第027話 全国大会と待ち合わせ
本日二度目の更新分となります。
可愛い私を見てもらう前に全国大会があった。リトルリーグのマイナーの全国大会は、メジャーリーグのコミッショナーを始めとするお偉方達とメジャーリーグ選手会の協賛で、宮城県石巻市の球場を使って行われている。残念ながら今大会には来てくれるメジャーリーガー、元メジャーリーガーはいなかった。去年は元メジャーリーガーの日本人選手とかが来てくれたみたいなのにね。家のパソコンで大会公式ホームページにアクセスし、六人のメジャーリーガーからの熱いメッセージを聞いた。
そのうち半数の三人は前世で知っている選手だった。伸び盛りの期待されていた若手だったが、既にトッププレイヤーになっているみたい。あっ、この選手には一回ホームラン打たれたよ。
そんな私の複雑な心境を意に介さず、あっという間に全国大会が開催された。
全国から集った十六チームによるトーナメント戦で、私達は三位タイの成績を残した。私は更に打順が上がって三番ショートとして出場した。一度、もうちょっとパワーがあればホームランになりそうな打球が伸び切らずにフライアウトとなり、マイナーで初の凡退こそ喫したものの、結構な活躍が出来たと思う。そこはこれからの身体の成長に期待だね!
また、割合で言えば、五番の時より打点は少し減ったものの、得点が増えた。後を打つ貴大くんや航也くんのおかげだ。
準決勝で負けた時に感じたのは、私達より上のチームの選手層、特に投手陣の層の厚さだった。エース、というより一番手と、さして遜色ないピッチャーが数人いるのだ。
私達春日野東はエースの貴大くんと控えピッチャーの完成度にやや差がある。更に貴大くんの完全休養日には、打力も落ちる。それが主な敗因かな。
しかも今の主力となっている五年生はマイナーからメジャーに行ってしまうし、秋からはうちのチーム、結構ピンチかも。もし私が立派なエースになれても、それだけで土日の連戦を勝ち抜くことは出来ないのだから。
こうして若干の不安を覚えつつも、全国大会が終わった。次の練習から、由香さん、貴大くん、航也くんなど、メジャーに合流する五年生達とは暫しのお別れだ。帰りにそんな話題になったが、湿っぽくなるのを嫌うように貴大くんが言った。
「紗友が来るまでにメジャーでリトル世界一になろうぜ! んで、紗友が入ったらどうせすぐレギュラーだろうし、それで世界大会連覇するんだよ!」
「いいね、それ。私達も頑張らなきゃ」
「貴大、まずは俺達がメジャーでレギュラーにならないと」
由香さんと航也くんは謙虚な物言いだが、表情はそうは言っていなかった。
「楽しみにしてるよ! 私もマイナーで頑張るから、皆もメジャーで頑張ってね!」
そう誓い合って別々の帰路についた私達だった。
私達球児は夏休みだが、コーチ陣は本業の仕事がある。夏季合宿までもまだ日があるので、私はまったりと平日を過ごしていた。
そんな時、電話が掛かってきて、お母さんが取ると「由香ちゃんからよ」と私を呼んだ。
受話器を受け取って応答する。
「あ、紗友ちゃん。前に約束した愛梨と三人で遊ぼうって話なんだけどさ、愛梨が早く早くってうるさくて。明日大丈夫かな?」
「大丈夫だよ! 愛梨さん、そんなに楽しみにしてくれてたんだ。嬉しいな」
「もう待ち切れないって感じだったよ。じゃあ明日十時半に駅の改札前で待ち合わせね! 電車で愛梨の地元の吉祥寺に行くから」
「うん、わかった!」
とうとう来たよ、約束の日が! 今からテンションが上がっていくのを感じる。今夜すんなり寝られるかな……。
とりあえずお母さんに報告だ。
「お母さん、前話した由香さんと愛梨さんと遊びに行くの、明日になったよ」
「よかったわねえ。あ、預かってたお年玉、少し渡すから使いなさいね」
「やった! ありがとうお母さん!」
「どこで遊ぶの?」
「吉祥寺だって! 愛梨さんの地元らしいよ」
「詳しい子がいるなら安心ね。はぐれたりしないように気をつけるのよ」
「うん!」
それから浮かれ気分で過ごして、夕食とお風呂、入浴後のストレッチを済ませると、案外あっさりと眠れた。私は健康優良児なんだよ!
目覚ましも無しに七時ぴったりに起きると、お母さんが用意してくれた、小三女子にしてはボリュームのある朝食を食べた。成長の為には栄養をしっかり取らなきゃね!
「ごちそうさま」
言ってから食器を片付ける私に、お母さんが尋ねてきた。
「紗友、そう言えば今日は何時に出ていくの?」
「十時半に駅で由香さんと待ち合わせだよ」
「ならお買い物行くついでだし、駅まで車に乗っていきなさい」
「ありがとう!」
私が可愛い服を着る時は、何故かお母さんがいつにも増して優しい気がするよ。
時間が近付いてきて着替えると、またお母さんがヘアメイクをしてくれた。ちなみに洋服は、真美ちゃんの家に遊びに行った時にレイヤードのトップスを着たので、今日はネックレス柄のTシャツを着た。
これが二回目となるベロアのシューレースのハイカットスニーカーを履いて、私は車に乗った。手荷物は無く、お財布はショートパンツのポケットだ。ちょっとだけ男性らしさが出てしまったかな?
駅に少し早く着いた私が改札手前で待っていると、改札の奥にある時計が十時二十五分になったところで、由香さんがやって来たが、私の横を通り過ぎてしまった。
私より少し長くて、シャギーなミディアムボブの髪型。爽やかなピンク色の、ゆったりとしたドレープとスクープネックが印象的なTシャツに、白い七分丈のコットンパンツを合わせている。今日の由香さんは普段より更に素敵だなあ。
「おはよう、由香さん」
挨拶して存在をアピールする私。
「あ、紗友ちゃんもう来てたんだ。おはよ……」
私の声がした方向に振り返りながら、由香さんは途中で絶句した。かと思えばすぐに勢い良く喋りだした。
「紗友ちゃん凄く可愛いじゃん、似合ってるよ! そういう服も持ってたんだね。髪型も決まってる!」
「えへへ、ありがとう。実は今日の為にお母さんにおねだりして買ってもらったの。髪もお母さんがセットしてくれて。由香さんも今日はいつもより大人っぽくて可愛いね」
「地元なら別だけど今日はお出掛けだからね。私もちょっと気合い入ってるよ。紗友ちゃんには負けるけどね。じゃあ行こうか」
二人で吉祥寺までの金額の切符を買う。野球漬け小学生女子の私達はICカードを持っていないのだ。あんまり必要もないしね。
ホームへ行くとちょうど目的の電車が来るところで、私達はタイミング良く乗ることが出来た。
電車内で控え目な声で会話する。
「今日の紗友ちゃん見たら、愛梨は驚くだろうなあ」
「私と愛梨さんはお互いユニフォーム姿でしか会ってないからね。愛梨さんの私服も気になるよ」
そんな会話をして、三十分ほど電車に揺られていると吉祥寺に着いた。電車を降りると、ホームから見える街の風景に圧倒される。勿論前世でもっと凄い街並みは沢山見ているけど、自分が小さいことで、スケール感が違うのだ。先日のお母さんとの買い物の際は、ホームから街並みを見下ろしていなかったので分からなかった。
そんな私の手を引いて、由香さんが先導してくれる。
「駅地下の広場で待ち合わせだよ。さあ行こう」
こうして小三、小四、小五の野球女子三人による女子会が始まるのだった。
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