表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一ノ瀬兄妹(に)は伝えたいことがある  作者: 久川梓紗
僕に与えられた芸名
53/59

53話「正しい道」

「生徒会長はこいつのこと好きなんすか?」



 僕と会長が日本人特有の譲り合いみたいなことをしている時、唐突にソウが切り出してきた。

 会長から頂いた紅茶を飲んいた僕を吹き出しそうになったのを必死て耐えたらむせた。

 ゴホッゴホッウェッ。

 これはやばい。すごく咳が止まらないしおまけに変なところに紅茶が侵入してしまった。



「一ノ瀬大丈夫か?」



 声が出せず親指と人差し指でOKサインを出す。

 それにはお構わずでソウは話し続ける。

 背中に撫でるように手でさすってくれるならまずこの原因となったその会話をやめてくれ。



「それでどうなんすか?」


「君に言う必要があるとでも」


「好きでもないやつにプロポーズしたんすか?」


「答えになっていないな。もし俺が本気で一ノ瀬にプロポーズしていたとしたら君はどうする。いや、反対の方を聞いた方がいいのかもしれないな。これがデマだったら君はほっと一息ついでにその口をつけていない紅茶でも飲むのかい?」



 僕の前では珍しい全校生徒を束ねる生徒会長のトーンだ。

 むせが治まった僕は真面目腐った会長ではなくソウを見る。咳き込まなくなったら背中にあった手は消えたが、微かにまだ温かい。

 ソウの横顔が見える。珍しく考えている様子だ。綺麗なくっきり二重の近くに眉が寄っていた。


 会長は何故か小中学生がしそうな挑発にのっかっている。いつもの会長ならば先生の立場のくせに何故か今日に限っては同じく場所とボールを取り合う子供だ。



 ソウが会長が入れてくれてから一度も手をつけていなかったティーカップを手に持ちごくごくと1度で全て飲んだ。空っぽになったティーカップは蛍光灯の光に照らされ笑っているように見える。実際してやった顔で笑っていたのはソウなのだが、それを小馬鹿にするようにカップも負けじと嘲笑っている。



「それが君の答えか」



 会長が興味深そうにソウのことを見てから僕に視線を移して浅く笑った。

 ソウと言えば相変わらず会長のことを睨みつける勢いだが、珍しくその口悪い口は開かない。彼も場所と人は弁えるようだ。


 沈黙が続く中、僕も黙っていられなくなった。



「会長、お互いの地雷を踏まない為にもこの噂消しませんか?」


「消すも何も、広まってしまったもはどうしようもないと思うが」


「それを何とかしてください。お得意の人を手駒にとるみたいに」



「一ノ瀬はもう少し言葉を考えられるようになれるといいな」



 会長がしみじみと僕の顔を見て言うものだからどういうことですか!と言おうかと思ったが止めた。

 なぜならソウが深く頷いていたからだ。


 こういうことばかりに共感するんじゃない!



「しかし、一ノ瀬が不快な思いをしているならばこの件については考えておく」



 僕が、と言うより会長の顔が……とまたしても口を噤む。これを言ってしまえばまた日本人特有の手土産状態に戻ってしまう。それは面倒臭いのでここは何も言わないでいるのが得策だろう。

 その代わり違う言葉で繋いでおく。


「ありがとうございます。そうして貰えると助かります」



 嘘ではない。本音だ。

 僕は別に会長にプロポーズされていると噂されていても特に問題は無いが会長は生徒会長だし、顔も評判も僕に以上に広まっているし広まりやすい。そんな人が僕みたいなやつにプロポーズされていると知られたらどうなるだろう。会長に憧れを持っていた人達が幻滅するかもしれない。その時点で幻滅する人たちは会長のことをよく分かっていないだけなのだがそれでも会長だって生徒に与えたいイメージはあるはずでそれが彼ら彼女が持っているイメージかもしれないのだ。そのものを壊すのはなにか引っかかる。



「一ノ瀬から感謝の言葉を聞けるとはな」


「私の事なんだと思ってます?」


「それはこちらも言える言葉せりふだな」



 会長について何か言ったっけ……? 覚えていないし心当たりもない。


 僕は他人に興味がある方では決してない。誰が何をしているだとかどう思っているのだかと詳しいのことを知ろうとしないのだ。知ったところで僕にできることもその人が僕に話したことによって何か得られるものがあるとも思えないからだ。


 だから僕は必然的に相手にぶつける自分の言葉に意思がないのかもしれない。この言葉を言ったら相手を傷つける、喜ばれる、怒られる、悲しまれる……等などそう言うのが分からない。どの言葉で相手が喜怒哀楽を変えるのか全くわからないのだ。だから僕はたまに無神経なことを言っているのかもしれない。それにつけ加え本人は無自覚に言っているとしたら周囲にとっては決して良い奴ではないだろう。別に、良い奴になろうとしている訳では無いが。


 それでも人には言っていい限度というものがあるだろうし、これから社会に出たら今以上に必要とされるだろう。想像もつかない。


 僕は自分の言葉で受ける相手の気持ちもわかりもしなければ相手の言葉でその人がどんなことを思っているかと汲み取ることも出来ない。これではどうしようもない。ただの自己主張女になってしまう。

 しかし、ここまでこのやり方で過ごしていると改善方法も何を直せばいいのか、何が正解なのかも分からない。この相手にはこのぐらい大丈夫だろー的な安易な考えで発言することしか僕の術はない。


 周囲の人らがどんな考えで発言しているのか気になったりもする。こういう言葉を言う時にはこう考えるべきだとかこの言葉の場合相手はこう考えているだとかそう言うマニュアル本みたいのが本屋でも売っていれば、校則みたいに守ることも正しい方へと進むことも出来るのに。

 何故そのようなものは日本でもなくてもこの世界には存在しないのだろう。


 答えのわからない時に正しい道へと進むための術は何で身につけられるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