52話「プロポーズ」
本鈴がなる2分前、僕はなんとか教室に滑り込む。
「お前、そんな急いでどうしたんだよ」
「別に」
慌てた様子で教室に入った僕が目立ったのか、ソウが入室そうそう話しかけてきたが軽くあしらう。
それ以上ソウが追求してくる気配もないので僕はそのまま自分の席に戻った。
「遅かったねー、柚葉」
後ろの席の恵美がニヤニヤ顔で話しかけてくる。何故そんなニヤニヤと笑っている。僕をからかう材料でも手に入れたのか。
「なんでそんなにニヤニヤしてるの」
「だって〜、柚葉と会長の噂で昼休み大変だったんだからぁ」
大変、と言いながら全然そうには見えない。むしろ楽しんでいる様子だ。これは聞いてという合図なのだろう。
「大変って何が?」
「柚葉、会長にプロポーズされたんでしょ」
にまぁと口角があがる。
……誰だそんなデマだとも言えないような変な噂を流したやつは。
「否定はしないけどそういうんじゃない。けど、それ流したの誰? そいつんとこに今すぐ行きたいんだけど」
チャイムが鳴る。
やべっやべっ、男子と女子が慌てた様子で自分の席につき次の授業の準備をする。
後ろからトントンと肩を叩かれたので後ろを向いたら恵美から2つ折りにされたメモ帳を渡された。
中を見るとふわふわのうさぎが四つ葉のクローバーを持っている可愛らしいメモ帳だ。中身は……
『誰かはわからないけど大声で廊下走りながら男子生徒が言ってたよ』
恵美から貰ったメモ帳をぐしゃりと握り潰す。
おいマジで誰だ。名乗り出ろ。
授業が終わってから改めて周囲を見渡すと僕に視線が集まっている。昼休みは恵美の言葉を理解するのに必死だったから気づかなかったがその時からその視線は浴びてたのだろう。どうでもいいがどうでもよくない。
こういう場合どうするのが正解なのだろう。
ほっとく?
でもそのままにしていたら本当に勘違いされそうだ。
勘違いされて困ることは……ないけれどあの会長にプロポーズされたなんて知られたら会長ファンクラブが黙っていないだろう。もし攻撃してきたら勝てる自信はあるが僕はできるだけ、いや、少なくともこの学校では静かに過ごしたいのだ。
とりあえず当てにはならなそうだけれど会長の所に放課後行こうかな。そんなことを考えていたらいつの間にか放課後だ。掃除当番も運良くなかった僕はそのまま生徒会室へ行こうとする。あそこは掃除当番はないしいたとしても生徒会員だけだろう。なぜ居るかと聞かれたら会長に用があるとでも言えば大丈夫なはずだ。
「おい」
「なに、ソウ」
教室を出ようとした時、箒を持ったソウが話しかけてきた。何の用だ。こちとら急いでいるというのに。
「お前部活来いよ」
「いや、僕は会長に用が」
僕は今、何か犯した気がする。
「会長に? なんでだよ」
「それはこっちが聞きたいぐらいなんだけど、とりあえず行かないといけない気がするから。それ終わってから部活行く」
「ダメだ」
ソウが無駄に真っ直ぐ見てくる。
なんだよ。
見ていられなくなって彼の足元を見ると箒の黒いところが床にぺしゃんこに潰されている。あぁ、毛先がが悪くなるだろ。
「いくらソウが顧問に説得したって部活辞めたんだから強制される覚えはない」
「そういう問題じゃない」
じゃあどういう問題なんだよ。
僕は痺れを切らして生徒会室へ行こうとする。
逆方向に思いっきり腕を引っ張られた。
「悪ぃ松竹。俺、今日抜けるからこれ頼むぞ」
「おい、天宮!」
「行くぞ、柚葉」
腕を引っ張られた方から茶化しながら申し訳なさそうな声とずるいぞ!と軽く仕付ける声が聞こえたと思ったら僕が歩きだそうとした方に腕を引っ張られ、呟かれる。
「行くぞって、だから私は」
「生徒会室に行くんだろ」
「いいよ、ソウが付いて来なくたって」
ソウが僕の言葉を無視してそのまま歩き続ける。生徒会室への道なんてほとんどの生徒がわかるのに彼は僕の腕を離してくれる気配がない。
そんなに僕はお前から逃げそうか?
いや、実際逃げてきたから何も言えないけれど。
「失礼します」
ソウが先頭を切って生徒会室に入る。僕もそれにつられてボソボソと入室の挨拶をし部屋に入った。
そこには誰もいなくて少し怖くなった。
「本当かどうか知らねぇけど、お前のせいじゃないだろ」
ソウの声が聞こえてくる。相変わらずぶっきらぼうだ。それなのにちゃっかり優しい。
だから僕はこの離されない腕をそのままにしているのかもしれない。
「あ、一ノ瀬に……天宮くん、だっけ」
少ししてから会長が入ってきた。
「不在の中勝手に入ってしまいすみません」
ソウがらしくもなく畏まっている。
会長は1度ソウを目踏みするように見ただけであとは特に何も気にしていない様子で座りなよと僕らを促す。
「なんとなく来た理由は分かるよ。一ノ瀬、迷惑かけてごめん」
「いえ、私は大丈夫ですけど会長こそ大丈夫ですか?」
「……僕?」
こうべを垂れる会長を起こさせてから僕が訪ねると彼はキョトンとしていた。はて、とでもいいたそうな顔だ。
それから僕の意味を察したのかあぁと相槌を打ってから朗らかに微笑んだ。
「僕は大丈夫だよ。それに嘘ではないのだから」
「確かにそうですけど……」
なにか納得しない。そんな思いが顔に出ていたのか会長がうーんと唸る。
横目でソウを覗き見ると彼は会長を真っ直ぐな瞳で隅々まで見ているようだ。
もしかしてソウは会長に憧れたりしているのだろうか。そんな話しを彼から聞いたこともないけれどもしそうだったとしたらここに付いてきた理由も合点がつく。もし、そうでなければ反対に分からなくなるので今はそうさせて欲しい。




