13話「両者棄権」
桜闘らしいこと、この年やったのかな?((
今回は櫻井side
「あいつ…何やってるんだ?」
校庭のど真ん中に立っている俺は、ただ一人の人物を探す。
「決勝戦に出る方は直ちに本部まで来て下さい。」
アナウンスもただ一人に向けて鳴り響く。この言葉を何回聞いたのだろうか。周囲も聞き飽きた言葉とまだ始まらないのか?と言う気持ちでざわめき始める。
「あと、三分後にも来ない場合は欠場と見なして棄権とします。」
アナウンスが先程より大きな音量で空気を震わせる。
本当にあいつなにやってるんだ…?
校庭に広がる砂が風と共に肌に当たる。
空を見てみると先程まで水色だった空が灰色に変わっていて、雨でも降るのではないかと思わせる。
「一ノ瀬さーん。一ノ瀬さーん?」
アナウンスがいない人物の名前をあげる。
一ノ瀬柚樹。彼が今、本当はいるはずの舞台に現れない。勝負を投げ出したか?…いや、あいつはそう言うことをするはずがない。じゃあ何かあったのか?誰かに止められているとか?…それも考えにくいだろう。きっと彼奴なら止めようとしている奴らと喧嘩して無理にでも出てくるだろう。それほどにこの闘いを楽しみにしているのだから。__じゃあ何があって彼奴はここに来ない?
「残り一分ですよ!一ノ瀬さん!」
アナウンスがまた灰色の空に振動を与える。
__彼奴、一ノ瀬柚樹ではなかったらここに現れない。
何故か、そんな考えが俺の中を駆け巡った。
彼奴ではない?さっきまでいた一ノ瀬柚樹と言う存在が柚樹ではないと?
自分の何処かの思考が考えたことなのに笑えてくる。
そんなはずがないだろう?何故あいつじゃない奴が勝負をしなくてはならない?それに柚樹と似過ぎではないか。
「あと三十秒ですよ!」
アナウンスがまた、届いているかも分からない人物に投げかける。
…似ている?
もしかしたら___。
俺の中に一人の人物の顔が過った。
その顔は柚樹ではなく、そいつの双子の妹…一ノ瀬柚葉。けれどこの考えは考えにくいものでもあった。柚樹の妹は俺が知っている限り喧嘩とかを好んでしそうにないからだ。それに柚樹が何故、柚葉と交代をしようと考えたのかも分からない。もしくは柚葉が柚樹と変わらなくてはいけない状態だったのか?
色々な考えが俺の頭の中に浮かんで来て、柚樹か柚葉だと思われる人物を立ち尽くしながら待っているのが嫌になった。
「櫻井さん!?」
アナウンスが俺の名を呼ぶ。
周囲がざわめく。
俺は、校舎の方へと走っていた。
闘いを投げ出したと笑う奴もいる。どうしたんだ?と戸惑いを表しているものもいる。
そんな中で一人、たった一人の男が満面の笑みを浮かべて走っている俺に話しかけた。
「遅いですよ。櫻井さん?」
その声には聞き覚えがあった。嫌な声音が耳に響く。俺は思わず立ち止まり後ろを降り返って声の持ち主を探した。
けど、その人物は何処かの人影に紛れたようで姿は見れなかった。
『遅いですよ。櫻井さん?』
彼が俺の名を読んだ時、疑問系に聞こえた。それはきっと俺の名がわからなかっのではなく、声音には出さないで俺を笑っていると言う証拠の疑問系。
つまりさっきの彼は俺よりも先に柚樹の何かに気づいている。それが、柚樹ではなく誰か違う人物であると言うことなのか、違うことなのかはまだ分からない。けれどその彼にももし、俺の考えがあたっていて柚葉が柚樹の代わりをしているとしているなら…柚葉が危ない。
そうただたんに思ってはいられなくて、先程より早いスピードで校舎の方へ走った。
もう、あいつを傷つけたくはない。あいつが俺を覚えていなくても。俺は、君を覚えているから。
校庭の中に入る前に、二つの影がある部屋から見えた。
