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第028話 背伸び気味のJoShi会

 ホームから改札ではむわっとした夏の熱気を感じたものの、地下街は空調が効いていて涼しかった。


 由香さんは慣れた様子で歩みを進めていき、私はきょろきょろしながら手を引かれてついていく。やがて開けた場所に出て、ここが広場なんだなと分かった。休憩用の椅子が置かれていたり、壁には小学生が書いた絵が沢山飾ってあり、一部の絵には受賞の印がついている。


「愛梨、もう来てると思うんだけどな」


 由香さんがそう言って広場を見渡す。するとこちらに近付いてくる人がいた。


 肩の前に下ろされた、ふわっと膨らんでから毛先が内側に巻いている長い髪。上は白いレースで丸みを帯びた可愛らしい襟が付いて、下はモノトーンのチェックになっているワンピース。足元はピンクのリボンと花柄の刺繍が施された踵の高いサンダルが、色白の肌によく映えている。


「愛梨さん! すっごく可愛いね! まさに美少女って感じだよ!」


「紗友ちゃんこそぉ~。とっても似合ってるよぅ~、キュートだねぇ~」


「はいはい、早速二人の世界に入らないで」


 由香さんにそう止められなければ、私達は暫く互いを褒め合っていただろう。


「大丈夫! 由香さんも大人っぽくて可愛いよ!」


「うんうん~。流石由香さんだよねぇ~」


「そ、そうかな? ありがとう……ってそう言う意味じゃなくてさ! 今日の計画、愛梨に任せてあるんだから、愛梨が案内してくれなきゃわかんないよ」


 そうだった。完全に忘れてたよ。地元民の愛梨さんに期待だね。


「大丈夫~。お姉ちゃんにおすすめのお店いくつも訊いてきたよぉ~。二人共、お腹空いてる~?」


「お昼ごはん? 私はもう行けるよ!」


「私もちょっとお腹空いたかな」


「じゃあパンケーキ屋さんに行こう~」


 その声で、愛梨さんを先頭に、真ん中に私、後ろに由香さんの順でエスカレーターに乗り地上に出る。野球をやっている時は然程気にならない暑さが、今日はなんだか気になる。お洒落な服を着ているからかな?

 その疑問を口に出すと、二人も頷いてくれた。


「夏用のアンダーシャツは汗吸ってすぐ乾くから便利だよね」


「それに野球に集中してると暑さを忘れるよねぇ~」


 よかった。私だけじゃないみたいだ。


「こっちだよぉ~」


 駅を出ると愛梨さんの案内で左へ向かう。あっ、有名なアイスクリーム屋さんだ。沢山人が並んでるなあ。夏休みだもんね。

 そのまま少し真っ直ぐ歩いてから右手の信号を渡ると、大きなファッションビルの一階にパンケーキ屋さんがあった。


「ここ~」


 しかしこのお店も順番待ちの列が少し出来ていた。三人で最後尾に並ぶ。ここもやはり夏休みの平日昼前だけあって、中学生高校生くらいの女子がほとんどだ。その中で私達小学生三人組はちょっとだけ浮いているかもしれない。


