第4話「眼鏡と身長」
次の日
僕は、いつも通り身支度をして学校へ向かった。
勿論、男装をして。
「柚樹!」
どこからか聴いたことのある声が飛んで来た。
櫻井だった。
「空我。おはよ。」
兄のふりをして名前で呼んでみる。
けれど、実際兄がどんな風にこの人や他の人と話しているかなんてわからないから予想の口調で話すことにした。
「おはよう。昨日お前の双子の妹にあった。」
「へぇー」
軽く話を流そうとする。
「やっぱり忘れられてるみたいだ、俺」
彼はさみし気な顔で続けて言った。
「そりゃそうだよな。俺が悪いし、俺のせいだし…」
この人が何について話しているのかさっぱり分からなかった。
ただ、分かるのは櫻井が悲しげな表情をしているということだけ。
だから今、変に回答してしますときっとややこしくなってしまう。
それでも僕は、軽く首を左右にふった。
「柚樹はずげーよな。誰とでもすぐ話せるし臨機応変って言っていいのか分からないけど、自分の夢にも突っ走って、頑張ってるし。」
「夢?」
「国民的アイドルとあれだろ?」
櫻井空我は僕の耳元で囁かれた。
どうやら本当にこの人は柚樹と仲が良いらしい。
柚樹が或哉の“ユキ”だと言うことは僕達家族しか知らなかったはずだった。
けど、この人は知っていた。
柚樹は自分からユキだと広める奴ではないし、広めたくはなかったらしいから自分から彼に打ち明けたのか、もしくは彼に気づかれたのか。
“あれ”と言うキーワードに引っかかるが、柚樹のふりをしてる以上聞くことは出来なかった。
けれど、柚樹がユキだと気づかれないのが僕にとっては不思議なくらいだ。
確かに柚樹は普段眼鏡をしていて髪のセットも違うけど、僕にとっては変わり映えの無い兄だ。
「珍しいな。お前が眼鏡してないなんて」
「最悪の事に修理中」
「バレなちゃいいな」
「多分ばれないだろ。男子校だし」
「けど、結構俺らの学校お前らのこと知ってる奴多いぞ?」
「嬉しいような、嬉しくないような。」
「どっちだ。」と彼は笑いながら言った。
兄もそこまで目は悪くない。
確かに1,0だった気がする。
けど眼鏡をかけている理由は変装、的な事もあるかもしれないが多分目をこれ以上悪くしたくないからかもしれない。
最近連絡とかで携帯をいじる事も多くなり、さらにスタジオやステージに当てられる眩しいライト達が目を焼き付け柚樹は「最近目の調子が悪い」と毎日のようにつぶやき、視力低下を気にしていた。
僕は小学生の頃から変わらず1,5だし眼鏡はかけたくない。
けど柚樹の代わりだから眼鏡はしなくてはいけない。
修理中なんて言ったけど実際柚樹が持ってるわけで僕には眼鏡がない。
…今日ぐらいにレンズなしみたいな伊達眼鏡を買おうと思う。
櫻井がなぜか僕のことを見下ろす。と言ってもそこまでの身長差はないのだがジロジロと見られる。
じれったい。
「なに?」
「あ、いやさ。お前縮んだ?背。」
「空我が伸びてんだろ。」
「だよな。縮まないよな。」
身長のことは多分柚樹にとってはタブーだ。
僕は女子の方では少し高い方ではあるけど、柚樹は男子だし僕とあまり身長差がないのをいつも気していた。
だからって柚樹が僕より低いわけでもなくそこまで高いわけでもない。
だからその変化に気づく櫻井は素直に凄いと思う。
まぁ身長の5、6cmはデカイかもしれないが…。




