32話『鉄とサビの臭い』
「俺はやらない」
「なんでだよ」
「俺はそういう柄じゃないからな」
「空我が柄じゃなかったら俺なんか似合わない」
晄杜が珍しく駄々をこねる子供みたいに頬を膨らませる。女子ならその姿のお前を見て可愛そうとか思って言うことを聞くかもしれないが残念ながら俺は男だ。お前のその顔を見たって騙されないからな。
「晄杜、ひとつ聞いていいか?」
「なに?」
「首、どうしたんだ」
「あぁ、これか」
晄杜の首には赤く縄を縛り付けたような跡があった。何でこんな痕が付いているのか不思議に思って聞いてみた。そしたら晄杜は何事もないようにいつもの笑顔を浮かべて「死のうとしたんだよね」と言った。
俺もあっけらかんと言われたものだから最初は深く考えなかった、と言うより考えられなかった。“死のうとした”なんて単語がその口調から、表情から出てきたとは思えなかったからだ。
やっと言葉の意味を理解して言葉を発した時には晄杜の手に、鋭く光った折りたたみナイフが握られている。
「晄杜?!」
「空我俺、疲れたよ」
晄杜がナイフを振り構える。一瞬怯んで目を閉じようとしたが、無理やり目を開かせた。ナイフの先は俺じゃない。晄杜だっ!案の定ナイフはまだ握られたままで、晄杜は淋しそうな顔をしている。そんな顔して、死のうとすんじゃねぇよ。
俺は晄杜に向かって突進した。晄杜の成長した身体が俺を受け止めきれず崩れ落ちる。その拍子でか晄杜の腕が勢いよく“落ちてきた”。
「ッ!!」
鉄の感触も錆び付いていく過程も自分の刺激臭のせいで分かった。“鉄の臭い”“サビの臭い”どちらも当てはまるのは本当のようだ。
しかし、誰か来ないだろうか。晄杜の顔を見ることは出来ないがきっと気絶しているだろう。俺と一緒に倒れてからビクリとも動かない。彼の身体から呼吸音はしてくるから死んではいない。
あたりを見渡すことも動くことも出来ない時、どうやって助けを呼ぶんだ?でももし、動けたとしても俺は助けを呼べただろうか?……呼べないだろうな。今まで頼るなんてことを無視していたから、ここで身を感じるのか。
ここは使われていない教室だ。晄杜と時間を潰す時にはここをよく使う。あまり人気をなくて管理もされていない場所だから晄杜を追いかけてくるファンも俺を追いかけてくる先生もいなくて丁度いい場所なんだ。そしてそれが表に出たか。このまま俺も気絶するのだろうか?まぁまだ、気絶するだけなら良いんだけどな。
足音が聞こえた気がした。ここは一応腐れでも使われている廊下に面しているからこの教室の存在は皆無でも誰かは通っている。この状況を見つけてほしい。だが、この状況を真に受ける人物には見つかりたくない。普通のやつがこの状態を目にしたら晄杜が、疑われる。それは、防がなくてはならない。
「___!!」
俺が絞り出した声は果たして聴こえたのだろうか?
俺にはその後の記憶が全くなかった。