「ねえ、愛梨さんのお姉さんって何歳なの?」


「高一だよぉ~」


 やっぱり! 道理で周りが中高生ばかりな訳だ。


 そんな会話をしていると、私達の前に並んでいた、高校生くらいの二人組が振り向いた。自分達の後ろに並んだ三人組を見てちょっと驚いたご様子。


「あなた達、もしかして小学生?」


「やだー、かわいいなー!」


 一人はなんだか少し先走っている。

 年長者の由香さんが代表して答える。


「はい、そうですけど」


「皆可愛いねー。私達が小学生の頃なんてもっとイモかったよー」

 そう言って笑っている。

 すると、先程からかわいいかわいいと連呼していた方の人が、私を見て突如小さく叫んだ。


「やばっ! こっちの可愛い子、全身メゾ○アノだよ! キミらもしかしてお嬢様なの?」


 確かにお母さんが買ってくれた服はそんなブランド名だった気がする。私は答えた。


「いえ、ただの野球女子の集まりですよ?」


「へ……? 野球……? 三人共野球やってるの? すごっ!」


「はい。そのおかげで、たまにしかこうやって遊べないんですけど」


 由香さんが後を引き継いでくれた。


「なるほどねー。じゃあここのお店もたまの贅沢って感じ?」


「今日初めて来たんです~。私だけ二人とは違うチームだから普段は全然一緒にもいられなくて~」


 そう言った愛梨さんの語尾は、普段よりちょっとだけしゃきっとしていた。


「えっ、じゃあ野球ではライバルってこと? んで今は一緒に遊んでて……何その関係、濃ゆっ! 凄いじゃん、羨ましいよー。アツい青春だねー」


 よく喋る方のお姉さんは驚いた様子でまくし立てる。

 落ち着いた感じのお姉さんがそれを止める。


「確かに凄いけど、そんなに食いつかないの。ほら、この子達驚いてるよ。ごめんね、うるさくて」


「いえ、そんなことないです。ちょっとびっくりはしたけど、お姉さん達と喋るのも楽しいですし」


「いやー礼儀正しいねー。あっ順番来たみたい。じゃあ三人共楽しんでね!」


「じゃあね、お先にー」


 そう言って二人は店内へ案内されて入っていった。


「びっくりしたけど良い人達でよかったね」


「そうだねぇ~。もしかして小学生って私達くらい~?」


「う、うん。周りはお姉さんばっかりだよ」


 高一の、愛梨さんのお姉さんがおすすめするお店なので、よくよく考えれば当然なのだが、愛梨さんは今まで気付いていなかったみたいだ。


 でも店先に漂ってくる、パンケーキの美味しそうな香りには私も抗えそうにない。だって女子だもん。


 それから少しして、私達も店内に案内された。席に通される途中、先程の二人組から手を振られたので元気に振り返す。なんだか店内のお客さん達は、私達にちょっと驚いているみたいだ。見るからに小学生の三人組だもんね。


 二人を伺ってみると、特に気にしている様子はない。私も実はそんなに気にしてはいない。野球で鍛えられたメンタルのおかげだろうか。

 愛梨さんが早速メニューを見ている。私と由香さんも遅れて覗き込む。


「これは……悩んじゃうよ!」


「うん、悩むね。即決なんて絶対無理だよ」


「三人それぞれ厳選した別々のを、ちょっとずつ分け合えばいいんだよぉ~」


「それだよっ」


「それだねっ」


 私と由香さんがほぼ同時に反応した。

 暫し悩んだ末に注文して、二十分くらいお喋りをして待つと、待望のパンケーキがやってきた。


 私はスフレパンケーキにミックスフルーツが載った、王道メニューを選んだ。由香さんはチョコバナナのスフレパンケーキ。愛梨さんはホイップクリームとストロベリーシロップ付きの、フレッシュストロベリーが沢山載った普通のタイプのパンケーキだ。


 早速各自、一口目を口に運ぶ。


「美味しい!」


 三人共それしか言えなかったので、見事にハモった。そして早速一口サイズを二人分カットして、シェアし合う。


「どれも美味しいね!」


「うん。スフレもいいけど愛梨が頼んだ普通のも美味しいね」


「ミックスフルーツもチョコバナナもどっちも美味しいよぅ~」


 美味しいを連呼しながら食べ終わって、ようやく落ち着いて話をした。私は勿論、二人も外でスイーツを食べるのは初めてだったみたい。三人揃って初めてのスイーツを食べられて嬉しいよ!


