34『怒れよ』
目が覚めた時にはなぜか保健室にいた。
いたはずの講義室でもないしそばにいたはずの櫻井もいなくて少し動揺してしまう。けれど、その動揺はなんの意味も持たなかった、と思う。
俺が目を覚ました時には女子が何故か沢山いて、上体を起こした時には「良かったー」と声を挙げられた。そこに居た女子に「櫻井はどこ?」と聴いたら「何で?」と返されるし、仕事が終わって家に帰っても誰からも叱られなかった。
もしかしたら、あれはただの夢だったのかもしれない。
だとしたら最悪な夢だ。なぜなら俺が、櫻井にナイフを向けたのだから。
そう言えば、朝持っていた俺のナイフは?
俺、なんでナイフなんて持ってたんだっけ。
あぁ、そうだ。死のうとしたんだ。
死のうとした?どこで……。
一気に血の気が引いた。顔が青くなってるのが見なくても分かる。
俺、もしかして本当に___。
櫻井を殺した……?
その考えにたどりついたらいてもたってもいられなくなって、櫻井に電話した。
プルルプルルと電話のコールがなる。このコールさえももどかしい。
早く繋がれ、早く、早くっ!
しかし、俺の願いは通じず女性の機械的な音声だけが流れた。
俺は固まった。
携帯が手から滑り落ちて、膝もガグリと崩れ落ちた。
落ちた携帯を取ろうと手を伸ばしたけど手が震えていて上手く取れない。
とりあえず、メールだけでも櫻井に送りたい。
その一心で携帯を何度も掴もうとし、やっとの思いで携帯を手にしたが、手の震えは今ば止まらず、携帯を開くことも操作することもいつのも何倍もの時間を使ってやっと行うことが出来た。
メールを一文字一文字震える手でちまちまと送る。早くメールを送りたいと内心が焦るばかり誤字ばっかりで何度も打ち直す。
こんな単純で手馴れたはずの作業に俺は何倍、何十倍もの時間をかけてやっと送ることが出来た。
だけど、メールを送ったからと言って安心はできない。
櫻井がもし、本当に俺が殺したとしたらメールなんて一生帰ってこない。もし彼が無事だとしてもこの時間は寝てるはずだ。だから、結局結果が分かるのは早くて明日の朝。
それまで俺は大人しく待っていられるだろうか。
いや、待てるはずがない。
でも、もし学校側は生徒が死んだとしてらあんなにいつも通りでいられるのだろうか。
俺が保健室から出て家に帰るまで学校はなんの騒ぎも無くいつも通りだった。
だから、これこそもしかしたら……。
どちらが一抹の考えか、よく分からないけれどもただただ櫻井の無事を願うだけだった。
それから俺はずっと櫻井のことを考えていたら朝になった。
寝ていない頭には朝日は眩しすぎだ。
それでも俺は朝が来たらやろうと決めていたことがある。
学校に早く行って、櫻井に会いに行くかもしくは彼に聴こうと決めていた。
もし、櫻井が学校に来ていなかった場合後者をやる。そうでなければ彼と会う事はなんとなく避けたい。でも今はそれどころではないのは分かる。
自分で犯した事だ。これは、俺がちゃんと自分の行動で何とかしなくてはならない。
幸いにも今日も仕事が午前中に入っていない。
俺は適当に身支度をして、いつもよりも早く家を出た。
何故か、櫻井のクラスに彼がいた。
それも櫻井の机に腰をかけて俺を待っていたかのように真っ直ぐドアを開けた俺を見ている。
「……」
二人の間に沈黙が現れる。
聴こうとしていたことも本人を前にするとなかなか口から出てこない。
この沈黙を破ったのは彼の方だった。
「君なら来ると思ったよ」
柔らかい瞳を向けられた。
だが、こういう表情の時の彼が一番怖いことは知っている。
それでも俺は彼に聞かなくてはならない。櫻井はどこにいるか、と。
「櫻井は」
「生きてると思う?それとも君のせいで、死んだと思う?」
俺の言葉を遮って彼は挑戦的な笑を向けてきた。
彼がジリジリと近づいてきて距離が縮まる。
「なぁ、お前は何がしたかったんだよ」
俺は息が止まった。
なぜなら彼が泣いていたからだ。
「俺を攻めるんじゃないのかよ」
意図もなく出た言葉。
いや、違う。俺は違う反応を待っていたんだ。なのに、何でお前は俺の肩で泣いて俺を強く抱き締めているんだよ。
「本当はお前を殴りてぇ。気が済むまで。櫻井がおった怪我以上のものをお前にし返したい。けど、出来ねぇんだよ」
「なんでだよ」
「だって、お前がこうなったのは俺のせいだろ……?」
彼の泣き声なんて初めて聴いた。
彼は、流星は、ずっと気にしていたんだ。
昔の些細なことを。俺と流星以外にとっては何でもない本当に小さな出来事を。




