42「久しぶり」
「じゃーん!出来たわよ」
スタイリストさんだと思われる女性が最後に僕の髪の毛にバレッタを付けて嬉しそうに言った。
「……こんな女子らしい格好初めてした気がします」
「あら、そうなの?ユキくんに似て美形さんなのに勿体ない」
そう言うと女性はほら見て見て。と姿見鏡まで僕を連れていく。そこにはネイビーフレアスカートにベージュブラウスの服装で2種類の大きさと色のハートの中央にはアクセントとしてシルバーのストーンが輝いているネックスを身につけ、その傍には軽く巻かれた髪の毛がふわりと肩にのせている人影がある。顔にはメイクがされていてマスカラとかチークとか今まで手を出したことの無いもので飾られた顔はまるで知らない人だ。僕の目の前に知らない女性が立っている錯覚を起こす。
「ほら、可愛いでしょ?」
女性が、ね?と同意を誘うように僕に視線を投げかける。それに思わず僕は頷きそうになる。
「……凄いですね」
「素がいいからよ」
ふふ。と女性は上品に笑った。
僕はなれないスカートにそわそわしながらメイクをしてもらった部屋から出ると少し先に桐生が佇んでいた。桐生もメイクをしてもらったあとらしくて先程に比べオーラが変わっている。桐生は確か柚樹の演じる主人公の親友役だ。桜丘高校とは違うブレザーの制服を着た桐生がこちらに気づきあ、と声を漏らした。
「ユキが女装したみたいだ」
「柚樹もこの格好するんでしょ?」
「あぁ」
柚樹もこの格好するのか……。僕より似合いそうだな。そんなことを思っていると背後から肩に勢いよく手を置かれた。
「二人とも元気そうだな」
「ユキ」
聞き覚えのある声と桐生が呼ぶ名に反応して後ろを振り向く。
「うわ、ほんとに柚樹じゃん」
「お前、清楚っぽい格好してるんだからもうちょい言い方考えろよ」
「なにそれ、意味わかんない」
「もう少し大人しめにしろって言ってんの」
「男の格好させてる柚樹に言われたくない」
いーだ。と子供の頃よくやったことを柚樹にやるとぷにゅと親指と中指で頬を掴まれた。
「ははせ」
「ここではユキな。柚葉」
手を離されないままアイドルスマイルを向けられた僕は頷くしかない。そうすると柚樹は手を離してくれた。
「赤くなった自信ある……」
「場所を考えろ、場所を」
そんなこと僕がしったことじゃない。と言いたいがまた同じことをされるのは嫌ので黙っておこう。近くで僕らのやり取りを見ていた桐生が口を開く。
「ユキ、ツアーの方で大変じゃないのか?」
「大変だけどこれも仕事だし、好きでやってるから大丈夫だ。心配してくれてありがとな」
柚樹が僕には使ったことないんじゃないかと思うほどの優しい口調で言うと桐生は照れながらほころんだ。
桐生って、こんな顔するんだな。
「桐生くん、少し来てもらっていいですかー?」
「はい、今行きます!」
また、雰囲気を変えた桐生が喋り出す。こういう時の彼はテレビに映る芸能人だ。彼はどの時が素なのだろう。
桐生が僕らの元から去っていくのを見計らったかのように柚樹が喋り出す。
「桐生とも仲良くしてくれたんだな」
「仲良く?どこが」
「桐生から話しかけるってことはそういう証拠だ」
「僕、昨日あったばかりだよ」
「じゃあ、その昨日で桐生のテストに合格したんだな」
「桐生のテスト?」
そんなものを受けた覚えはない。なにそれと柚樹を見ていると何も無かったのか?と聞かれる。
「あ、そう言えば協力がどうのって言われた」
「それは俺が頼んだんだ」
「それは聞いた。けど断ったよ。意味わからなかったし」
「は?!断った!?」
「何にそんな驚くポイントがあるわけ」
お前、ホントすごいな。うん。と何故か柚樹が1人で納得した後、それは合格だろうな。と彼は笑っていた。廊下にその声が響く。場所をわきまえるべきなのは柚樹の方でしょ。
「色々桐生について聞きたいことはあるんだけど、まずこのことについて聞いていい?」
僕は自分のスカートを軽くつまむ。ソワソワしていたのも制服のスカートみたいに感じてきてだんだん慣れてきた。
「今日ドラマについて聞いたんだってな」
「笑うならこの状況説明してよ」
「この撮影が終わってから説明する。だからまずは頑張れ」
「は?!なにそれ!」
「そろそろ撮影始めるので準備お願いします」
廊下の先から声が聞こえてくる。先程桐生を呼んだ声がした方と同じ方向だ。
ほら、行くぞ。柚樹の声とともに手を引かれる。そして僕は眩しいほど輝く会場へと導かれて行った。




