

本作なりの論理で物語を展開している為、現実にはそぐわない場合があることを改めてご理解頂けますようお願い致します。

 お楽しみの後に少し空いて夏合宿の時期になった。といっても、朝から晩まで野球漬けの

合宿は、私にとってはもう一つのお楽しみでしかなかった。


 初日の移動を終えて宿舎に着いてから、準備を済ませて向かった午後のグラウンドで、早速私は西出コーチに相談した。


「主力投手がほとんど抜けたし、私、ピッチャーやりたいです!」


 意を決して伝えると、西出コーチは安堵の表情で言う。


「ちょうどこちらからもそう言おうと思っていたんだ。紗友がショートのレギュラーじゃなくなるのは痛いが、ピッチャー不足の方が深刻でね」


「そうだったんですか。西出コーチは大学までピッチャーだったんですよね。投球練習見てもらえませんか?」


「ああ、勿論しっかりチェックさせてもらうよ。じゃあアップが済んだら来てくれ」


 そんな風に、思っていたよりもトントン拍子で話は進んだ。でもコーチがピッチャー不足とはっきり口にするとは……。今シーズンは苦労しそうだね。


 アップを済ませて西出コーチのもとに行った私は、早速四年生キャッチャーと組んで投球練習を始めた。エースになる為にも、本気でいくよ!


 肩を温めた後に十五球ほど、全力のストレートを構えられたミットに寸分違わず投げ込んだ私は、球種ごとにキャッチャーに指示を出して、ツーシーム、カットボール、縦のカーブ、斜めのカーブ、スローカーブ、チェンジアップを、それぞれ最適なコースに投げ分けたのだった。本当は前世のウィニングショットであるスライダーとフォークも投げたかった。だが、私はフォームを崩さない自信があるけれど、スライダーは宏太くんのことがあったばかりだし、フォークは私の可愛いおててではまだ投げられない。スプリットも無理なくらいだ。


 ちなみに私の変化球は前世の日本時代に嵯峨野(さがの)さん、アメリカ時代にナッシュビル(しゅう)さんに教わって上達した物も多い。嵯峨野さんは現役時代にオールスターで会うことが出来て、ブルペンで色々な球種の握りやコツを惜しみなく教えてくれた。秀さんはアメリカ時代の大先輩で、合同自主トレに連れて行ってもらったことがある。二人共威力あるストレートを持ちながらも、多彩な変化球を高い精度で操る大投手だ。


 それらを今の身体にアジャストしたものを私は投げている。合宿前に祐一に付き合ってもらって試行錯誤したのだ。


 投げ終えて西出コーチの方を振り向くと、絶句していた。


「あの……西出コーチ?」


「……えっと、紗友は一体どうやってそれだけの変化球を覚えたのかな? 肩や肘に痛みはないかい?」


「コーチやチームメイト、試合の相手、プロ野球の中継や野球雑誌を見て覚えました! 痛みは全くありません!」


 これは建前だが、前世の私もプロの変化球の握りなんかは参考にしていたから完全な嘘ではない……と思いたいね。


「そうか。フォームも綺麗なものだね。全てストレートと同じフォーム、腕の振りで投げられている。だが……」


「なんでしょうか」


「正直に言うと、リトルのマイナーでこれだけの変化球を投げる投手を見たのは初めてだ。私の手には余るよ。シニアのピッチャー担当の佐藤コーチを呼ぶから少し待っていてくれ」


 そう言って西出コーチはポケットからスマートフォンを取り出した。


「はい!」


 元気よく返答した私は、肩を冷やさないようにキャッチャーと軽くキャッチボールをして佐藤コーチを待った。


 やがて連絡を受けた佐藤コーチが、別のグラウンドから小走りでやってきた。


「紗友がとんでもないボールを投げるんだって?」


「そうなんですよ。今の所は大丈夫なようですが、投げ続けさせて平気なものか、紗友の将来の為にも、佐藤さんと協議すべきだと思いまして」


「じゃあ紗友、もう一度投げてみてくれ」


「はい!」


 私はついさっきと全く同じように投げてみせた。


「こりゃあ驚いたな……。えげつない完成度だ。紗友、本当にこれで持ち球は全部か?」


 佐藤コーチは鋭い視線をこちらに向けてきた。だから、素直に白状することにした。


「すみません、本当はスライダーも投げられます」


「やっぱりな。ちょっと一球だけ投げてみろ」


 言われた私はスライダーを右打者のアウトロー、ストライクからボールになるゾーンに投げた。


「スライダーのフォームも綺麗なもんだ。コースもバッチリときてる。でもまだ投げない方がいいだろうな」


「はい、投げません! 私、怪我なく過ごしたいです」


「そうか、偉いぞ」


「佐藤さん、どうでしょうあの多彩な変化球は。投げ続けさせてもいいものでしょうか?」


「西出くん、あんなに綺麗なフォームで投げてれば怪我なんてせんよ。スライダーだってあのフォームなら、本当は投げても問題ない。紗友と比べれば崩れたフォームで投げてるのに、怪我しない子の方が多いくらいだ。そういう意味では、紗友が凄いのは変化球もそうだがフォームだな。あれは天性のものだよ」


「ではフォームさえ維持出来れば変化球は投げても大丈夫だと」


「うむ。今見た限りでは変化球を投げる時でもフォームは崩れていないしな。普通は曲げようとするとどこか変になるものだが……それが全く見られない」


「それなら私は精々フォームチェックに全力を尽くしましょう。わざわざすみませんでした」


 去っていく佐藤コーチに「ありがとうございました!」と帽子を脱いでお辞儀する私。


 その後も四十球ほど、西出コーチが見守る中投球練習を続けた。キャッチャーは「紗友の球、変化球も沢山あるのに凄く捕りやすい!」と感動していた。構えたミットに収まるよう投げているんだから当然だね。


 西出コーチはそれを察したらしく「コントロールも抜群だな、紗友は」と褒めてくれた。


 身体がまだ大きくないから、スピードはちょっと物足りないけれど存分にアピールできたと思う。

 さて、新チームのエースになれるかな?


アクセス、ブクマ、評価、感想などありがとうございます。励みになっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