その影を気にしないで校舎の中には入ることができず俺は、その影が見える部屋の窓を思いっきり開けた。
窓を開けた時、余程力が入っていたのか鍵がついている方が壁に当たり、ドンッととても鈍い音がその部屋に響き渡る。
窓を開けるとカーテンが風に誘われ踊りだし、部屋の中を見せた。
カーテンの先にあった部屋は保健室で、そこに俺が知っているここの生徒が二人、ベットの上で座っていた。
少なくとも、姿はここの生徒に見える。
「え?」
「櫻井!?」
一ノ瀬柚樹の姿をしていると思わせる人物と橋川流星が俺の事を驚いた表情で見てくる。
正直、俺の方が驚きたい。
「お前ら、何やってるんだ?」
一言呟いて、窓枠を飛び越えた時に外履み脱ぎ、保健室へと入る。
「何って?」
橋川が俺に不思議そうに答える。
「不思議そうに答えると言う事はお前はいつもそう言う事をしていると言う事になるが?」
ベットに座っている…橋川はベットの上に座っているが、一ノ瀬柚樹だと思わせる人物は橋川の膝の上で跨り、橋川と顔を見合わせる感じで座っている。
この状況を見て帰りたくもなる俺もいた。
二人の目の前まで来て、二人の事を見下ろす。
「…空我。ごめん。」
ぅん?
柚樹らしき人、きっと彼は、彼女は柚葉だとは思うが、その柚葉が申し訳なさそうに顔を俺に向けながら言った。
「何が?」
俺の声はとても冷たかった。何故こんなにも冷たい声を出したのかは自分でも分からない。けれど、そんな声だった。
「勝負、僕は投げ出してしまった。お前と闘えるせっかくのチャンスだったのに。」
柚葉は自分の拳を思いっきり握っていた。
さっきまで座っていた橋川の太ももから離れ、柚葉は俺の目の前に立つ。
そして俺に頭を下げた。
「ごめん!本当にごめん!今度、何かで埋め合わせするから許して!」
頭を下げている柚葉の姿は柚樹みたいだった。
と言って柚樹はこんなに律儀に頭なんて下げないが…。
でも、その人を思っている優しさは柚樹そのものだった。
…それともう一つ。兄弟だな。と思わせてしまう言葉が柚葉から出た。
「僕の気が許さないから。それか…今からでも闘うか⁈」
「「ぷっ」」
俺と橋川の吹き出しが揃って聞こえ、どちらも笑った。
「なんで二人揃って笑うわけ!?」
柚葉がベットの上で笑い転げている橋川とお腹を抑えて笑っている俺を見て抗議する。
「やっぱ一ノ瀬だ。」
俺は漏れた吐息と共に安心感を覚え柚葉の頭を撫でた。
俺の手に収まるほど頭は小さくて、もっと撫でたくなってしまう。
「だから僕は子供じゃないんだって!!」
柚葉が俺に吠えるように言う。
「そうだな。ごめん」
柚葉の頭から離した手にはまだ暖かさや髪の手触りが残っていて、離したと実感した時には寂しさを感じた。そしてついその手を見てしまう。
「空我?」
俺の名を呼ぶ柚葉を見ると、また触れたいと思ってしまう自分がいた。
自分の手に拳を作って柚葉に笑いかけた。
「棄権したこと気にすんなと言ってもお前は気にするんだろうけど、もう謝るんなよ?俺だって棄権しちまったんだから。」
「マジ!?」
「なんで橋川が驚くんだよ。」
「え、あー…なんで?」
「俺が知るかよ。」
柚葉が俺と橋川の会話を聞いてか楽しそうに笑った。
__きっと君は自分が棄権したことについて俺が怒ってここに来たんだと勘違いしたんだろう。だから俺に謝った。それと自分のプライドが許さないと言うのもあったとは思うけど。闘いに執着心を持つ君は始めて見たよ。もしかして柚樹の執着心が伝染したのかな。
俺はもう、君にあんな想いはさせたくない。だからいくら君が昔より強くても、あの出来事を忘れていても俺は君のことを守るよ。君が俺を必要としない限りはずっと__。
それが君との約束だから。




