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一ノ瀬兄妹(に)は伝えたいことがある  作者: 久川梓紗
彼等の幼少時代
33/59

33話『下手な助け』

「橋川」


「なんだよ」


「多分だけどよ、お前が尊敬してるっていう櫻井?ってやつが怒ってたぞ」


「怒ってたって、俺に?」


「多分な」



 クラスメイトの柳瀬がいつも飄々としているくせに今はわざと怯えているふりをしている。てか俺、櫻井に今日怒られるようなことしたか?少なくとも今日はまだ何もしてないはずだ。と言うよりまだ会ってすらもすれ違ってさえもいない。


 それでも櫻井が俺の名前を呼んだ。普段ならありえない事だ。彼に構わずずっと付きまとってる時ならまだしも今は自分のクラスにいるだけだし……。



「桐生くん朝からいるって聞いたのにクラスにいないんだもん」


「せっかく朝から会えるチャンスだったのにー」


「残念ー」



 女子が嘆いている。


 桐生 晄杜。なぜか櫻井といつも一緒にいる芸能人だ。彼の外見は喧嘩をしそうには思えないし、むしろそういうのを嫌うタイプの人間だと思う。それなのに櫻井と一緒にガラの悪いヤツらと一緒に喧嘩している所を俺は見たことがある。その時の彼はまさに普通の俺みたいな問題児の高校生の顔をしていた。



「あ、橋川じゃんー。おっはー」


「はよ」



 彼について言っていた女子達が俺に気づいて挨拶をしてきたから軽く返す。女子たちはそれ以上踏み込んでこないでそのまま話しながら自分たちの持ち場に向かって行った。



「柳瀬、櫻井はどこにいたんだ?」


「ほんとにそいつかは声だけだったからわからねぇけど」


「声だけ?」


「あぁ。三階の講義室から怒鳴りつけるような声で『橋川ーーっ!』ってすげぇ迫力のある声で怒鳴ってたぞ」


「三階の講義室……あの使われてない教室か」



「あぁ。だからその場に俺しかいなくて逃げてきてしまったよ」

 最後の柳瀬の声がちゃんと聞こえていたのか俺にはわからない。ただ、教室を勢いよく飛び出して一度も中に入ったことがない講義室へ向かう。確か、七組の二つ隣の教室だ。



「櫻井っ!!」



 勢いのまま開けたドアは振動で勝手に閉まった。


 教室は明かりがついていなくて、誰もいないように見える。でも、そんなはずはないと教室の隅々を見渡した。



 櫻井、どこにいるんだ?



 俺が本当に櫻井から怒られてるだけならそれでいい。それがいい、俺の嫌な予感が当たってなければそれでいいんだ。



 教室の端っこ。


 俺がドアを開けた方の反対側に黒い影が見えた。俺は急いでそこに向かう。



「櫻井!?」



 櫻井が、俺を呼んだ意味。



 櫻井の下敷きになっているやつの顔を見たらなんとなく分かった。こいつは人が良すぎやしないだろうか。


 本当は今すぐ先生を呼びたいところだが、ここまで頑張った彼の姿を見たらそんなことも出来ない。だから俺はまず、櫻井を優しく床に置いてから彼の下敷きになっていたやつを移動させ、ロッカーに隠した。


 それからぶつを抜いて、近くにあったハサミに小細工をし、先生を呼んだ。


 先生から凄く怒鳴られ、櫻井が救急車に運ばれるのを見届けたあと俺はやつを隠した教室へ戻った。

 やつを起こすためだ。



 ロッカーに無理やり収めるようにしまったのにこいつは今も気絶したままだ。


 端整な顔のまま綺麗に目を閉じている。



「おい、起きろ」



 身体を軽く揺さぶってみたが起きる気配はない。俺の何かが切れる音がして、彼の頬にビンタをしていた。


 それでも彼は起きなかった。


 だから、俺はそのままにしておくことにした。



 手についた血を綺麗に拭き取ることだけは忘れずに。





「櫻井っ」


 学校が終わったあと俺はすぐに櫻井が運ばれた病院へ向かった。

 受付の人から案内された病室へ行くと、櫻井が何もなかったように読書をしていた。



「橋川」



 俺の声に気づいた櫻井が本を置いて俺を見る。


 その瞳はいつもと変わらずちゃんと輝いていた。

 


「お前、起き上がって大丈夫なのかよ」


「大丈夫じゃないだろうけど、落ち着かなくてな」


「大丈夫じゃないなら、寝てろっ!」



 無理やり、でも力はそんなに入れずに櫻井の状態を倒した。彼も力がそんなに入らないのか俺の思うがままだった。


 それから櫻井が拗ねたのか、布団に隠れるように顔を隠す。

 彼になんであんな無残な状態になっていたのか聴きたい。けれども俺がそれを聴いていいのかわからない。



「……橋川、ありがとな」


「え」


「俺の意図、気づいてくれて。桐生も護ってくれて」



 それからは本当に櫻井はピクリとも動かなくなった。


 寝たふりだろうなとは思ったが、あえて何も言わず「また来るよ」それだけの言葉を残して病室をあとにした。

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