5話「桜闘予選」
「は?」
僕は自分でも思ってしまうほどにマヌケな声をだしていた。
朝は、なんだかんだと櫻井と話していいたら学校についていた。
そして、今。
授業一時間目。
普通ならば眠気が襲ってきて授業どころではない時間。
しかし今はそんな悠長なことを言っている暇はない。
「えー、では。これから桜丘高校伝統、桜闘予選を始めたいと思いますー。」
「「おお!!」」
学校のあちこちにあるスピーカーからアナウンスが聞こえてくる。
いつもは無視しているはずの機会から発せられた音に生徒は声をあげた。
桜丘高校は男子校で不良が多いらしいと言う噂がよく僕の学校まで回ってきた。
柚樹がなぜ、この学校を選んだかはまた今度聞くとして、このイベントはなんだろうか…。
呆然とするしかない。
「柚樹?どうした?」
櫻井が、僕の横に現れる。
「空我。なんだ、この変な行事は。」
僕の顔色を伺って、聞いてきた櫻井にとげとげしい言い方で言葉を放つ。
「何って順位決めだろ?お前楽しみにしてただろ。俺には秘策がある。だか、何だか言って」
「秘策?」
声を出してから思い当たる言葉を探して見た。
『あぁ。けどお前俺より強いから大丈夫だろ。』
柚樹。後で覚えてろ。
「でも全てが喧嘩じゃなくなったらしい。確か一戦目は運試し。」
「運試し!?」
いきなりで大声を出した僕に驚いて櫻井は肩を上下させていた。
桜丘高校伝統、桜闘は、その名の通り生徒たちが闘い順位を決めるそうだ。
ちなみに櫻井は一年の頃、一位だったらしい。
確か、柚樹は3位と微妙だった気がする。
1位 2年 櫻井 空我
2位 2年 橋川 流星
3位 2年 一ノ瀬 柚樹
とまぁ、当時一年の三人組にトップ3を盗られたもんだからきっと運営に関係している先輩方が後輩を上位にいかせないように半分を失う一回戦目を運試しにして失格にさせようと考えてるのか、もしくは時間短縮か。
今まで三日もかかって桜闘をやってきたらしいから。
「柚樹って運良いよな。」
「え?あー今はどうだろ。最近ついてないんだよ。」
「柚樹が?熱でもあるのか」
櫻井が、僕のおでこに手をおいてきたものだから顔を横に向いて彼の手から逃げようとする。
「なぜそうなるっ」
手を額から無理やり話した後、僕は櫻井の目を睨んで言った。
けど、後からやり過ぎたと思い、下を向いて誤魔化す。
「空我は?運良い方だっけ?」
「ぅん?凄く悪い。」
「そんな真面目な顔で言うなよ。」
「本当のことだからな。」
今度は真顔で返された。
事実、僕は柚樹ほど運は良くない。
けど多分、人並みよりはあると思う。
「最初はグーじゃんけんぽんっ」
横から知らない声が聞こえてきた。
「本当だ、一ノ瀬くん運ないね。櫻井に負けるなんて」
けど、自分達はその声につられじゃんけんをしていた。櫻井がグーで、自分がチョキ。
なぜ、自分がチョキを出せたのか疑問だ。普通なら、突然言われじゃんけんをするとグーを出してしまうのがセオリーなのに。
なぜチョキなのだろうか。
…これも運なのだろうか。
あと、この横にいる人物は誰だ。
「橋川。」
櫻井が、その人物の名前らしき言葉を発した。
はしかわ?橋川って…あの橋川か?
前回二位の….?
「お久しぶり、櫻井」
橋川が、二カッと櫻井に笑みを向けた。
身長は僕より高く、櫻井よりも少し高い。髪型は毛先が癖っ毛なのかカールがほんの少しかかっていて少女漫画に出てくる王子様的存在感がある僕の苦手なタイプだ。
櫻井も少女漫画に出てきそうだが、少年漫画にも出てきそうな人物で、そこまで苦手意識はない。
「橋川 流星くん…?」
「うん。そうだよ。一ノ瀬くん。始めまして。」
やはり前回櫻井に続いて上位を獲った橋川だったか。
橋川は、手を差し伸べてくる。
握手だろうか…。
僕は橋川の手を握り彼の顔を見て、「よろしく。」と一言言った。
そしたら「こちらこそ、よろしく。」と返ってきた。
それもとびっきりの笑顔付きで。
「なんで僕の名前を知ってるの?」
疑問に思ったことを聞いてみた。
そしたら橋川は「簡単だよ。」と言って僕に嬉しそうに飛びつきてきた。
「ちょ!?」
「だって俺、君達、或哉の大ファンだもん!」
さっきまで首に巻かれていた腕が離れ、今度は両肩に両手をおかれた。
橋川の顔がすぐ近くにある。
「特にユキが好き!だから同じ学校にいるって聞いてすごく嬉しかった!」
橋川が満面な笑みが語る。
「あ、ありがとう。」
その勢いに負けて、言葉を濁す。
兄のことを言われているはずなのに、なぜか自分が嬉しくもあるし恥ずかしくなってきた。
…柚樹達って本当に凄いんだな。
「それに…」
橋川の声のトーンが少し重くなる。
「去年、櫻井くん腹痛で闘えなかったから残念だったんだ。だから、君のことはファンとしてはとても好きだけど、勝負に手は抜かない。」
先ほどと違って真剣な目をした顔になっている。
…こんな顔もできんだな。
僕は少し笑みを浮かべそうにしている自分を隠すように声をあげた。
「当たり前だ!」
橋川の左肩に右拳を当てた。