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一ノ瀬兄妹(に)は伝えたいことがある  作者: 久川梓紗
桜闘
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6話「真剣勝負」

 そう言えば、なぜ橋川は兄が、或哉(あるかな)のユキだと知っているのだろう。


「橋川くん。」

 疑問に思って聴こうとした。


「橋川でいいよ。」

「じゃあ僕も呼び捨てでいいよ。」


「で、なに?」

 今度は橋川から問いられて少し、聞きづらくなる。


「あ、あのさ。」

「うん。」


 橋川は焦らず様子もなく、ただじっと僕の言葉を待っている。


「何で、僕が或哉のユキだって知ってる?それと聴いたってどう言うことだ?」

 音程を変えないでゆっくりと探るように僕は彼に聴いていた。


「え?あー。聴いたってのは一ノ瀬と櫻井が話してるの聞いちゃって…。それと聞く前から何となく分かってたと言うか、そうなのかなーって」

 橋川は頬を人差し指でポリポリとかきながら、質問に答えた。


「柚樹のやつ馬鹿だろ。」


「え?なんか言った?」

 心の中で呟いたつもりが口に出していたらしく橋川が聞き返してきた。


「あ、いや…なんでもない。」


 僕がそう言ってから少し時間が経ったあと、一回戦が始まろうとしていた。



 初戦の運試しはくじ引きで櫻井、橋川、そして僕までが無事?に二回戦突破になった。


 二回戦はジャンケンだった。これもまた三人とも突破した。もう企画者面倒くさくなってるんじゃないかと心配したくなる。


 三回戦は、宝探しだった。これまた三人とも無事突破。もう小学校の学校行事じゃないか?



 僕が疑問を持ち始めた頃の次の戦いは、一対一の鉢巻取りだった。


「決闘らしい?勝負だな。」

 そう、呟いたいた。

「柚樹。お前の対戦相手橋川だぞ。」

「は!?」

 櫻井がいつの間にか僕の隣に立っている。


 手元にあるトーナメント表を見ると橋川と柚樹の名前が隣り合わせにある。


「本当だ…」


「えー、一ノ瀬ともう当たるのー?もうちょい先にしてくれないかなー。」


 手を頭の後ろで組んでいる橋川が僕らの近くにやって来た。


「別に、どうせ当たるんだから、速かろうが関係ない。」


 自分より背の高い橋川を目あげ、そう言うと闘志が何処からか湧き出てくるような感じがしてきた。


「ヒュー。言うね、一ノ瀬。…けど、負けないよ。」


 口笛を吹いたあと、橋川はマジな顔になって言った。


「「…いざ、勝負!」」


 互いの声が耳に響き渡った。


 一対一の鉢巻取り。それは、互いが頭にハチマキを巻き、そのハチマキを対戦相手から盗った者が勝ちと言う簡単な勝負。


 場所は体育館。一組ずつ決められた範囲の中で闘いをする。そして今、何組もの闘いが始まろうとしている__。


「制限時間は十分。位置について、よーい、スタート。」


 アナウンスの音が体育館に響くのと同時にうるさいほどの殺気と足音を感じた。


 絶対…負けない。


 姿勢を低くして、目の前にいる橋川を睨みつけるように身構えた。


 橋川は最初の指定位置から動こうとしない。どうする。自分から攻めるか。…いや、橋川が動くのを待とう。


 そう考えてる間に時間は経っていく。心臓の音は加速し煩くなるばかりだ。


「残り五分。」


 アナウンスの音が無駄に聞こえてきて、さっきからうるさい心臓の音をさらに早まらせた。


「っ…。」


 橋川はさっきから平常心で最初の指定位置から動かないまま少し先の僕の目の前にいる。


「残り三分。」


 アナウンスがまた告げる。


「勝ったー!」

「くそっ」

 と言う声が次々と聞こえてくる。


 まだ動かないのか?時間がなくなる。


 自分が焦ってきて、何もしていないのに、手汗を感じる。


「残り二分。」


 アナウンスがつけたその時だった。


 一息ついて少し焦ってきた自分を落ち着かそうとしたその一瞬に、橋川はさっきよりも、自分のすぐ目の前に現れた。


「っ!」


 自分の頭に向かってきた手を抑えたが、また違う手が頭に向かってくる。


「貰いっ!」


 その瞬間、橋川の腕を持っていた手に力を込め、橋川の足を自分の足に引っ掛け、橋川を転ばせた。


「っ!?」


 声にならない声が聞こえたような気がした。


「残念。」


 倒れた橋川の両腕を片手で束ね、彼のハチマキを盗った。


 その時、倒れていた橋川の足が嫌なほどに綺麗に、自分の足に絡まり、足がもつれ、橋川の上で倒れてしまった。


「!!」


 その時、自分でも少しわかるぐらいな嫌な感触がした。


 …柔らかく、少し弾む感触。


 __橋川の背中に自分の胸が勢いよくあたったのだ。


「一ノ瀬!?」


 僕が乗ってる事を忘れてるのか、僕が立とうとしている時にいきなり橋川が立とうとしたものだから、橋川と自分の足がまたからみ、今度は僕が下になった感じ倒れた。…言い方を変えれば押し倒されたとでも言うのだろうか。


 そしてまた、さっきとは違う、柔らかい感触が唇に伝わった。


「「!?」」


 それには橋川も自分も驚いた。


 __互いの唇が触れ合ったのだ。…キスをしてしまった。


「わっ、悪りぃ!」


 橋川が僕の肩の近くにある床に手をついて、上半身を起こした。


「こっちも、ごめん。あと、退けてくれる?」


「わ、悪りぃ!」


 橋川が自分の上で倒れていた身体を起こし、立った。そして自分もあとに続き床に手をついて立つ。


 勝負は勝った。それは良かった。自分は勝負するまでは面倒でしたくない主義だが、やるとなると負けなくない。


 自分は変な負けず嫌いだ。


 …ただ、勝負はもういい。

 __勝負は別に、今はもうどうでもいい。

 ただ、この状況が、この沈黙が、無駄に気まずい。


 __橋川と自分が顔を見合わせてないのが、見なくても分かる。


 互いが気まずいのは目に見えていた。


 ただ、この沈黙から一秒でも早く遠ざけたくて、勇気をだし一言を言う。


「は、橋川っ!」

「な、なに!?」


 橋川の声が裏返った。そして身体が驚いたのもわかった。


「ごめん。いきなり投げ飛ばしたりして。」

「えっ?…アァ、ベツニ気にしてないよ。うん。」


 橋川の声が片言になっているのがわかる。


「痛くなかったか?」


 橋川に近づいて聴いてみた。


 今、振り返れば自分は勝つために手段を選ばなかったと、反省している。


 いくら真剣勝負で、ルールがないからと言って、人をいきなり投げ飛ばすとは強引な事をしたな。と申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。


「本当にごめん。」

 今度は橋川に向かい合うように頭を下げて言った。


「いいよ。その事は!それにほら、真剣勝負だし、ルール無いし!」


 彼が懸命に自分をカバーしようとしているのが、伝わってくる。


「だけど…本当に痛いところとかないのか?もしあるなら保健室にでも連れていくが…」


 自分が、橋川に近づいた時、彼は後づさりした。


 自分と距離をとろうとしている。…当たり前かもしれない。


「__ごめん。俺、一人で念のため保健室行って来るわ!」


「あっ…。」


 追いかけようと一歩踏み出したが、先に進めるのを辞めた。自分が今言ってもただ邪魔なだけだと思ったからだ。


 橋川の体育館を走って出て行く姿が何故か彼ではないように感じた__。

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