 どうやらその思いは皆共通のようだった。三人揃って笑みが絶えない。

 食後しばらく腹ごなしにお喋りを楽しんだ後、まだ列も出来ているしということで私達は店を出た。


「この後どうするの?」


 私がそう尋ねると、愛梨さんが微笑んで答える。


「本場のタピオカミルクティーを飲むんだよ~」


 そう告げた愛梨さんが案内してくれたのは、すぐ斜め向かいにあるテイクアウトのタピオカミルクティー専門店だった。


 注文すると、氷の量と甘さの度合いを訊かれたので、私は氷少なめ甘さ控えめで頼んだ。二人は氷少なめは私と一緒だけど、甘さは普通にしていた。


 通りを駅方面に少し歩いて、空いているベンチがあったのでそこに三人で腰掛けてタピオカミルクティーを飲む。


 甘さ控えめにしたおかげか、スッキリと飲みやすく、その上弾力に富んだタピオカの食感が面白い。そんな私に声が掛かる。


「紗友ちゃん~、そっちのちょっと飲ませてぇ~」


「いいよ! 愛梨さんのもちょっと飲ませてね」


 交換して飲む。甘みがあるのはまた違った味わいで美味しいと感じた。


「甘いのも美味しいね」


「あんまり甘くないけどその方が飲みやすいんだねぇ~」


 ちょっとそわそわしている由香さんが目についた。ああ、そっか。


「由香さんもこっちの飲んでみる?」


「え、いいの?」


「当たり前だよ!」


「じゃあ愛梨と同じだけど私のも飲んでね」


 そう言って渡された由香さんの分をちょっとだけ飲んでから私は言う。


「由香さん、愛梨さんは呼び捨てなのに、私は未だにちゃん付けなのは距離を感じるよ! 私も呼び捨てがいいな!」


「えっ、そう思ってたの? ごめん! なんか紗友ちゃんは出会った時からずっと紗友ちゃんのままだったよ。じゃあこれからは紗友って呼ぶね」


「うん、ありがとう。ああ、でもチーム別になっちゃうんだった……」


 あからさまにへこむ私。


「愛梨はまだマイナーだよぉ~。紗友ちゃんと対戦あるかもぉ~」


「あっ、愛梨さんもだよ! 私よりお姉さんなんだから、私のことは紗友って呼んで欲しいな!」


「分かったよ~、紗友。でもそっかぁ、由香さんはメジャーチームに行っちゃうんだねぇ~……」


 私同様へこんだ様子を見せる愛梨さん。私達はそれだけ由香さんを慕っているのだ。


「先にメジャーで待ってるね。メジャーでもシニアでも、紗友とは一年ずつ一緒にやれるし楽しみにしてるから」


「愛梨、違うチームだから一緒に出来ないよぅ~悲しい~」


「普通は自分の地域のチームに入らなきゃいけないからね、仕方ないよ。試合で当たるといいね。それに高校ではもしかしたら三人一緒かもしれないしさ!」


 由香さんが励ますように言う。だがそれを聞いた瞬間愛梨さんと私はアイコンタクトを交わしていた。


「じゃあ、約束しよう~? 一緒の高校で女子野球やるって~」


「うん、私も三人で一緒の高校でやりたいな! 由香さんとは一年間だけになっちゃうけど、私絶対一年目からレギュラーになるから!」


「紗友の場合そこは心配要らない気がするけどね。でも、うん。じゃあ約束しよう。まだどこになるかはわからないけど、シニアで進学先を決める頃には二人にも相談する!」


「やったぁ~、絶対だよ、由香さん?」


「うん。っていうより、二人共、私が行く高校に来てね?」


「ちゃんと行くよぉ~」


「絶対行くよ! あっ、私、秋から本格的にピッチャーやろうと思ってるんだけど、愛梨さんがいたらもしかしていらない子になっちゃう……?」


「そんなことないよぉ~」


「うん、紗友ならきっと良いピッチャーになれるし、高校で左右のエースがいるなんてかっこいいじゃない」


「そっか! じゃあ頑張るよ! あとこの話は三人だけの秘密にしよう?」


 私がそうお願いしたのは、前世のシニア時代の色々な高校による勧誘合戦を思い出して、もしこの話がバレたらちょっとした騒ぎになってしまうのでは、と思ったからだ。


「秘密ね。わかった」


「愛梨も内緒にする~」


 そう遠くない将来の約束を交わして、タピオカミルクティーを飲み終えた後は、小学生らしく井の頭公園の動物園を見て回って楽しんだ。満足して園を出た頃にはいい時間になっていたので、泣く泣く愛梨さんと別れて電車に乗った。


「ねえ由香さん」


「ん、なに?」


「高校、楽しみだね」


「まだ早過ぎるよ。とりあえずは夏合宿もあるし、貴大達とメジャーで、リトル世界一目指す約束もしたじゃない」


「あっ、そうだった! リトルでもU―15女子でも世界一になりたいね!」


 由香さんと二人の帰り道、私は更に夢を膨らますばかりだった。


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