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一ノ瀬兄妹(に)は伝えたいことがある  作者: 久川梓紗
僕に与えられた芸名
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51話「地雷」

「ご馳走様でした。本当にとても美味しかった! お母様にお礼を言付け願いたい」


「あーいいですよ、別に。僕が言うのもなんですが大した物でもないですし。あ、弁当箱私が持って帰るのでいいですよ」


「僕が食べたのだし、洗って返すよ」


「大丈夫です大丈夫です。弁当箱洗い物に出さないと怒られるんで」


「そうなのか? それじゃあお言葉に甘えて」



 会長から受け取ったお弁当箱はとても軽かった。中身がなくなったのだから軽くなるのは当然だろうけれど、その理由は家に帰ってからわかった。ご飯粒ひとつ残っていなかったのだ。それほどお腹がすいていたのだろう。流し台にお弁当を置いた時のお母さんの顔を見ようと思ったが辞めた。

 きっと明日のお弁当は今日と同じになるだろうなと僕の感が訴えていたからだ。

 と、後のことは置いといて現在に戻ろう。



「あと、会長。いちいち僕を呼ぶのやめて貰えませんか?」


「なんでだ?」


「あなたの婚約者にすごい目で見られるの嫌なんですよ。僕じゃなくて彼女を充電器にすればいいでしょう」


「まだ華凛と打ち解けてないのかい? と言うよりもあの子が拗らせているのか」



 そうだ。早乙女華凛さおとめかりん、それが彼女の名前だ。キツめの顔の割に可愛い名前だなと毎回思うのだ。それなのに彼女の名前を毎度忘れてしまうのはそれほど彼女に興味が無いからだろうか。

 毎度鋭い目付きでこちらを睨みつけるような視線を浴びているのだから興味もないも何も無いとも思うけれど。



「拗らせている? それは会長のせいでしょう」


「それにしても充電器とはいい例えだ。 僕がスマホで君が充電器か……。これはいい」


「何も良くないです。てか、話しそらさないでください」


「うむ。それじゃあ、一ノ瀬に真実を教えよう」



 真実?僕がそう聞き返すと会長は嬉しそうに微笑む。

 そういう顔を反則というのだ。

 いつも通りおちゃらけてへなへなになってどうしようもないぐらいだらし無くしていればいいのに今みたいに本当の素はきちんとしているのだから何も口を挟めないではないか。



「華凛は君のこと敵対しなんかしていない。むしろ君のことは好きだ」


 勿論、友情のほうな。

 そんなことは知ってます。

 そうかそうか。僕の頭を撫でる会長はどこか楽しそうだ。出来の悪い妹二人でも見ているつもりだろうか。いい迷惑だ。



「それじゃあなんで早乙女はいつも僕のこと睨むんですか?」



 自分で聞いといてなんとなく想像ができてきた。

 そんなやつ本当に居るとは思わないが、実際いるのだろう。



「華凛は恥ずかしがり屋だからなー。それを隠そうとして裏目にでる。それに顔が美人だけどキツそうだし、余計に誤解されやすい」


「その件についてはわかりました。けど、やっぱり早乙女を元気の源にしてくださいよ」


「一ノ瀬、何を勘違いしてるんだ? 早乙女の婚約者の俺の兄だ」


「……はぁ?」


 これ見ろ。とばかりにパソコンの画面を俺に見える。くるりと画面だけが後ろ向きにでき、タブレットとも使える最新機器だ。

 そこにはツンとしている早乙女嬢と若干会長に似ている背の低い男性が笑いながら並んでいた。

 2人の後ろには垂れ幕がぶら下がっており《㊗婚約!》と書いてあった。


 待て待て。それを先に言ってくれ。



「会長。まず最初に間違っていたことがあったら訂正してくれませんか?」


「僕に嫉妬でもしてるのかなーと楽しみたくて」


「最低ですね」


「そう言いながら僕の相手してくれる一ノ瀬のこと僕は好きだけどな」


「僕が関わらなければ会長何もしないでしょ? 執事さんが僕の家に血相変えながらお仕掛けてきたことあったんですから。インフルで休んでたのに私に会えないからせめて電話でもしてくださいませんかって、執事さんが可愛そうでしたよ」


「そんなこともあったね。君の連絡先も知らなかったし突然家にお仕掛けてもお邪魔だろうと思っていたらだんだん無気力になっていってみんなから何言われたか全く覚えてないよ」



 笑いながら言うことじゃありませんって。それに僕がいなくなったらどうするですか。




 しまった。自分で自分と彼の地雷を踏んだ。

 このあとの彼の返事は予想できる。

 どうしよう。今すぐ逃げるべきか。

 いや、逃げたところで逃げられないことはもう承知だ。



「そうならないように、僕と結婚してくれませんか?」


「しませんっ! あのですね、会長。人にはケジメってものを必要ですよ」


「ケジメをつけたら君への想いが止まらなくなるんだ。僕には一ノ瀬しかいないんだ」


「たんまたんま! 会長眉目秀麗とか言われているからまだ様になりますけどもしこれがブサイクとか言われる人だったら通報ですからね?!」


「通報しないってことは少しは気を許してくれているんだろ」


「こんな毎回同じ目にあってなら通報しませんよ」



 ___それじゃあ君はほかの男でも通報しないのかい?



 会長の言葉は聞こえたような聞こえなかったような、分からなかったけれどそれよりも先に気を失った彼をソファで寝かせておかなければ。



 ___好きなんだ。いかないでくれ。



 寂しく響くその声は誰に当てられたものでもない。


 会長が目を覚ますまでここにいよう。

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